少女から大人への階段を一歩登った令嬢

甘い秋空

一話完結 まさか、Cクラスとは



「おい、一年生、道を開けろ」


 王立魔法学園の廊下で、教室への移動中に、大きな声で、背後から上級生が威嚇してきました。


 中等部一年生の私たちは、サッと左右に分かれ、道を譲ります。



 朝から嫌な上級生と会うなんて、今朝の新聞の占い欄には、書いてなかったのに。


 最近の占い欄は、なぜか、以前のようには当たらなくなっています。


 上級生が通り過ぎるまで、頭を下げ続けました。



「アップルさん、今は我慢しよう」


 同級生のジェイ君が、私の怒り顔を見て、落ち着かせてくれます。


 私は侯爵家令嬢のアップルです。でも、学園の中等部では、爵位は伏せられており、ただの一年生の令嬢として振舞わなければなりません。


 銀髪を二つに結び、燕尾服に似た上着、パンツルックという制服に身を包んでいます。


「ジェイ君が言うなら、我慢します」


 彼の爵位も伏せられており、所作が上級貴族で、この王国では数少ない黒髪なのに、イケメンの情報を集めている同級生であっても、彼には全く心当たりがないとのことでした。




 教室に入り、席に着きます。


 私の席は、最後尾の窓側で、ジェイ君は私の隣です。


 そのまた隣には、金髪の物静かな令嬢が一人座ります。


 クラスは、令息5名、令嬢6名の11人です。入学前、Cクラスは10名と聞いていましたが、1名増えたようです。たぶん、コネ入学だと噂されています。


 全寮制の学園なので、中等部から入学する物好きな貴族は、数が少ないです。



「まさか、Cクラスとは」

 ジェイ君がつぶやきました。


 学年は成績順にAからCクラスに分けられ、私たちは……


「ですね」

 私も、相槌を打ちます。


 いや、私の筆記試験は100点です。でも、魔法試験が0点なので、平均50点。たぶん、私は学年で最下位です……


 初等部の時は、たくさんの初級魔法を使えて、聖女とまで噂されました。


 けど、中等部への入学試験の直前から、なぜか魔法が使えなくなりました。


 大人の女性からは、魔法はそのうち使えるようになるからと、慰められましたが、入学式が終わった今でも使えません。




「僕は、上級生にも顔が利くから、何かあったら言ってくれ」


 偉そうに、いや実際に偉いのですが、金髪碧眼の王子が大声で威張ります。


 なぜか王子がいる、学園最下位のCクラスです。



「あんたに言うくらいなら、豚に相談するわよ」


 私は、誰にも聞こえないようにつぶやきます。


 入学式で、王子は、新入生の代表として挨拶を読み上げていました。でも、中身が空っぽなのは、クラスの皆は知っています。


 実は、あの王子の婚約者候補に、私の名前も挙がっています。貴族の義務に政略結婚があることは、初等部の時に教わりました。



    ◇



 お昼休み、私は自分の席でお弁当を食べます。


 Cクラスの教室は1階で、私の席は窓際なので、庭木の間から、運動場が見えます。


 今日の天気は、のん気に青空です。



「あ、王子が上級生を連れて、どこか外に向かってる」

 思わず、口に出してしまいました。


「午後の授業はサボるつもりだな」


 ジェイ君が、いつの間にか私の後ろに立っていて、窓の外を見ていました。


「王子とのつながりを求め、隣国からこの学園に入ったが、無駄に終わりそうだな」


 ジェイ君は、あの王子の本性を見て、あきれています。



    ◇



 数日後の教室です。

 クラスの緊張が少し解けてきた頃です。


「明日、運動場にモンスターが運び込まれるぞ」

 教室で、王子がビッグニュースだと話します。


 どうも、ハンターがモンスターを眠らせて捕獲したので、眠らせたまま、見世物にするようです。


 運動場に急遽張られた陣幕は、見世物のためのようです。


「僕は招待を受けている」


 王子の自慢話が始まりました。招待券を何枚か見せびらかしています。


「あの枚数は、仲間の上級生たちと見物に行くつもりだな」


 ジェイ君が、またあきれています。


「明日も授業があるのに」

 私も、あきれます。



    ◇



 今朝は、グループに分かれての授業です。


 私と、物静かな令嬢、ジェイ君、あの王子の四人組になりました。


「アップルさん、王子は99%来ないと、私の占いに出ています」


「え?」


 金髪で物静かな大人っぽい令嬢が、言いました。



「だろうな。モンスターを見物に行ったんだろ」

 ジェイ君が、頷きます。


