マジック・ワード

 目が覚めてみると、窓の向こうの雪はいつか消え去っていた。琥珀の瞳の少年は昼間から居眠りをしていた。


 いつの間に取り落としたのか、床の上でスマホが光っている。

 

「二見興玉神社……何で?」


 スマホを拾い上げながら少年は独りごちた。うつらうつらスマホで小説を書いているうち、思いもよらぬところまでネットの海を漂っていたらしい。


「どうりで変な夢見るわけだよ」


 今朝からの小春日和でついに溶けてしまった雪の名残りを探しながら、少年は図書館の扉をくぐった。


 暖かい陽気に誘われたのだろうか、円型の図書館前の広場は思いのほか人通りが多かった。


 少年はしばらく行き交う人々を眺めていたが、知り合いがここにいるはずもない。来た道を引き返そうとしたところで、偶然、こちらを見つめる視線と目が合った。


「チアキ、どうしたの? こんなとこで」


 少年は少し驚き、久々の舞台の上で緊張もしていたが、親しみを込めて小さく手を振ると、昔からの友人を琥珀の瞳で懐かしそうに眺めた。


「今日は、クリスマスなのに」



 (了)

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