社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第47話 魔法少女の受難 上【side】
第47話 魔法少女の受難 上【side】
「もう! なんなのよこれは! ホント最悪!」
「ご、ごめんッチュ……でも、マキナの裸は見てないから大丈夫ッチュ!」
「うっさい! もう一度その話題を出したらこの場でぺちゃんこにするから!」
夜の街を風のように駆け抜けながら、マキナは傍らを飛ぶルーチェに悪態を吐いた。
珍しく、夜になっても妖魔出現の報が入ってこなかった。
そのせいで早めにお風呂に入ったのが仇になった。
のんびり湯船につかり気持ちよく鼻歌を歌っていたところにルーチェがポン! と目の前に現れたのだ。
その場で変身してぺしゃんこにしてやろうかと思った。
とはいえ彼の慌てふためく様子からただ事ではないと判断し、とりあえず怒りを抑えて話を聞いたのだが……案の定、最悪の一言だった。
いわく、先日擬態型妖魔を見つけたエリアで大量の『異形型』妖魔が出現した。
その数、確認できているだけでも数千体。
しかも中にはルーチェの『
急遽、該当エリアを担当している魔法少女とマスコットが周囲を『遮音結界』で封鎖したのだが……それでもマスコットの魔力には限度がある。
せいぜい結界を維持できるのは三時間程度。
その間に未確認種を含むすべての妖魔を殲滅しなければ大惨事は確定だ。
そうなれば、その被害の分だけマキナが獲得できる『ポイント』が減ってしまう。
絶対にそれだけは避けなければならない。
「なんでこんなことになってるのよ……」
「ボクらも突然のことでビックリしてるッチュ。でも、とにかく妖魔を退治しないことには始まらないッチュ。湧きだすポイントも複数個所あるみたいだから、とりあえず受け持ちのエリアまでナビするッチュ」
「はいはい。まったく、これが終わったらまたお風呂入り直さないと……そこっ!」
文句を言いつつも、マキナの目は夜闇で蠢く妖魔たちを見逃さない。
ビルや民家の屋根伝いに移動していると、細い路地をうろついている小柄な影が見えた。
「『小鬼』だっ! 数は……五体か。このくらい、楽勝っ!」
群れが気づかないうちに真上から急降下。
落下の重量と勢いを乗せて、一気に長柄の戦槌『ガベル』を叩きこむ。
――ズガン!
マキナの繰り出した打撃の衝撃に耐えきれず、アスファルトが円形に陥没。
当然、その真っただ中にいた妖魔たちはぺしゃんこの挽肉と化す。
ややあって、潰された妖魔たちが淡い光の粒子と化して霧散した。
今やこの場に妖魔が存在した証拠は、マキナの得物『ガベル』にこびりついた紫色の体液だけだ。
「いつも思うんだけど、この体液だけ消滅しない仕様、どうにかならないの?」
「そんなこと言われてもッチュね……魔法少女の武器はどんな近接武装でも魔力で構成されているッチュから、それで妖魔の体組織と一時的な魔力結合反応を起こして消滅するのに時間がかかってるっぽいッチュ。魔法物理の基礎中の基礎だからどうしようもないっチュ」
「うえ……この汚い体液と武器が一瞬でも結合してるなんて知りたくなかったわね……というか、今さっきクイッて直した黒縁眼鏡、どこから出したの?」
「魔法的に小粋な演出ってやつッチュ」
「まあ別にいいけど……」
そんなことよりも妖魔たちだ。
どうやら他の魔法少女たちも戦闘を始めたらしく、あちこちで衝撃音や地響きが聞こえてくる。
マキナとしても、こんなポイント大量獲得チャンスを逃すつもりはない。
「……あっち! 他の子に取られる前に動かないとっ!」
彼女は小さく叫ぶと、思い切り地面を蹴って夜空に跳躍した。
◇
『ブルルァッ!!』
「そんなの当たらないんだからっ! これで……九十五体目っ!」
マキナの1.5倍はあろうかという体格差にものをいわせ掴みかかってきた馬頭の妖魔の攻撃を紙一重で躱し、両手でしっかり握り込んだ『ガベル』を頭部目がけてフルスイング。
――ぱんっ!
