社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第64話 社畜と初めてのダンジョンボスバトル
第64話 社畜と初めてのダンジョンボスバトル
『ヴオオオオオォォォォーーッッ!!』
女神にあるまじき野太い咆哮が神殿内をビリビリと震わせる。
それが戦闘開始の合図だった。
ドン! と地面を蹴る音。
気付けば目の前に女神像の巨体が迫り、手に持った大剣を俺に叩きつけようとしている寸前だった。
ていうか、速っ!
図体からは全く想像できない、現実離れした敏捷性だ。
だが……反応できないわけじゃないっ!
「んなもん当たるかっ!」
とっさに横に跳び、女神の大剣から逃れる。
――ズゴンッ!
刃渡り3メートルはあろうかという巨大な剣が、神殿の石床を叩き割った。
地響きと轟音で耳が痛い。
凄まじい威力だ。
だが、当たらなければどうということもない……!
と思った、次の瞬間。
反対の手に持った紫色の宝玉が一瞬ピカッと光った。
「うわっ!? やっばッ!!!」
それと同時に凄まじい殺気を感じる。
とっさに地面を転がるようにして、その場から退避。
ヴンッッ! ――ズドン!
直後、さきほどまで俺がいた場所に紫紺の雷条が
一瞬遅れて強烈な衝撃が俺の全身を襲う。
「ぐうっ……!?」
どうにか堪えたが、あの攻撃……かすっただけでも即死クラスの攻撃力だ。
攻撃速度は……まあ見た目通り雷速だよな。
『身体能力強化』をレベルアップしていたおかげでどうにか避けられたが、あとコンマゼロゼロ秒でも遅れていたらあの攻撃で真っ二つにされていた。
……女神像の
手に持った紫色の宝玉だ。
『ヴオオォォッ!』
――ヴヴンッ、ヴンッッ!!
「く……そっ!!」
今度は間隔をずらしての二連射。
遅れてやってくる衝撃波や巻き上がる瓦礫をどうにか回避しつつ、女神像から距離を取る。
『ヴオッ!!』
「うわっ!?」
回避したその先に、女神像がいた。
どうやらタイミングを読まれていたらしい。
間髪入れず、避けづらい斜め上からの斬り下ろし。
「く……そっ!」
――ズガン!
横に転がるようにして、どうにかギリギリで回避。
「っはあっ! 今のは危なかった……!」
そのすべてが、喰らえば木端微塵の一撃必殺。
女神像の攻撃パターンは読みづらいが、こちらの動きはしっかり読んでくる。
おいおい、マジでキツいぞこれは……!
コイツ、魔法少女や魔族との戦いがお遊びだったように思えるほどの強敵だ。
軽い探検気分で入ったダンジョンで遭遇していいレベルの敵じゃないぞ……
今のところはどうにかスキルの恩恵で回避できているが、ほとんど紙一重だ。
集中力が切れたら……死ぬ。
「畜生、こんなところでくたばってたまるかってんだよ……!!」
『ヴオッ!!』
俺の叫びに呼応するように女神像が吼え、凄まじい勢いで襲いかかってきた。
次の攻撃は……大剣が地を這うような低空の薙ぎ払いだ。
大丈夫だ、動きは見えている。
当然、これをジャンプで回避して……いや違う。
おかしい。
これまでの攻撃に比べて、この薙ぎ払いはずいぶんとゆっくりだ。
まるでこの攻撃でジャンプしてください、とでも言っているようだった。
反対側の手にも持った宝玉が、ひときわ強い光を放っているのも気になった。
「くそっ、罠か!!」
薙ぎ払いを跳んで避ければ、身動きの取れない空中で狙い撃ちにされる。
そう察した瞬間、俺はほとんど反射的に前に出て女神像の懐に潜り込んだ。
視界全部が、石像の冷たい胴体で遮られる。
これでは次の攻撃を察知することができない。
だが問題ない。
コイツに『次の攻撃』なんてないからだ。
俺は素早く両手で女神像に触れ、全力で『バッシュ』を発動した。
「――ぶっ飛べ!」
ドン、と強い衝撃音。
さすがに一撃で消滅させることはできなかったが、女神像は錐もみしつつ吹っ飛んでゆき……神殿の石柱を数本折りつつ、奥の壁面に叩きつけられた。
『――――』
女神像は半壊した壁にめり込んだまま動かない。
「っしゃ!」
どうにか仕留められたか……とガッツポーズを取ろうとしたところで気づいた。
女神の顔は衝撃であらぬ方向を向いたままだったが、宝玉はこちらに差し出されていた。
そういえば、石像の顔って別に眼球とか付いてないよな……
「……やべ」
雷条が来る。
回避を――
と思ったその時だった。
「ガウッ!」
力強い唸り声とともにグン、と首根っこを引っ張られ、いきなり身体が浮いた。
一瞬で、今まで立っていた場所がグングンと遠ざかっていく。
その直後。
――ズドン!
視界の先、先ほどまで俺がいた場所で紫雷が弾け、石床が爆発四散。
土煙が晴れると、そこには直径3メートルほどのクレーターが生じていた。
あのままあそこにいれば……爆発四散していたのは俺の身体だったはずだ。
文字通り間一髪だった。
「クロ、助かった!」
女神像から離れたところに着地したところで、俺を助けた巨狼の身体をポンと叩いた。
どうやら俺の危機を察してダクトから飛び出し、巨狼化して助けてくれたらしい。
「…………フスッ!」
が、当のクロはなぜか不機嫌そうに鼻を鳴らしただけだ。
もしかして不甲斐ない主に怒っているのだろうか?
「悪い、ちょっとしくじった。次はちゃんとやるよ」
「フスッ! ……フスッ!」
なんかもっと不機嫌になって二度も鼻を鳴らされた。
おまけに目つきもジトっとした感じになったぞ……
……あれ?
どうやら俺がくみ取ったと思っていた、クロの気持ちは違うようだ。
となると……もしかして。
「クロは俺が一人で女神像と戦っていたのが不満だったのか? 一緒に戦いたかった?」
「…………フスッ!」
クロがさっきのように鼻を鳴らす。
だが、明らかに嬉しそうな様子だった。
……そっか。
そりゃそうだよな。
クロは俺の『従魔』だもんな。
ただ、俺に護られるだけの存在じゃない。
「悪かったよ。俺はお前を大事にし過ぎていたのかも」
もちろんこれから雑に扱うって意味じゃない。
むしろ逆だ。
もっとクロのことを信頼して、頼っていこうと思う。
きっとコイツもそれを望んでいるはずだ。
「よし。それじゃ、アイツを俺たちでサクッとぶっ飛ばしてここから帰ろうぜ」
「……フスッ!!」
クロの鼻息は、これまでのどの鼻息よりも嬉しそうで、そして荒かった。
※クロとの意思疎通の話はもうちょい先で書く予定なので待ってくれなのじゃ
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