第113話 社畜と古代のトンネル廃墟
扉をくぐり、暗がりの中へと足を踏み入れる。
幸い『魔眼』の力で夜目が効くので、中に入ってしまえばそれほど暗さは気にならなかった。
地面の汚れ具合からして長年誰かが立ち入った形跡はなく、保存状態はかなり良好なようだ。
少なくとも、入口付近は天井の崩落などもなく歩くのに支障はない。
とはいえ暗がりをそのまま進むのは心理的な抵抗感があったので、バッグからライトを取り出して点けた。
こんなことならばヘッドランプを持って来ればよかったと後悔したが、今さらである。
「……へぇ。思ったりよりしっかりしているな」
がらんどうのトンネルに、俺の呟きが反響してやけに大きく聞こえる。
外観から想像していたとおり、内部はかなり広々としていた。
実のところ、異世界だけに素掘りのトンネルを想像していたのだが……いい意味で裏切られた。
ライトに照らし出された壁面やアーチ状の天井はしっかりとレンガのようなブロックが積み上げられている。
現実世界で言えば、見た目は明治とか大正辺りに掘られたトンネルと言った感じだが、規模は現代の高速道路とかバイパスのトンネルに近い。
このトンネルはどうやらこの時代では使われていないもののようなので、おそらく古代遺跡の一種なのだろう。
「…………」
そんなことを考えながら、無言で進む。
床面は石畳になっているせいか、俺の足音とクロのチャッチャッと爪が床を蹴る音が響き渡っている。
魔物の気配がないのは、この場所がダンジョン化していないからだろうか。
こちらの廃墟や遺跡としては珍しい気がする。
「…………ここまでか」
とかなんとか言っていたら、唐突に終わりがきた。
入口から1キロほど進んだところで、トンネルが完全に行き止まりになってしまっていた。
崩落や埋め戻しではない。
最初からこういう構造だったとしか思えないほど丁寧な仕上げの壁が、俺たちの行く手を阻んでいた。
「まあ、そうだよなぁ」
思わず独り
どう考えても、山脈を抜けるには少なくとも10キロ近くトンネルを掘り進めなければならないはずだ。
さすがに異世界の古代文明が魔法ありのチート状態でも、なかなか難しいのではなかろうか。
とはいえ、ここまでトンネルが掘り進められているのに何もないのは絶対におかしい。
まさか、工事の最中で資金が尽きて放棄されたわけでもあるまいし。
だから、そうだな……
例えば、この壁は後の時代に建造されたもので、実はまださらに奥側に続いている……とか。
「うーむ……この壁を破壊するしかないのか……」
正直、こんな見事な遺跡の壁面を破壊するのは気が引ける。
というかダンジョン化していないなら壊したら壊れたままだよな?
実はこのトンネルはノースレーン王国の重要な文化財で、不法侵入はともかくとしても、ぶっ壊したら重罪を課せられました……なんてことになったら目も当てられない。
まあ、それはないと思いたいが……
立ち入り禁止の標識とか看板とかもなかったし。
……などと適当なことを考えながら壁に触れた、その時だった。
「うぐっ……!?」
急に左目がチリチリと疼きだし、視界が
この感触……まさか。
そのまさかだった。
今はもう慣れっこになった左目の疼きが収まるころには、ソイツが姿を現していた。
転移魔法陣だ。
行き止まりの壁面いっぱいに広がるそれは、淡い光を放っていた。
「おお……壮観だな」
目の前の壁を見上げながら思わず呟いた。
床ではなく壁面全体に描かれた転移魔法陣とはなかなか斬新である。
術式を軽く読み込んだ感じだと、この魔法陣は地中からマナを吸収して稼働する常時起動タイプで、触れた瞬間に対象を転移するようになっているようだ。
「ええと、なになに……」
さらに記述を読み込んでいく。
『ロイク・ソプ魔導言語』スキルのおかげで、魔法陣の機能を解読するのはさほど難しくはない。
ざっと全体を眺めただけで、この転移魔法陣がどういうものか把握できた。
「やはり、山の向こう側と繋がっているみたいだな」
転移魔法陣の記述によれば、この場所から直線状、約10キロほど先の場所に転移できるようだ。
そのほかにもいくつもの安全装置に関する記述なども見られ、この魔法陣が日々大量の往来を支えていたことが垣間見えた。
どうやらこのトンネルは、かつては主要な交易路とか街道の役割を果たしていたらしい。
ちなみにこれは俺の推測だが、あえてそれなりに深いところまでトンネルを掘り進めたうえで魔法陣を設置したのは、魔法陣が風雨に晒されて劣化するのを防ぐと同時に身動きする方向を限定することで、軍の侵攻ルートとして使用されることを防ぐ目的があったのではなかろうか。
入口付近にも料金所だか検問所みたいな建物の跡が残っていたし。
……それはともかくとして。
このあとどうするか……だが。
当然、魔法陣が起動した以上は先に進むしかないだろう。
まだまだ時間もあるし。
「クロ、進もう」
言って、俺は転移魔法陣に手を触れた。
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