まるでスイカのように妖魔の頭部が弾けた。
頭部を吹き飛ばされれば、どんなにしぶとい妖魔でも一撃だ。
ズズン……と馬頭妖魔の巨体が道路に倒れ込み、光の粒子と化して消滅。
「はあ、はあ……っ、今のは結構強かった、かな」
「すごいッチュ! さっきのは
「だいきん……なに? それマスコット界のスラング?」
ルーチェはたまにマキナには分からない用語を使う。
「ッヂュ……若者用に翻訳すると『めっちゃスゴい』ってことッチュ! ええと……ポイントは600の二割増しだから、720ッチュね」
「やりいっ!」
思わずその場で小さくジャンプするマキナ。
街灯の明かりに照らされて、ピンク色のツインテールがキラキラときらめいた。
今回獲得したポイントは、これで10,000P超。
いつもの十倍以上の大豊漁状態である。
マキナの顔はさっきから緩みっぱなしだ。
「うひひ……これで新しい強化パーツに手が届くわね……ねえルーチェ、次に強化するなら何がいいと思う? 個人的には槌部分にジェット加速装置を装着して威力を高めたいんだけど」
「そうッチュね……マキナはガチンコ格闘スタイルッチュから、ボク的にはパッシブ系の防御用魔力シールド一択だと思うっチュけどねぇ」
「えー? そんなの当たらなければ要らないでしょ? さっきの馬頭の攻撃だって、ちゃんと躱せてたし……それより、ルーチェ」
何かに気づいた彼女の顔が、真剣な表情になる。
視線は、道の先を睨みつけていた。
「……分かってるッチュ。その路地の先……公園の中に妖魔がいるっチュ」
「了解。とりあえずどんどんぶっ倒すわよ!」
「あっ、待ってッチュ!」
『ガベル』を肩に担ぎ、疾風のごとく駆け出すマキナ。
広々とした公園の真ん中には、豚頭の妖魔が佇んでいた。
ぶくぶくと太り、肌はイボだらけ。
体躯は縦も横もマキナの倍以上はある。
さっき馬頭妖魔とは比べ物にならないほどの大きさだ。
とはいえ、どうやら他の魔法少女から懸命に逃げてきたらしく、大量の汗が身体に浮かび上がりそれらが蒸発して湯気を発している。
豚の頭も相まって、マキナにとっては生理的嫌悪感を強烈に掻き立てる容姿だった。
「うっわ、キモッ……! こんなキモい妖魔、初めて見るんだけど」
マキナは顔をしかめた。
豚頭妖魔は、武器を持っていない。
身に着けているのは、ゴテゴテと派手な装飾のあしらわれた腰巻だけだ。
醜悪な見た目とは反対に無駄に高そうな装備。
分不相応。
姿勢も俯きがちだし、鈍重で弱そう。
それが、目の前の妖魔に対する第一印象だった。
それはさておいても、あのブヨブヨの手足や身体で自分に触れられたらと思うと……それだけで、精神に猛烈なダメージを受けそうな気がする。
さっさと倒そう。
「マキナ、コイツは未確認種ッチュ! 今、他の魔法少女からの情報提供がないか『上』に照会中ッチュ。戦闘開始はちょっと待つッチュ!」
「はあ? その間に逃げられたらどうするのよ! だいたい見てよあのブクブクの身体。あんなヤツの攻撃、絶対当たらないわよ」
「そうかも知れないッチュけど……未知の妖魔なのは間違いないッチュ。油断は禁物ッチュ」
「分かってるわよ! じゃあ、ちゃっちゃと片付けるわよ!」
「あっ! ちょっと待つッチュ!」
慌てるルーチェを置いてけぼりにして、マキナは一人公園の真ん中に躍り出る。
『…………』
ジロリ、と豚頭の視線がマキナに向く。
敵と認識したのか、豚頭はフゴッと熱い息を吐きだした。
「大人しく私のポイントになりなさい? ……せあっ!」
先手必勝。
渾身の力を込めて、マキナは豚頭の頭部目がけて『ガベル』を横から叩きつけた。
だが。
「えっ」
手ごたえがない。
……空振った?
うそっ!? と思う暇もなく、鳩尾に猛烈な衝撃。
「かはっ!?!?」
腹から絞り出されたうめき声と共に、マキナの身体がくの字に折れ曲がり、そのまま宙を舞う。
殴打の勢いのまま、彼女は10メートルほど先にあるブロック塀に叩きつけられた。
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