第26話

ただ、そんなことを言っているのが本当に靖くんなのかどうか疑問ばかりが浮かんでくる。



子供の頃からの憧れだった靖くん。



優しくてサッカーが得意で人気者だった。



目の前にいるのは、本当に同一人物だろうか?



「これ、バラされたくないだろ?」



そう言って靖くんはあたしにスマホを見せてきた。



そこに表示されていたのは、あたしが大谷さんと2人でホテルに入っていく姿だったのだ。



いつの間に!?



「卑怯だぞ!!」



明久くんが叫ぶ。



靖くんはすべての話は終わったという様子で、女の子たちと一緒に公園を出て行ってしまう。



「待って!!」



こんな状況になってもまだ信じられなかった。



靖くんはこんなことをする人じゃないと思っている自分が情けない。



借金もバイトもそして告白も。



全部嘘だったなんて……。



絶望に流されそうになったとき、明久くんが殴られていた。



「邪魔だよ、どけろ」



男がそう言ったときには明久くんはすでに横倒しに倒れこんでいた。



4人の男たちが近づいてくる。



1人の手にはビデオカメラが握られていて、あたしは瞬時に自体を把握した。



『現役女子高生の裏AVに出てもらう』



靖くんがさっき言っていた言葉を思い出す。



まさか、本気でそんなことをするつもりなんだろうか。



ただの脅しじゃなかったの!?



近づいてくる男たちはみんな舌なめずりをしているように見えて、全身に寒気が走った。



後ずさりをしていたら、後方にベンチがあってそのまま椅子に座ってしまった。



男たちからもう逃げられないと笑い声が聞こえてくる。



まさか、こんなことになるなんて……。



男たちの手が伸びてきてあたしに触れそうになったときだった。



男の動きが止まった。



「触れさせない!」



そう言って男の体を後ろから羽交い絞めにしたのは明久くんだったのだ。



あたしは驚き、目を見開く。



どうして彼があたしを助けてくれようとするの?



「離せよ! 邪魔だな!」



男は軽々と明久くんを突き飛ばす。



明久くんは地面に転がるが、すぐに体勢を立て直して再び男に飛び掛った。



「絶対に触れさせない!!」



すでにナイフは靖くんに取られてしまっている。



相手は4人もいて、とても勝ち目なんてない。



それなのに明久くんは立ち向かう。



な何度突き飛ばされても、殴られても、絶対に諦めない。



「めんどくせぇな! こいつを先にやっちまってからだ!」



男は何度も掴みかかってくる明久くんに痺れを切らし、あたしから離れて行った。



「逃げろ!!」



自分に関心が向いた瞬間明久くんは叫ぶ。



しかしその直後に殴られて、明久くんの声は聞こえなくなってしまった。



「なんで……」



震える声で呟いた。



なんでこんなことをしてくれるの?



あたしは明久くんのことを怖がって、メッセージだってブロックしたのに。



「逃げてくれ!!」



殴られ、蹴られながらも明久くんは叫んだ。



あたしはその声に突き動かされるようにしてベンチから立ち上がり、公園から逃げ出していた。



「誰か助けてください!」



大声で叫び、通行人を呼び止める。



その時、気がつけばあたしの頬に涙が流れていたのだった。


☆☆☆


通行人の人が警察を呼んでくれたおかげで、大事になる前に男たちはちりぢりに逃げ出していた。



明久くんに駆け寄ると彼は「無事でよかった」と微笑んでそのまま意識を失ってしまった。



「明久くん!」



声をかけても反応はない。



「きっと気絶しているだけだから大丈夫。救急車を呼ぶから」



通行人の男性にそう言われてあたしは何度もうなづいた。



早く明久くんを助けてあげて!



そんな思いで、一杯だったのだった。


☆☆☆


明久くんが気絶したときは焦ったけれど、搬送先の病院でうっすらと目を明けた。



「明久くん、大丈夫?」



すぐに声をかけたけれど、明久くんは状況を把握していない様子だった。



「里奈……ちゃん」



口をあけると傷口が傷むようで、明久くんは顔をしかめた。



「そうだよ。ここは病院。わかる?」



質問をすると明久くんはうなづいた。



それから微笑んで「無事だったんだね?」と、聞いてきた。



自分が大変な状況なのにあたしのことを心配してくれているのだとわかると、胸の奥がジンッと熱くなった。



「明久くんはどうしてあそこにいたの?」



あんなタイミングで、しかもナイフまで持って現れるなんて調子がよすぎると思っていたのだ。



すると明久くんは困ったように目を伏せた。



なにか、言いにくいことがあるみたいだ。



あたしはなんとなくその事情を察して、微笑んだ。



「今日は助けてもらったんだから、怒らないよ?」



そう言うと、明久くんは観念したようにあたしへ視線を戻した。

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