社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第42話 社畜、マンツーマンレッスンを受ける
第42話 社畜、マンツーマンレッスンを受ける
「それでは、あとは私が剣術指南を担当しよう」
「お、おう。あとは頼んだぞ」
フィーダさんとの模擬戦の後。
今度はロルナさんによる、ちゃんとした剣術の訓練を受けることになった。
フィーダさんはもっと教えたそうにしていたけど、自分の部下たちの訓練もあるので俺だけに構う訳にはいかないからな。
すごすごと兵士さんたちの元へと帰っていった。
まあロルナさんに怒られたから、というのも理由の大部分を占めていたような気もするが。
「ヒロイ殿、この辺りでやろうか」
「はい」
というわけで、二人で練兵場の隅っこに移動。
ここならば訓練の邪魔にはならない。
見物客はクロだけだ。
訓練中の兵士のみなさんは結構真面目なのかフィーダさんがビシバシしごいているせいか、俺たちに目を向ける者はいない。
おかげでこっちは気楽に訓練ができる。
「では、ヒロイ殿。まずは先ほどのように木剣を構えてみせてほしい」
「こうですか?」
さっきのように構えて見せる。
「うむ、やはりなかなか様になっている。特に言うべき点はないな」
「ありがとうございます」
スキル『剣術の心得(基礎)』のおかげもあってか、ロルナさんから合格を得られた。
ちなみにさっきのジョシュさんとフィーダさんとの模擬戦では『バッシュ』という打撃(?)スキルを取得できるようになったが、剣術スキルは『基礎』以上を取得できるようにはならなかった。
まあ、二人とはまともに戦ったとは言い難いのでこれは仕方ない気がする。
なので、ロルナさんから指導を受けられるのはありがたい。
「よし、では次だ」
「はい、よろしくお願いします」
剣の構えを見てもらったあとは、基礎的な剣の振り方や攻撃の受け方や捌き方、それに足運びなどを学んでいく。
そのほとんどが『剣術の心得(基礎)』の範疇なので、ほぼほぼ確認作業だ。
だが、こうやって実際に動くことで、スキルで得た知識や身体感覚がより身体になじんでいく感覚がある。
そういう意味では、たとえ新たなスキルを獲得できなくても、この訓練は意味のあるものだと感じた。
ちなみにフィーダさんが使っていた『バッシュ』というスキルはさっそく取得しておいた。
後で彼に聞いたところ、このスキルは通常は鍔迫り合いで相手に力負けしないように使ったり(俺が喰らったのはこの用途だった)、シールドバッシュなんかでその威力を高める用途で使用されるスキルらしいのだが、説明からするとどうやら素手でも発動できそうな感じだったからだ。
だとすれば、そう簡単に武器を扱えない現実世界では剣術スキルよりも役に立つかもしれない、という判断だ。
イメージとしては、中国拳法の『発勁』みたいな感じだろうか。
余談だが、フィーダさんは模擬戦で俺の剣を受けたとき、圧力が強すぎて反射的に『バッシュ』で押し返そうとしてしまったらしい。
思えば、確かに俺はスキルの恩恵により見た目からは想像できない力を発揮できる。
そのせいで彼をビックリさせてしまった、というのが真相のようだ。
力加減の調整は、もしかするとスキルの熟練よりも優先的に訓練が必要なのかもしれないな……
「む……ヒロイ殿、すこしうわの空だな。さすがに疲れたか?」
と、考え事をしていたらロルナさんに見抜かれてしまった。
「い、いえ! まだ大丈夫です。……少々、これまで戦闘経験を振り返っていまして」
「そうか。それはとても良い心がけだが、今は剣に集中すべきだな」
「おっしゃる通りです……」
少々注意を受けてしまったが、彼女の教え方はすごく上手い。
自分から動きを見せて、俺にやらせて、できたら褒める。
理想的な指導方法だ。
弊社の課長に彼女の爪を煎じて飲ませてやりたい。
「よし、次はもう少し動きを速くしてみようか」
「はい!」
そんな感じで剣術の指導は続いてゆく。
「…………フスッ」
しばらく訓練をしていると、時おりクロが不満げに鼻を鳴らしているのに気づいた。
もしかして退屈だったのだろうか?
ご飯の時間までもうちょっとあるし、もう少し待っていて欲しい。
「よし、今日はここまでにしておこうか」
「はい、ありがとうございました」
その後。
ひととおり剣術の立ち回りを教わったところで終了となった。
やはり実際に身体の動かすと、スキルの感覚だけでは分からない立ち回りのポイントなどが身に付く気がする。
もちろん基礎は基礎だから、もっと鍛錬を繰り返す必要があるとは思うけどね。
ちなみに剣術スキルは『初級』が取得できるようになったので取っておいた。
これでそれなりに立ち回れるようになったのではないだろうか。
「しかしヒロイ殿は相当に筋が良い。このまま鍛え上げれば、王国でも有数の剣士になれるかも知れないな。かつてこの国を救った勇者様のように」
ロルナさんが木剣を片付けながら、感心したように言う。
「ははは、ロルナさんは人をその気にさせるのが上手いですね」
お世辞を言う間柄ではないので多少は本当のことを言ってくれていると思うが、実際口にされるとくすぐったい。
それにしても、ロルナさんもフィーダさんも異邦人の俺に対して本当によくしてくれていると感じる。
とてもありがたいと思うと同時に、なぜそこまで……と思ってしまう。
もちろん、俺が彼女や砦の危機を救ったことが理由の一つであることは間違いないだろうが……
……というか。
なんか気になるワードが聞こえたような気が。
「……勇者様、ですか」
「む、ヒロイ殿は勇者様のことを知らないのか?」
俺の言葉が意外だったのか、ロルナさんがきょとんとした表情になった。
「申し訳ありません、貴国の事情にはまだ疎くて」
「そうか。……ここは王国では辺境ではあるが、黒髪黒目の風貌は珍しい。同郷だと思ったのだがな」
そのあとロルナさんはなぜか顔を赤らめ早口で「もちろんそのことと貴殿と親しくさせてもらっているのは別の話だがな!」と付け加えていたが……今は脇に置いておく。
「……同郷、ですか」
俺は彼女の言葉を反芻する。
いろいろと気になる話だ。
「差し支えなければ、そのお話……もう少し詳しく教えていただけませんか?」
そう訊ねずにいられなかった。
◇
『……ん?』と思った方はもうしばらくお待ちいただけますと幸いです……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます