第51話 社畜、お株を奪う

「ククク……どうする? 百や二百の『影』を潰したくらいで、この『死の連鎖デスチェイン』から逃れられるとでも思ったか」



 公園中からクリプトの哄笑が聞こえてくる。


 たしかにヤツの言う通り、影の魔物は倒しても倒してもすぐに周囲から湧きだしてきた。



 幸い一体一体は大した強さはない。


 せいぜいゴブリン以上、オーク未満といったところだろうか。



 それに『バッシュ』は存外燃費効率が良く、今のところ魔力切れの心配はなさそうだ。


 とはいえ無限湧きに近い敵を倒し続けるのは、なかなかにしんどい作業である。



「…………」



 俺は跳びかかってきた魔物を無言のまま『バッシュ』で片付ける。


 もう何体処理したのか分からない。

 

 とりあえず百を超えたところで数えるのをやめた。


 『死の連鎖デスチェイン』ねぇ……確かに殺しても殺してもキリがないのは確かみたいだ。



 まあ、ひとつツッコミどころを挙げるなら……『影の魔物、お前らが死ぬんかい!』というところだろうか。


 いや、本来はこう……『領域』に囚われたヤツが死ぬほど酷い目に遭うんだ、ということは何となく分かる。



 しかし現状は真逆で、魔物たちが死にまくっている状態だ。


 俺もこのまま『死の連鎖』とやらに囚われることなく、無事クリプトをぶっ飛ばしたいところである。



「……ガウッ!」



 一方俺の近くではクロが魔法少女たちと戦いつつ、影の魔物を食い殺しながら排除している。


 その戦いぶりはまったく危なげがないものの、かなり苛立っているのが分かった。



 そう、今のクロはかなり空腹だ。


 残念なことに影の魔物を喰らっても満腹にはならないようで、イライラは全く収まる気配がない。



 ちなみに魔法少女たちは『魅了』の支配下に置かれているからかそもそもの実力なのか、まったくクロに相手にされていない。


 まあ中途半端に強くて重症や致命傷を負うよりも、こうやって適当にあしらわれている方が彼女たちにとっても安全なのかもしれないが。



 それにしても……


 このままでは、俺たちが夕食にありつくまえに夜が明けてしまいそうだ。


 どうにかしなければ。



 いや、ちょっとワクワクしてたんだぞ?


 公園でクロと一緒に夜空を眺めながらの冬キャンご飯。


 その合間にちょいちょい魔物を倒しつつマナ稼ぎ。


 まあ影の魔物をシバきまくっているおかげでマナ稼ぎだけはかなり捗っている気はするが……



 とはいえ、実はクリプトを倒す算段自体はもう付いている。



 確かにこの『死の連鎖』とかいう固有結界めいた領域には、ヤツの姿はなく、しかし気配だけが充満している。


 だが……俺には『弱点看破』というスキルがあるわけで。



 いやね、弱点……丸見えなんだよな。


 具体的には、公園の街灯の上あたりに赤く光る小さな点。


 そこだ。



 問題は、ヤツにバレずに魔眼光をマックスチャージしたうえで確実に当てることができるかどうかなのだ。


 なので、ある程度影の魔物たちを減らす必要があるのだが……これがなかなか減ってくれない。


 今はそこをどうするかで悩んでいる状況だった。



「おらおらサラリマン! このままだとジリ貧だぜ~? お前、そこそこ近接系魔法を使えるみたいだが、魔力の方はどうだ? もうだいぶ少なくなってきてんじゃねえか?」



 しばらく戦っていると、クリプトの笑い声というか煽りが周囲に響き渡った。


 やっぱコイツ、調子に乗ってるな。


 あの魔法少女のマスコットの挙動を見た時よりもイラッとくる。



 だが、この手の煽りに反応するのは相手を喜ばせるだけなので悪手だ。


 荒らしはスルー。


 インターネットだけでなく人間関係の基本中の基本です。



「…………」


「ハハッ、戦いに精一杯で声すら出せねえってか。その様子だと、だいぶ追い詰められてるみたいだな! なら、もっと絶望させてやろうじゃねえか! 出て来い、影の騎士シャドーナイト!」


『――――』



 どうやら俺が無言なのは余裕がないものと思い込んでいるらしく、クリプトは絶賛大盛り上がり中である。


 そして彼の楽しそうな呼び声に合わせて、真っ黒な騎士が登場。



 大剣と盾を持った、本格的な重装騎兵といったいで立ちだ。


 まあ、馬には乗ってないけども。


 しかし……この『影の騎士』、めちゃくちゃ強そうでカッコイイ!



 なんというか、いい年こいたオッサンにすら少年魂に火を灯すような……中二要素満載のデザインである。


 これ、俺も欲しいぞ……!



 コイツの後ろで左目を押さえながら『やれ』とかクールに命令できたなら……最の高しかない。



 と、そこで俺は気づく。


 そういえば、この『死の連鎖』って模倣できるんだろうか?


 戦いに夢中であまり考えたことがなかった。



 とりあえずステータスを確認してみる……すると。



《……………………》


《そのアイデア……まさに最の、高です》


《あの者に目にものを見せてやりましょう》



 ……は?



 なんかステータスが再び荒ぶりだしたぞ。


 しかもちょっと妙な方向に。


 だが、もちろん俺がステータスを止めることなどできようはずもなく。



《うふふふふふふふふ》


《うふふふふふふふふふふふふふふふふふ》



《上位者権限行使による一時的なスキル強制操作》


《スキル模倣レベル1→レベル10へ強制移行》



《模倣:レベル10 により『死の連鎖デスチェイン』を習得できます 取得マナ:1》



「ぶっ!?」



 思わず噴き出した。


 ええと、魔眼の意図としてはこのスキルをさっさと取得してクリプトに意趣返しをしましょうね、ってコト……?


 そうとしか思えないような、問答無用の文字列だった。



 いや、別にいいよ?


 もうクリプトを倒す算段は概ねついていたしあとはどのタイミングで実行しようかな、ってところだったからさ。


 倒すのが早まるならば、拒否する理由は特にない。


 そして、魔眼の方も一応(怪しいが)俺に判断をゆだねてくれているようだし。



 オーケー、やったりましょうか。



 俺はそう決め、スキル『死の連鎖』を取得した。



《『死の連鎖』:不死族の長クリプトが古代魔法を改変し編み出した結界魔法。自身の保有マナを影の魔物に変換し、使役することができる》


《生成可能な魔物……『影の精霊インプ』『影の狼』『影の騎士』》



 おお、なるほど。


 まあそんなところだろうな、と言った感想だが……消費するのが保有マナなのはありがたいな。


 これまで俺はヤツの生み出した魔物を大量に倒し続けている。


 そいつを全部つぎ込んでやろうじゃないか。



 スキルを発動。



「――『死の連鎖デスチェイン』」



 スキルを発動したとたん、ぶわっと視界が広がるような感覚を覚えた。

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