第135話 社畜と怪人討伐作戦

 怪人討伐開始はとっぷりと日が暮れた深夜零時、日付が変わるのと同時に決行されることになった。


 この日ばかりは連携しているすべての部署が会議室に集まり、実行部隊である魔法少女の動向を注視することになっている。


 ちなみに『現場調整課』は専用のオペ室を持っているそうだが、機密情報が多数あるのと手狭なため、会議室貸し切りにて対応することにしたそうだ。



 現在の時刻は、23時50分。


 もちろん日中は通常業務もあるためそれらを終わらせてから集合する運びとなったのだが、極端な深夜勤務にワクワクしてしまう俺は根っからの社畜だと思う。



 会議室の前半分は照明が落とされているため薄暗い。


 現場監視のために100インチくらいありそうな大型モニタと複数の小型モニタが設置されているせいだ。


 各モニタにはまだ映像も送られてきていないため真っ暗だが、電源自体は点いている。


 人員の配置としては、『現場調整課』の郷田課長が全体の作戦指揮、部下の依田よださんと小山内おさないさんが設置機器類の操作や各種情報処理を担当。


 三木主任は魔法少女たちが装備する武器や機器に問題が生じたときのアドバイス役。


 ……で、桐井課長と俺は彼女らの戦闘訓練にて仕事が完了しているので、立場的には完全にオブザーバーだ。


 まあ強いて役割があるとすれば、訓練時と戦闘時の三人のコンディションの差異を確認しつつ何かあれば指摘する……みたいな感じだろうか。


 いずれにせよ、俺たち『別室』は作戦の邪魔にならないようにしつつ会議室の一番後ろに座っている。



 それにしても、会議室の空気はかなりの緊張感が漂っている。


 まあ俺としては、初めての体験でワクワク感が強いが。



「さて、そろそろ現場の準備が完了する頃あいだ。映像、送れるか?」



 しばらくすると、型モニタの隣に立つ郷田課長がヘッドセット型のマイクに喋りかけた。


 一瞬遅れてすべてのモニタがパッと明るくなり、現場で待機する魔法少女たちが映し出される。



 場所は、目標の空き家から二ブロックほど離れた裏路地。


 加東かとうさん、朝来あさごさん、能勢のせさんはまだ私服姿のままで、三人で集まり何かを話し合っている。


 声は聞こえないが、これは意図的に音声をカットしているためだろう。


 と、そこで加東さんがカメラに気づいたらしく、こちらに向かって手を振っているのが見えた。



 画角は上空から見下ろす俯瞰ふかん視点。


 高さは、彼女たちの頭上から三メートル程度だろうか。


 ちなみに小型モニタの方は大型モニタよりも視点がずっと低く、映っているのは至近距離の彼女たちだ。


 これは……各人が装備したボディカメラの映像のようだ。



「ええと、これドローンとかいうんでしたっけ? 最近は便利になりましたねぇ」



 大型モニタを見つめ感心したように声を漏らすのは、俺の隣に座る桐井課長だ。



「三木主任が開発した魔導ドローンでしたっけ? なんだか映画を見てるみたいですよね」


「ふふ、確かにそうですね」



 まあ、絵面的は特撮モノかアニメの実写版といった趣だが、まあそれは置いておいて。


 今回の作戦を期に導入されたのが、この『魔導ドローン』だ。



 既製品のドローンからプロペラを取り去り、文字通り『魔改造』して浮遊魔法で飛行できるようしたうえ、非常時にはAIによる簡易自律機動が可能。


 さらに『遮音結界』を応用した隠密性と防御力を兼ね備えているとのこと。



 三木主任いわく『探知系魔法でも発見不能、戦車で踏んでも壊れない』という、とんでもないチートドローンである。


 というかこれ、軍事に投入したらとんでもないことになるのでは?


 ……などと思ったが、すでにこの手のアイテムは自衛隊を含め先進的な軍事技術を持つ国では利用されており、対抗策も開発されている……とは三木主任の弁である。


 まあ、魔法が存在する世界なので、それも当然か。


 ちなみに同じ『遮音結界』に何度か触れると魔力干渉を起こして故障してしまうとのことで、完全無欠のチート兵器というわけにはいかないらしい。


 まあ、軍事はともかく怪人討伐ならば問題なく運用できる、という程度のようだ。



 ボディカメラの方は特に説明がなかったが、激しい戦闘で運用することを鑑みれば当然ドローンと似たような防御力を備えていることだろう。



「……そろそろ時間だ。始めるぞ。音声送れ」


『承知した』



 ダンディな男性の声が会議室に響き渡る。


 この声……たしか、ドローンを現場で操作しているのは加東さんのマスコットの『サラくん』だったか。


 時間を見ると、作戦開始五分前となっていた。


 画像の向こう側にいる三人はすでに魔法少女姿へと変わっている。


 みな真剣な表情だ。


 とくに朝来さんは顔が険しいが……大丈夫だろうか。


 まあ、訓練は一番頑張っていたし実力も相当ついていたので、大丈夫だとは思うが。



「さて、三人とも速やかに配置につけ。『遮音結界』の展開は、突入と同時だから、こちらで合図を出す。……二分ほど前倒しで作戦を開始する」


『『了解』』



 三人が返答し、モニタ越しに頷く。


 それと同時に、バッと三人が散開した。


 大型モニタは彼女らを大枠で捉えるように距離を置きつつ追尾し、小型モニタは目まぐるしく映り変わる、夜の街が映し出されている。



『ゴシックセイラ、配置につきました』


『シャイニールナ、同じく配置につきました』


『ミラクルマキナ、配置についたわ』



 十数秒ののち、三人から音声が返ってくる。


 準備完了だ。


 ドローンはかなり上空から、目標の空き家を映し出している。


 事前に別の魔導ドローンが物陰から空き家を魔力走査した結果、目標の怪人と複数の人間(寄生済)が内部にいることが分かっている。


 とはいえ、連中は未だこちらに気づいた様子はなく、怪人を中心に酒盛りなどをやっているらしい。呑気なやつらだ。


 もっともこちらとしては都合が良い。



「作戦開始まで三十秒。カウントダウン開始」


『……』



 会議室と現場に張り詰めた空気が漂う。


 特に何をするでもない俺も、ちょっと手に汗がにじんできた。



 横目でチラリと桐井課長をみやると、彼女も食い入るようにモニタを見つめていた。


 ついに教え子たちが実戦に投入されるのだから、心配なのは無理もない。



「………六、五……三、二……作戦開始!」


『行きます!』


『っしゃ!』


『行くわよ!!』



 オペ役の小山内さんの声とともに、 三人の魔法少女が同時に空き家に突入した。




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