第28話

公園内に入ってくる足音が聞こえて視線を向けると、明久くんがとまどった表情で近づいてくるのが見えた。



足の骨折はまだあまりよくないようで、杖をついている。



「あの、話って?」



明久くんはあたしと琴葉を交互に見て聞いた。



「まずはあなたからちゃんと里奈に謝ってください」



初対面のはずだけれど、琴葉はピンッと背筋を伸ばしてそう言った。



明久くんはハッと息を飲みそしてあたしへ視線を向けた。



その目を見るだけで、今のあたしは心臓がドキドキしてきてしまう。



あんな風に助けられたら誰だって意識してしまうと思う。



「あの、行き過ぎたことをして、本当にごめん!」



明久くんはそう言って深く頭を下げてきた。



あたしが明久くんに怯えていたことは紛れもない事実だ。



それをちゃんと知ってもらった上で、あたしからも明久くんに言わないといけないことがある。



きっと、あの日の明久くんはあたしの非じゃないくらいの恐怖を感じたはずだか

ら。



そして、その恐怖を与えてしまったのはあたしのせいだから。



「あたしも、怖い思いをさせてしまってごめんなさい」



あたしは明久くんと同じように頭を下げた。



「それと、助けてくれてありがとう」



顔を上げてそう言うと、頬が熱くなるのを感じた。



そんなあたしを琴葉が微笑んで見守っている。



「いや、それは僕が勝手にしたことだし」



あまり女性と会話することも慣れていない明久くんは、すでにしどろもどろになっている。



だけど本題はこれからだった。



わざわざ明久くんを呼び出したのにはそれなりの理由がある。



あたしは一歩前に出て明久くんに近づいた。



明久くんの頬が少し赤らむのがわかった。



あたしはそんな明久くんの手をにぎしりめる。



「明久くん。あたしと付き合ってください」



声が震えた。



人に気持ちを伝えるということがこんなに緊張して、泣きそうになるものだと生まれて初めて知った。



トオコちゃんもきっと、こんな気持ちであたしに思いを伝えてくれたんだろう。



「え!?」



明久くんは顔を真っ赤にして目を見開いている。



「あたしじゃ、ダメかな?」



OKしてもらえると思っていたわけじゃない。



だってあたしは明久くんをストーカー扱いして、警察に相談までしているのだ。



断られる可能性の方が高いと思う。



しかし明久くんは顔を赤く染めた状態で、何度もうなづいたのだ。



「ぼ、僕でよければ、そのっ!」



しどろもどろになりながらも、必死でOKしてくれている。



その瞬間あたしの心が躍りだす。



「だけど、付き合い方には注意してね」



浮き立つ気持ちに水をさすように琴葉が言った。



「今までみたいに尾行したり、しつこくメッセージをするのはなし」



「は、はい」



明久くんの背筋が伸びる。



「ちゃんと距離を保って付き合うんだよ?」



「わかりました」



まるで母親から忠告を受ける子供のような明久くんに、つい笑ってしまった。



「琴葉からの許しもでたし。これから、よろしくね?」



そう言うと、明久くんは満面の笑みでうなづいたのだった。




END

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ドライブスルー彼氏 西羽咲 花月 @katsuki03

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