社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第127話 社畜、モテ期が到来……したかもしれない
第127話 社畜、モテ期が到来……したかもしれない
どうやら俺にモテ期が来たらしい。
正直あまり実感がないが、クロの鼻が利くのは確かである。
なので誰かが俺に好意を抱いている、という事実だけは間違いない……と思われる。
ただ残念なことに、それが誰かは分からないそうだ。
一番肝心なのそこじゃねえか……! とは思うが、こればかりは仕方がない。
ということで、俺は俺に好意を抱いている女性を自力で特定しなければならない。
いや、別に特定しなければならないわけではないのだが……
『お前のことを好きな女性がいるぞ』と言われて、気にならないヤツがいるだろうか? いるわけがない。
結局俺は悶々としたまま、夜を過ごすことになった。
ちなみにクロはそんな俺に抱きかかえられながら、満足気にフスフスと寝息を立てていた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます廣井さん」
翌日。
オフィスの扉を開くと、桐井課長はすでにデスクに就いてキーボードを叩いていた。
ちらりと目があう。
すぐに目を逸らされる。
もっとも、嫌そうな様子はない。
冷たくスッと逸らされるというよりは、一瞬見つめ合い、すこし間があってから逸らされる……といった具合だ。
うーん……よく分からん……
とはいえ、それ以外の態度は良くも悪くも変わらない。
強いて他に変わったところを挙げるとすれば、桐井課長が俺と話すときに心なしか物理的な距離感が近くなった気がすることだろうか。
表情については、基本いつもニコニコほんわかしてるからよく分からん。
いずれにせよ、これらをもって嫌われているとか好かれているとかを判断するのは時期尚早だ。
しばらくは様子を見ることにしよう。
◇
「あの……この前助けて頂いた方ですよね……?」
いつも通り定時で仕事を上がり、駅へと向かう通りを歩いていたら背後から声を掛けられた。
振り返ってみれば、二十代半ばと思しき女性が立っている。
清楚な黒髪の美人さんだ。
もちろん俺にこんな知り合いはいない。
人違いかと思ったのだが、明らかに視線は俺に向けられていた。
えーと……誰だっけ?
なんか、どこかで見かけたようなそうでないような……
「ええと……」
「すいません、やっぱり覚えてないですよね……」
黒髪の美人さんはシュンとした様子で先を続ける。
「あの……私、先日まで駅前の『ゴトール』で働いてまして。体調不良で倒れてしまったところを介抱頂いたんですが……」
「……ああ、あの時の」
思い出した。
魔眼が目覚めたあとすぐに、カフェで『蔦の妖魔』に寄生されていたところを助けた人だ。
見た感じ、首のあたりは綺麗だし寄生されている様子はない。
……この人もあのまま放置していたら先日のチンピラみたいになっていたかもしれないと思うと、助けられてよかったと心底思う。
「あれから体調は大丈夫ですか?」
「はい、お陰様で! ……あのときは本当にありがとうございました……! 実を言うと、ずっと探していたんです。やっとお礼を、言うことができました……ううっ……!」
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
お礼の言葉を伝えたとたん、お姉さんが泣き崩れてしまった。
通行人の目が気になるので、一旦近くのレストランに避難する。
そこで色々お話を聞くことができた。
黒髪の美人さんは山本さんと言うそうだ。
俺が助ける一週間くらい前から、まるで月面を歩いているみたいに身体がフワフワして何もないところで転んでしまったり、ガラスのコップを掴もうとしたらうっかり握りつぶしてしまったり、通勤途中に遭遇した痴漢の手を
医者に診てもらってもいたって健康体で、しかしそんな状態だから仕事も失敗続きで意気消沈していたところ、勤務中に急に苦しくなって倒れたところを俺が助けた……ということだった。
現在彼女は勤務している店を変え数駅ほど離れたカフェで働いているそうだが、時間があるときは仕事前にこの周辺を歩いて俺を探していたらしい。
それを聞いたときは何か強い執念を感じて若干引いてしまったが、彼女にとって命の恩人というのはそれほどまでに大きな存在だった、ということだろう。
「あれからは普通の生活を送れるようになりまして……本当に感謝しています」
「そうですか、それはよかったです」
山本さんが頭を下げる。
もちろん俺としても、助けた人がその後元気に過ごしてくれているのなら嬉しく思う気持ちはある。
まさかずっと探されていたとは思ってもみなかったけど。
その後は少し話をして、現在彼女が勤務しているカフェの割引券などを貰って解散となった。
さすがにほぼ初対面で「改めてお礼を……」と誘われなかったのは、ホッとしたような寂しいような。
まあ、向こうもそれをすると引かれそうだなと察している雰囲気はあったので、一応一般常識(?)を備えた方ということなのだろう。
ただそのさいにぎゅっと手を握られ爛々と光る目で「絶対に遊びに来てくださいね!」と言われたので、ちょっとそのラインが微妙にずれている可能性はあるが。
つーか、聞いてるお店は普通のチェーン系カフェだけど……名前だけ同じの怪しいお店とかじゃないよな?
「それにしても、試供品か……」
駅のコンコースを歩きながら、山本さんが最後に話していたことを思い返す。
彼女の話では、街頭で試供品を配っている人から化粧品サンプルを貰ったので試しに使ってみた直後に体調変化が出たとのことだった。
もちろん意図的に妖魔を配るような会社があるとは思えないし別の原因である可能性が高いが、先日の打ち合わせでも妖魔を操る怪人が暗躍しているらしいと聞いているので一概に否定することもできない。
もっともそこまで話が大きくなると、俺のようなイチ社畜にどうこうできるレベルではないと思うが……念のため桐井課長に話をしておく必要はあるかもしれない。
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