「あんな王子の事はどうでも良いです。今、占いって言いましたよね?」


 私は、興奮してきました。


「私は、新聞の占い欄を、毎日チェックするほど、占いが好きなんです」


 勢いで、秘密の趣味を明かしてしまいました。


「でも、最近、あの占い欄が当たらなくなって…以前はとても当たっていたのですよ」


 止まらなくなってきました。


「ごめんなさい」

 突然、令嬢が、謝りました。


「あ、ごめんなさい、私、興奮しちゃって」

 なにか失言したようなので、私も謝ります。


「そ、そうだ、お昼休みに、三人でお弁当を食べよう、そうしよう、ね?」


 ジェイ君が気を使ってくれました。なんだか、男らしくて、うれしいです。



    ◇



「私は占いが得意だったので、新聞の占い欄を受け持っていたんです」


 お昼休み、お弁当を食べた後、教室の後ろで、三人でオシャベリします。


「え! 貴女が占っていたのですか」


 私は、あこがれの占い師が、彼女だったと知って、驚きました。


「でも、今は魔法の力が消えて、占いが出来なくなってしまったのです」


「それで、急遽、この学園に入学しました」


 金髪の彼女が、うつむきました。


「俺も、魔法が使えなくなった。入学の魔法試験は0点だった」


「え? 私も魔法が使えなくなっています」


 なんと、三人とも魔法が使えない仲間でした。



「グオォォ」

 聞いたことのない叫び声が、開けていた窓から飛び込んできました。


 運動場の陣幕が飛ばされ、モンスターが暴れているのが見えました。


 モンスターは、馬の倍以上の大きさで、背中にトゲトゲが付いたゴリラみたいなヤツです。


 背中に、王子が引っかかっています。


「まずい! 町に逃げると大変だ」

 ジェイ君が、モンスターへと駆け出しました。


「待って」

 私たちも向かいます。




 運動場に何人か倒れています。王子は、モンスターの背中のトゲに衣服が引っかかって、振り回されて気を失っています。


「トゲゴリラだ、興奮している、動きを止めよう」

「影縫い!」


 ジェイ君が、モンスターの影から鎖を出して拘束する魔法を発現させました。


「発現できたが、早いスピードに対応できない」


 モンスターは、一瞬、動きを止めましたが、すぐに魔法を破りました。



「アップルさん、電撃を! 60%の確率でアイツは痺れると、占いで出ました」


 金髪の令嬢が、占いの魔法を復活させたようです。


 私だって、魔法を復活させてみせます。


「金縛り!」


 電撃で痺れさせる魔法が発現しましたが、効果がありません。


「片方の足に集中させて!」


「はい、金縛り!」

 モンスターは、右足だけが痺れ、転倒します。


 はずみで、背中の王子は投げ出されました。


「影縫い!」


 ジェイ君の拘束の魔法が、決まりました。モンスターが動けなくなっています。


「君たち、離れていなさい!」

 ハンターたちが駆けつけてくれました。


 私たちより、ずっと上手に、モンスターを眠らせました。


 気が付くと、私の手足は、ガタガタと震えています。




    ◇




 モンスターが目覚めてしまったのは、王子のイタズラが原因でした。上級生たちと共に、一週間の投獄が言い渡されました。


 でも、戻ってきたら、また、上級生たちと一緒に学園を抜け出しています。


 もう、そんなのどうでも良いです。


 なぜなら、今日の私の運勢は「素敵な出会いがあるかも」だからです。


 私は、魔法が使えるようになった日から、魔法の訓練所で、大人用である70m先の標的を狙って、毎日、自主トレしています。


「アップル嬢、俺が横に立ってもいいかな?」


 あれ? ジェイジェイ様です。


 彼は、剣の練習もあるので、私が終わった後に、魔法の練習をしているはずです。


「はい、ジェイジェイ様、一緒に練習しましょう」


 私は、緊張しながら、精一杯の笑顔で答えました。



「ずっと、俺の横に立っていて欲しいな……」

 え? ジェイジェイ様、なにを言っているのですか?


 私は、金縛りになりました。




 ━━ FIN ━━





【後書き】

お読みいただきありがとうございました。

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少女から大人への階段を一歩登った令嬢 甘い秋空 @Amai-Akisora

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