ルキアッポスの憂鬱
「伝説のプロデューサークイズ? 何ですそれ」
ルキアッポスはすっとんきょうな声を上げながら、虹色の瞳を二本の石柱の向こうへ向けた。
赤と緑の螺旋が煌めくヘラクレスの柱の向こうには、真っ青な空の下、ネットの海がどこまでも広がっている。
煌めく水面を背に佇みながら、彼女は赤みがかった黒髪を一房掬った。
『だって貴方いま待ちぼうけをくらってるんでしょう?』
「まあ、そうですね」
『暇潰しくらいにはなると思うわよ? いつか役に立つ時が来るかもしれないわ』
/*問
あなたの手掛けた映画を地上波で放送したいという依頼が同時に2件きました。
どちらも時間帯はゴールデンタイム、
しかも全国放送です。
あなたなら、どちらを選びますか?
A.
時間の都合で本編を何分かカットしなくてはならないが、
元々コネクションがある放送局の
国民的ロードショー枠
B.
いままでこれといった取引はないが、
ノーカットで放送してくれるという放送局の
特別番組
?*/
「いや、Bでしょ普通に」
『なぜ?』
「なぜって、どう考えたってBの放送局のが大事にしてくれてる感あるでしょう?」
『そうね、明らかに好意的なのはBでしょうね』
「じゃあ――」
『でも、その好意的な担当者が来年もいるとは限らない』
「でもノーカットでしょう? ファンからしたらやっぱり断然Bじゃないですか。しがらみにとらわれて二番手扱いの放送局よりよっぽどいい」
『ファンからしたらそうでしょうね』
「何が仰りたいんです」
『かつてその状況で一人だけAと答えたプロデューサーがいたの。周りの反対にもかかわらず。その人は伝説的プロデューサーと呼ばれていたわ。実際、その業界の生き字引みたいな人だった』
「つまり?」
『長い視点でみたときに、どちらの方が国民的映画として親しまれるようになっているかしら。二番手扱いでも定期的に人目に触れる機会があるであろうAか、一過性で終わってしまうかもしれないB』
「ああ、そういうこと」
ルキアッポスはこぶしで顎をトントンしながらひとしきり考えると、彼女に思慮深げな瞳を向けた。
「つまり、広く人々に宣伝しようと思ったら、一過性で終わらせないことが大事だと?」
『ええ』
「でもそれって、ほんとうに?」
『さあ、10年くらい経てば結果も目に見えて分かるんじゃないかしら』
「そんな何年も待ってられませんよ」
ルキアッポスが果てしない未来を憂いていると、柱の向こうで彼女が小さく笑った。
『ええ、わたしもそう思うわ』
海のほとりで優しく微笑む彼女はまるで女神のようだとルキアッポスは思った。
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