第95話 社畜、ショートカットを設置する

「えっ……マジで?」



 転移魔法陣が取得可能になっていた。


 慌てて総マナ量を確認する。


 さっき石化ドラゴンと女神像を倒したことにより、取得したマナはこれまでのものと合わせて80万を超えている。


 一方、『転移魔法陣敷設』の取得コストは15万。


 余裕で取得可能だ。



「よっしゃ……!」



 迷わず俺はスキル『転移魔法陣敷設』を取得した。


 それから間髪入れず、『鑑定』でスキル詳細を確認。



《転移魔法陣敷設》


《転移魔法陣を設置・撤去することができる。対となる魔法陣を各所に設置することにより使用可能》


《魔法陣の機能はロイク・ソプ魔導言語(中級以上)により拡張・変更することができるが、相応の知識と経験が必要となる》



 なるほど。


 だいたい想像していた通りの機能だが、やはり二か所に魔法陣を設置する必要があるようだ。


 まあ、当然ではある。


 そして、これが意味するところは……一度は訪れた場所しか、魔法陣を設置することはできないということだ。


 つまり塔のダンジョンで『深淵の澱』を迂回して下の階層に転移することはできない。


 もっともアレは倒すべき魔物だし、迂回できないことなど些細な問題だ。



 それよりも何よりも。


 転移魔法陣を使うことに寄り、自宅とダンジョンとか、自宅から職場にショートカットを作成できるかもしれないのだ。


 夢が膨らみ過ぎて破裂しそうだ。



 もっとも、自宅はさておいて職場のどこに設置するかとか、どうやって隠蔽しておくかなどの問題もあるのでそう簡単にはいかないわけだが。


 そもそも現実世界で魔法陣を設置してちゃんと動くかどうかも試してみないと分からない。



 まあ、できるところから始めようと思う。




 ◇




「……よし、こんなもんか」



 ということで、手始めにこの寺院遺跡ダンジョンの最奥部と、現実世界に通じる扉の手前付近に転移魔法陣を設置してみた。


 念のため魔法陣の術式が正しく記載されていることを確認したうえで、何度か転移を繰り返し正常に動作していることを確認。


 最初に転移したときはちょっとだけ緊張したが、特に問題はなさそうだ。



 これで異世界に渡るときにいちいち魔物を撃破していく手間が省けるようになった。


 今更スライムや骸骨相手に苦戦するわけでもないのだが、戦闘や移動に時間を食っていたからな。



 ちなみにこの『転移魔法陣敷設』は、『深淵魔法』や『死の連鎖デスチェイン』と同様に、取得マナを消費するようだ。


 もしかしたら古代から存在する魔法は、魔力ではなく直接マナを消費する仕様なのかもしれない。



 設置コストは1つにつき50,000マナ。


 使用するためには二か所に設置しなくてはならないため、基本的には100,000マナ消費することになる。


 正直コストはかなり高い。

 

 もっとも設置すれば魔法陣が損壊しない限り継続的に使用できるうえ魔法陣を稼働させるためのマナはダンジョンから供給可能なので、初期コストのみで実質使いたい放題である。


 ちなみに魔法陣は設置場所や用途に応じていろいろカスタムできるようだが、魔導言語以外の知識や経験が必要らしい。


 なので、当面はデフォルト設定で使用していくことにする。



 あと、ここ以外で設置すべきなのは……女神像のダンジョンだろうか。


 今の俺にとっては、奴らは効率のいいマナ供給源だ。


 復活するたびに倒せば一気にマナを貯めることができる。


 『深淵の澱』を倒すためにも、マナはいくらあっても溜めすぎということはない。



 ……というわけで急遽女神像ダンジョンに戻り、入り口付近に遺跡ダンジョンの祭壇裏に通じる転移魔法陣を設置することにした。


 あらかじめ祭壇裏に新しい魔法陣を設置しているので、帰りは設置済みの祭壇裏まで一気に転移。


 さらに何度か行き来して、一連の動作を確認したところで今日の作業は終了である。


 これで平日も仕事帰りに気軽に異世界でひと狩り・・・・行くことができるようになった。



「……とりあえず、こんなものか」


「…………」



 ふぅ、と大きく吐いてみれば、足元で怠そうな気配を感じた。


 見れば、クロが隣で座り込み後ろ足で首の付け根を掻きながら、くぁ……と欠伸をしている。


 さすがにいろいろ連れ回し過ぎたかな。


 他にも設置したい場所はいくらでもあるが、そろそろ頃合いだな。



 腕時計を見ると、すでに20時近くを指していた。


 どうりで腹が減ると思った。



「クロ、帰ろうか」


「フスッ」



 即座に鼻息で応じるクロ。


 尻尾をピンと立て、ぐぐっと伸びをする。


 まるで「やれやれ」と言っているかのようだ。というか、多分そう思ってる。



 俺もいろいろ動き回ったせいか、心なしか疲労感を感じる。


 もっともそれは、達成感を伴う心地の良い疲労感だ。


 やったことはないが、日曜大工に励んだ後ってこんな気持ちなのかもしれない。



 疲れが溜まっているときの食事は美味いものがいい。


 そんなわけで、帰りがけにスーパーに寄ってちょっとだけ高い肉を買って帰った。


 昨夜、宿でクロがガツガツ食べていた猪肉ステーキに触発されたのかもしれない。




 ※年度末で本業多忙のため木曜日の更新はお休みします。

  次話は土曜更新の予定です。

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