第41話 社畜、心配される(※)
「えっ……フィーダさんが!?」
「なんだ、俺じゃ相手にならねぇってのか?」
「いやいやいやいや!」
そっちのわけないでしょ……!
ていうかなんで小手調べの次にラスボスとバトルなんだよ!
どう考えてもおかしいだろ……
ていうかこの人、圧力パネぇんだが?
さっきのジョシュさんどころか、この前初対面で飛ばされた殺気のレベルと比べても段違いなんですがそれは。
……俺、殺されないよね!?
「兵士長!」
「いーからいーから」
ロルナさんが慌てて止めに入るが、フィーダさんは彼女を手で制し、俺の方に向き直った。
ちなみにクロは彼女の隣で「やってみるがよい」みたいなすまし顔でこちらを見物している。
このクロの俺に対する信頼は一体なんなんだ。
いや嬉しいけど。
それはさておきフィーダさんだ。
「ヒロイ殿。あんたの力量は見せてもらった。だがまあ、不安というのなら最初は俺は手を出さんでおこう。とりあえず、打ち込んできてくれないか」
『最初は』というフレーズが不穏極まりないが、せっかく稽古を付けてくれるのだ。
ここはしっかりと男を見せるべきだろう。
「……分かりました」
「思いっ切りだぞ?」
「わ、分かりました!」
まあ、確かにフィーダさんみたいに強い人ならば、スキルで身体能力を強化した俺の攻撃でも受け止められるということなのかもしれない。
胸を借りるつもりで、思いっきりぶつかってみよう。
「じゃあ、行きます」
「おう。いつでも来い」
言って、フィーダさんが木の大剣を構えた。
さらに圧力が増した。
けれども、委縮するほどではない。
むしろその気迫に当てられて、こっちの気合が入ってきたくらいだ。
ちなみにフィーダさんの大剣は全長が2メートル近い。
かなり間合いが遠く見えるが、自分の中の感覚は決して届かない距離ではないと感じている。
そういえば魔法少女の武器も、これよりちょっと短いくらいだったかな。
うん。
問題ない。
「…………ふっ! せあっ!」
気合を吐きながら、思い切り地面を蹴る。
その勢いを利用して木剣を振りかぶり――フィーダさんの大木剣に思い切り叩きつけた。
「……ぐっ!?」
と、俺の攻撃を受け止めたフィーダさんが一瞬驚いたような顔つきになり、それからグッとこちらを睨みつけた……ような気がした。
『気がした』というのは、気が付けば宙を舞っていたからだ。
「うおおおおぉぉぉっ!?!?」
何を言っているのか自分でも分からないが、とにかく訳が分からない。
攻撃した瞬間にブワッと身体が押されるような感覚があって、次の瞬間には視界がぐるんぐるんと回転していたのだ。
ていうかなんか自分の口からこれまで聞いたことのない声が漏れている。
まさか……吹っ飛ばされたのか!? でもどうやって!?
魔法? スキル?
考えている暇はない。
地面が迫ってきている。
どうにかしないと。
「くぬぅっ!?」
反射的に身を捻り、奇跡的に足から着地。
セ、セーーフ……
しかし身体を安定させることに集中していたおかげで木剣はどこかに飛んで行ってしまった。
これでは戦闘続行不可能だ。
しまった……
「や、やべぇっ……! おいヒロイ殿、大丈夫か!?」
「大丈夫か、ヒロイ殿!」
フィーダさんとロルナさんが真っ青な顔をして駆け寄ってくる。
とりあえず無傷なのはラッキーだった。
うまく着地できたのは、あらかじめ『乱戦の知識』と『剣術の心得』を取得しておいたおかげだろうか?
「こ、こちらはなんとか無事です」
二人を心配させないよう、営業スマイル(苦笑)で無事をアピール。
けれども、二人は俺を見ても険しい顔をしたままだった。
「兵士長! 言っただろう、ヒロイ殿は素人だぞ!? 初手で『バッシュ』を使うなど何を考えているのだ!」
「いや、だってよ……コイツの圧力、ハンパねぇんだもんよ……いや……ヒロイ殿、マジですまん……!!」
なんかフィーダさんがロルナさんにえらい剣幕で怒られているぞ……
フィーダさんはフィーダさんで、慌てて俺の前までやってくると土下座を始めた。
ていうかこっちの世界も普通に土下座あるんだな……
ちなみにクロはトコトコと俺の側までやってきて、フンフンと少しだけ匂いを嗅いでからすぐに元の場所に戻っていった。
ちょこんと座ってドヤ顔をしつつ『もとより心配などしていないぞ』みたいな態度である。
信頼感がすごい。
まあ実際なんともないのでその通りなわけだが。
……と、俺のせいでこうなったんだった。
さすがにフォローを入れておかなければ。
「あの、フィーダさん、顔を上げてください……! ロルナさんも、心配して頂きありがとうございます。私は特に怪我とかないので大丈夫ですよ」
「ま、マジでか?」
「ほ、本当にか?」
二人ともめちゃくちゃ心配そうな顔をしているので、なんだかこっちまで申し訳ない気持ちになってくるな。
「ええ、痛みとかもないですし。この通りです」
「そ、そうか……」
俺がさらに無事をアピールするため軽く腕を回して見せると、フィーダさんがハァァ……と深い安堵の息を吐いた。
「マジかよ……」
「兵士長殿の『バッシュ』をくらって無傷で、だと……?」
「あれ、本気だったよな?」
「この前の戦闘でオーク兵を三体まとめてぶっとばしていたよな……」
なんか見物していた兵士の皆さんがざわついているけど、そんなに危険な攻撃だったのだろうか?
確かに少々ビックリはしたものの、個人的な感覚としては「いきなりぶっ飛ばされた」以外の感想はない。
痛みも怪我もないしな。
まあ怪我の方は、無事に着地できたからだが。
……と、そうだ。
俺は思いついてステータスを開いた。
《模倣:レベル1 により『バッシュ』を取得できます 取得マナ:5,000》
《『バッシュ』:体内の魔力を衝撃力に変換し、触れた対象に叩き込むことができる。熟練の使い手ならば、弱い魔物を爆発四散させることができる》
……………………なるほど。
どうやら俺は、想像よりかなりヤバいスキルを喰らったらしい。
うん、そりゃまあ……使った方は死ぬほど焦るよな……
それにしても、なぜフィーダさんは俺に対してこんなスキルを使ったんだろうか?
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