第149話 社畜と聖女様の秘密の情報
《名前:アンリ レベル3》
《性別:女性 年齢:16歳》
《身長:153cm 体重:47kg》
《体力:35/40》
《魔力:123/150》
《スキル一覧:『祈る』『治癒魔法:レベル2』『次元書庫:レベル2』『隠密魔法:レベル3』『変装魔法:レベル3』》
《ノースレーン王国出身。王朝魔導技術の不正行使による身体強化とマナの最適化が施された強化人間》
《その過程で身体に刻み込まれていた『次元牢』は固有スキル『祈る』の効果により『次元書庫』へとその力を変質させた》
《好奇心旺盛で物怖じしない性格。攻略されたくなければ、相応の注意を払う必要がある》
これが、俺が『鑑定』で視ることができたアンリ様のステータスである。
他の人のものといえば、だいぶ前に
なかった気がする。
あのときよりも俺の『鑑定』のレベルはかなり上がっているから、当時よりも視える項目が増えているようだ。
それから備考欄(?)には『魔導技術の不正行使』だの『強化人間』だの『攻略されるな』だの、いろいろツッコみがいのある言葉が並んでいるが……まずはスキルだ。
ざっと見た感じ、『封魔の結界』なる魔法は見当たらないが。
しかし、ステータスに表示されている別の魔法やスキルと異なる可能性は否定できない。
というかステータスの内容を見る限り、おそらく『次元牢』という魔法かスキルが、『封魔の結界』だったようだ。
そしてそれは、『祈る』というスキルによって別の魔法に変質した……らしい。
彼女が『封魔の結界』を感じ取れなくなったのは、それが原因だろう。
「あの……?」
「あっ、すいません」
どうやら深く考え込んでいたようだ。
気付けばアンリ様が心配そうな顔で、俺の顔を覗き込んでいた。
とそこで気づく。
彼女の顔が、鼻がくっつきそうなほどに近づいていたことに。
俺を見つめる、碧く透き通った瞳。
淡く桃色に染まる、白く滑らかな肌。
少し開いた、桜色の濡れた唇。
額や頬にかかる、柔らかな金色の髪の毛。
人間離れした、恐ろしく整った顔立ち。
――『攻略されたくなければ、相応の注意を払う必要がある』
その言葉を思い出した、その瞬間。
「…………ふおぅっ!?」
「きゃっ!?」
突然、クロが俺の膝にヒョイと乗ってきたのだ。
そのせいで、思わず変な声をあげてしまう。
アンリ様もそれは同様だったらしく、小さく悲鳴をあげ、引きつった顔で身をのけぞらせている。
「クロ、びっくりさせるなよ」
「…………」
クロに抗議をするも、彼女は何食わぬ顔で俺の膝の上で伏せの体勢になるとクア……と欠伸を一つして、ふたたびフスフスと寝息を立て始めてしまった。
……自由か!
「すいません、ウチのヤツが驚かせてしまって」
「いえいえ、私は大丈夫です! それにこの国では、犬や狼は神の使徒ですから」
「そ、そうなんですね」
逆にアンリ様にフォローされてしまった。
とはいえ、クロのおかげで少しだけ冷静になったのは事実だ。
いくら彼女がまだ十代半ばとはいえ、これほどの美少女に接近されると心臓に悪すぎるからな。
俺は彼女から数センチほど座る位置をずらした。
「あ……」
アンリ様の小さな声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
もっとも、彼女の行動に何か裏があるというわけではないだろう。
ステータスにも『攻略』とは書かれていたが『篭絡』などとは書かれていなかったし、スキル一覧に『魅了』など精神に作用するスキルや魔法も存在しなかったからな。
こうしてほんの少し距離を取って、クロの毛並みをモフっている間は大丈夫大丈夫。
ついでにもう片方の手で自分のお尻を思いっきりつねって正気を保てばなお大丈夫。
「……先ほど失礼しました。深く考え込んでいたせいで、お声がけ頂いたのに気づけなかったようです」
とりあえずさっきの流れはなかったことにして、話を戻すことにする。
アンリ様もそれに異論はないらしい。
「いえ、お気になさらないで下さい。それで……」
言って、俺の言葉の続きを待っている。
「結論から言いますと……『封魔の結界』は、アンリ様から失われたようではないようです」
「そうですか! よかったです……!」
ぱぁっと顔を明るくする彼女に、「ただ」と続ける。
「申し上げにくいのですが……『封魔の結界』そのものは、アンリ様が持つ固有スキルにより変質してしまっているようですね」
「…………そうですか……」
一度は明るくなった彼女の顔が暗くなる。
上げて落とすような真似はしたくないのだが、順序だてて説明しなければ理解してもらえないからな。
こればかりは仕方ない。
「それで、その変質した魔法というのは……」
「魔法の名前は分かります。『次元書庫』です」
「『次元書庫』……?」
「はい。『封魔の結界』の正式名称が『次元牢』でしたから、類似の効果を発揮すると思われますが……これまでと同様に魔王を封印するという目的を達成できるかどうかまでは、さすがに分かりかねます」
「そうですか……でも、魔法そのものは失われていなかったのですね」
言って、彼女は自分の胸に手を当てると、ゆっくりと息を吐いた。
彼女の表情は、さきほどと比べ幾分か明るくなっていた。
「それで、魔法を元に戻す方法については……」
「……申し訳ありません」
おそらくだが、『次元牢』から『次元書庫』への変質は、状況的にスキルが
しかし、いくら『鑑定』が有能でも他人の持っているスキルを元に戻す方法までは分からない。
もっとも、アンリ様もそこは理解しているようだ。
「いえ、さすがにご無理を申し上げました。本来ならば私のような者に情報を教える必要などないのに、快く引き受けてくださいました。ヒロイ様には感謝しかありません。このご恩はいつか必ず返させて頂きます」
彼女はそう言ってほほ笑み、頭を下げたのだった。
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