第27話
「どうしても里奈ちゃんのことを諦められなくて、何度か尾行をしていたんだ」
明久くんの告白にあたしは大きくため息を吐き出した。
そんなことだろうと思っていた。
「そのときに同じクラスの面島と会っていることがわかったんだ。あいつ、里奈ちゃんから封筒を受け取った後友達と一緒に豪遊していたから、おかしいなと思ってたんだ」
「そっか……」
明久くんはずっと前から異変に気がついていたみたいだ。
あたしは下唇をかみ締めて、涙がこぼれないようにした。
「それから、里奈ちゃんがどうやってお金を稼いでいるのかも……」
明久くんはジッとあたしを見つめてきた。
あたしはその目を見つめ返すことができない。
あたしはもう、そんなに真っ直ぐで純粋な目を持っていないから。
「僕、どうしても我慢できなくて、許せなくて。それでナイフを持ってまた尾行をしたんだ」
「覚悟を決めてたってことだね」
明久くんはうなづいた。
「僕はこんな性格だから、こんな風にしか里奈ちゃんを守ることができなかった」
あたしは明久くんのボロボロになった体を見つめた。
肋骨や足は骨折しているし、顔も腫れ上がっている。
それでも明久くんは逃げなかったんだ。
その時の光景を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。
「ひとつ気になることがあるの」
「なに?」
「SNSを使っていたのも明久くん?」
その問いかけに明久くんは首をかしげた。
あの、乙女高校の噂ばかりを書いたSNSのことだ。
「それはきっと、面島たちの仲間がやったことだ。あいつら、元々乙女高校には目をつけてたから、情報を集めたりしてたんじゃないかな」
明久くんの言葉にあたしはうなづいた。
現役女子高生の裏AVを作ろうとしていた彼らならやりかねない。
思えば、隠し撮りをされていたのはなにもあたしだけじゃなかったんだ。
他の子たちの写真もあのSNSには投稿されていた。
あたしがドライブスルー彼氏を利用していることを知った明久くんが、わざとあそこを使っていた可能性も出てくる。
元々、あたしをカモにする気でいたのかもしれない。
そういうことも、徐々にわかってくるはずだった。
すべての真相が明らかになってあたしはゆるゆるとため息を吐き出した。
「本当にごめん」
「どうして明久くんが謝るの? 助けてくれたのに」
「でも、僕がストーカーみたいなことをしなければ、里奈ちゃんが何度もドライブスルー彼氏を使うこともなかったのかなって思って」
その言葉にあたしは瞬きを繰り返し、それから声を上げて笑ってしまった。
最初に選んだ明久くんのことを好きになれていれば、確かにこんなことには巻き込まれなかった。
だけどそれは明久くんのせいじゃない。
ほとんどが自分で巻いた種だ。
それを自分のせいだと言って悩んでいる明久くんはちょっと真っ直ぐすぎるのかもしれない。
だからこそ、あたしへ対しての行為もエスカレートしたんだろう。
笑っているあたしを見て明久くんは戸惑った表情をしていて、どうして笑われてい
るのかわかっていないみたいだ。
あたしはそんな明久くんを見て、心からこの人のことが好きだと感じられた。
でも、今はまだ言わない。
ちゃんと怪我が治って日常が戻ってきてからだ。
「じゃ、あたしはもう行くね。早くよくなってね」
あたしはそう言い、病室を後にしたのだった。
☆☆☆
警察官になにがあったのか説明するとき、あたしはようやくドライブスルー彼氏について説明をした。
本当にそんなものがあるのかどうか疑われたが、実際に行ってみればわかることだった。
きっと、あの場所は撤去されるだろう。
そして、事件発生から一ヶ月が過ぎていた。
この日、あたしはあの公園に足を踏み入れていた。
ここへくると男たちに襲われそうになったときのことを思い出して、全身に鳥肌が立つ。
だけどここは彼に助けてもらった場所でもあった。
あたしにとって大切な場所でもある。
「大丈夫?」
琴葉に聞かれてあたしはうなづいた。
さっきから緊張してしまって落ち着かないでいる。
あの出来事についてはちゃんと琴葉にも説明をした。
琴葉はまるで自分のみに起きたことのように一緒に泣いて、そしてあたしの体を抱きしめてくれた。
そして、今日は……。
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