第65話 社畜と従魔の共同作業
『ヴオオオォォッ!!』
女神像は何もなかったように起き上がると、激高したように咆哮した。
やはり『バッシュ』で与えたダメージは軽微だったようだ。
むしろ怒らせてしまったことで、攻撃が苛烈になる可能性が高かった。
だが、こっちはクロが参戦している。
状況はいまだ五分以上のはず。
「……グルッ!」
と、クロが先に動いた。
短い唸り声とともに大きく跳躍。
天井付近に達したところで口を大きく開き、
「――――ッ!!」
女神像に向かって吠えた……ように見えた。
『吠えたように見えた』のは、クロの咆哮が聞こえなかったからだ。
だが次の瞬間。
――ゴッッ!!
『――――ッ!?!?』
女神像がいきなり何かに
さらにその周囲が直径5メートルほどのクレーター状に陥没。
「えっ!?」
今のクロがやったの!?
着地したクロを見たら、目が合った。
「……フスッ!」
わかる、分かるぞ……今のフスッ! は「見たか主よ」だ。
間違いない。
だって超ドヤ顔だもん。
それにしてもこんな超強力な技をクロが使えたとは。
頼もしすぎるだろ。
いや、これ……似たような技を、前に見たことがあるぞ。
あれは砦が襲われているときに、オークコマンダーを振り向かせたやつだ。
おそらく、音波攻撃だ。
それも指向性の極めて高い超音波とか衝撃波を飛ばすやつ。
この前はおそらく音波だけを送っただけだが、今回は周囲にクレーターを形成するほどの強烈な衝撃波を女神像に叩きつけた。
そういうことだろう。
だが……
「くそ、これでもダメか」
バラバラになっていた女神像の欠片が何かに引き寄せられるように集まってゆき――元通りになっていく。
どうやらただの攻撃ではコイツを倒すことはできないようだ。
『ヴオオオオォォォッッ!』
――ズガン!
――ビシュン!!
「くおぉっ!?」
「…………!」
さっきの攻撃でさらに激高したのか、苛烈さマシマシの攻撃が俺とクロを襲う。
だが、これは余裕をもって全回避。
あの女神像、キレたせいかちょっとだけ攻撃が単調になって読みやすくなったぞ。
ただ、未だアイツを倒すための算段が見当たらない。
……さっきから『弱点看破』をもって注意深く観察しているのだが、弱点がないのだ。
女神像は明らかに魔物の類だ。
これまでの経験から、魔物には必ず弱点がある。
俺の魔眼では、それが赤い点となって視認可能なのだが……どこにも見当たらない。
以前戦った死霊術師とスケルトンの関係と同じで操っている術者が隠れているのかと考え神殿のあちこちを『マッピング』で探ってみたのだが……
それすら見当たらない。
いや……待て。
赤い点……光る点ならばある。
『ヴオオオォォッ!』
――ヴンッ! ヴヴンッッ!! ヴンッ!
耳障りな低音を響かせ、宝玉から
「くぬっ!?」
「…………!」
俺とクロの二手に分かれたことでこちらを捕捉しづらくなっているものの、あの破壊力は脅威以外の何物でもない。
だが、おそらくその強力な武器こそが……女神像の弱点だ。
仮にそうでなくとも、あの宝玉を破壊することが女神像攻略の最大のポイントになることは間違いなかった。
ただ、問題になるのは宝玉の耐久力だ。
さっきクロの繰り出した衝撃波は、神殿の床を女神像ごとクレーター状に陥没させるほどの威力を持っていた。
にもかかわらず、宝玉は無傷のままだ。
だったら……それ以上に強力だと思われる攻撃は一つしかない。
「クロ、俺が『魔眼光』であいつの宝玉を破壊する。もう一度動きを止めることはできるか?」
「……フスッ!」
攻撃と回避の合間に話しかけると、クロは鼻息で俺に応じた。
『とうぜんだ』とばかりに。
やはりクロは俺の言葉を完全に理解している。
だったら、あとはやるだけだ。
「よし。じゃあ、タイミングはお前に任せる。いくぞ!」
「…………!」
『ヴオオオォッ!!』
女神像が大剣を叩きつけてくる直前、俺とクロは別々の方向に散開。
『ヴオッ!』
「当たるか!」
女神像の猛攻をかいくぐりつつ『魔眼光』をチャージ。
その時を待つ。
そして――
女神像の雷条攻撃が途絶えた瞬間。
クロが高く跳躍し、大きく口を開いた。
「――――ッッ!」
――ズズン!
声なき咆哮がふたたび女神像を
これでアイツは身体を再生させるのに数秒の時間を要する。
宝玉は、クレーターの底に転がったまま動かない。
「これでトドメだ!」
――ビシュンッ!!
フルチャージの『魔眼光』が、宝玉を木っ端みじんに打ち砕いた。
「……やったか?」
静寂が戻った神殿に、俺のつぶやきがやけに大きく響いている。
さすがにこれで復活したら泣くぞ。
「…………」
クレーターの縁に立ち、しばらく
宝玉はバラバラに破壊されたまま、魔物が死んだときと同じように淡い光が立ち昇り始めている。
どうやら俺の狙いは正しかったようだ。
「…………」
気づくと、クロが隣に
もしかしたら、俺と一緒の気持ちだったのかもしれない。
「クロ……終わったよ。お前と一緒に戦ったからこそ、コイツを倒すことができた。ありがとう」
「…………フスッ!」
嬉しそうな様子で鼻を鳴らし、俺に身体をこすりつけてきた。
巨狼の体躯のままなのでちょっとよろけてしまったが、全身で味わう勝利のモフモフは格別だった。
◇
「おかえりー……ってどうしたのその恰好、ボロボロじゃない!」
ダンジョンからどうにか脱出し、宿まで帰還。
キッチンカウンターにキノコの入った籠を置いたところでリンデさんに驚かれた。
そういえばあの女神像との戦闘で飛んだり跳ねたり転がったりで全身ボロボロのドロドロだった。
とはいえ、あのダンジョンについてリンデさんに話すべきではないだろう。
「あー……ちょっとキノコ狩りのときに転んじゃって」
「確かにあの辺は倒木が多いから足元が不安定だけど……それにしては、ちょっと派手にいきすぎじゃない?」
「いやぁ、採取依頼とはいえ油断ならんものです。冒険者、大変なお仕事ですね……あはは」
「怪しいな~……」
うぅ、リンデさんの訝し気な視線が気まずい。
だが、彼女はこれ以上追及するつもりはなかったようだ。
すぐに視線を外し、ため息を吐いた。
「ま、いっか。ちゃんと初依頼をこなして帰ってきたんだし、あんまり詮索するのも野暮だよね。お疲れ様、アラタさん」
「お、お疲れ様です」
リンデさんは元冒険者だけあって、意外と鋭い。
俺が何らかの魔物と戦ったことくらいは見抜いているかもしれない。
でもまあ、何も言わないでくれるのなら……今はそれに甘えるとしよう。
それに。
神殿の奥にあった小部屋から、厳重に封印された書物を持って帰ってきたことなんて……とても言い出せないからな。
※今話より隔日更新とさせていただきます。
次回は火曜日更新の予定です!
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