第40話 社畜、意外と動けることに気づく

「……ほう。存外、さまになっているではないか。ヒロイ殿は剣術の心得が?」



 と、木剣を構えた俺の様子を見物していたロルナさんが感心したような声を上げた。



「いえ。子供の頃に、ほんの少しだけです」



 さっきスキルで剣術の基礎を習得したなんて言えない。



 とはいえ剣を構えるのは決して初めてというわけではない。


 ダンジョンでゲットした剣を使ってスケルトン軍団やゴブリン兵と戦ったことはあるし、そもそも高校の授業なんかで一応教養レベルだけど知識はある。



 ……うろ覚えではあるが、今の構えは武道の授業の時に覚えた『中段の構え』というやつだ。


 正直、自分ではちゃんとできているのかは分からないけども。



「普通の商人は剣術など習わないものだが……とにかく、続けてみるといいだろう」


「ヒロイ殿、今からこいつと簡単に模擬戦をやってもらう。だが、あくまであんたの剣の腕前を見るものだ。気楽にやってくれ」



 ロルナさんに続けて、フィーダさんが声を掛けてきた。



「分かりました」



 とはいえ、相手の兵士さんが構えているのは木剣だ。


 それに殺気とまではいかないものの、鋭い闘気みたいなものを発している。



 攻撃が当たれば、普通に打撲くらいできるだろう。


 こちらも真剣にやらねば。



「では、参る。……せあっ!」



 と、兵士さんが気合の声とともに木剣を打ち込んできた。


 そこで察した。



 ……なるほど。



 確かにこれは模擬戦だ。


 かなり手加減されているのが分かる。



 先日戦ったゴブリン兵と比べるとそれなりに速いが、魔法少女の攻撃に比べればずっと遅い。


 力の入り具合も、あるようでないような絶妙な感じに見える。


 これなら当たっても多少痛いくらいで済みそうだ。



 そう思うと、スッと気持ちが落ち着いてきた。


 攻撃の筋が良く見える。



 兵士さんが狙っているのは……腕だな。



「あっ……おい!」


「まずいっ……!」


「……よっ」



 軽く身を引いて、余裕をもって躱す。


 うん、なんだかんだで意外と反応できるし動けるみたいだ。



 多分『身体能力強化』のスキルが良い感じに仕事をしているのだと思う。


 それにダンジョン内ほどではないものの、現実世界と比べて体のキレが良い。


 こっちの方がスキルの恩恵を受けやすいのだろうか?



 そういえば……


 途中でフィーダさんとロルナさんの慌てたような声が聞こえたがなんだったのだろうか?



「……なにっ!?」



 と、上がった声は兵士さんからだった。


 剣を空振りさせた姿勢のまま、なぜかこちらを見て大層驚いたような顔をしている。



「あの……何か?」



 もしかして、躱し方がまずかったのだろうか。


 それとも足運びがちょっともつれてしまったので、転ばないか心配されたとか。



「…………あ」



 と、そこで気づく。


 よくよく考えたら、普通俺が打ち込んで兵士さんが受ける役割じゃないのか?



 そういう段取りが間違っていたので、兵士さんもつられて打ち込んでしまったとか。


 だからミスった自分に焦っている、とか?


 でも、特に「打ち込んできてくれ」とは言われてなかったしな……



 ……と思ったのだが。



 兵士さんはなぜか俺とフィーダさんを交互に見て申し訳なさそうな様子になっている。



「兵士長殿、申し訳ありません! つい……」


「いや……あの威圧に負けず、お前はよくやった。よし、大体わかった。下がっていいぞ」


「……はっ!」



 言って、フィーダさんが兵士さんを下がらせ、俺の前に立った。



「ははっ。あいつは結構やる方なんだが……ヒロイ殿、やっぱあんたはそう・・だよな。見くびって悪かった。……今度は俺が稽古をつけてやるよ」


「まさかとは思っていたが、これほどとは」


「えっ」



 どういうこと!?


 なんかフィーダさんもロルナさんも合点がいったような顔で頷いているけど、俺は何も分からないんですけど!?



 ……と、そこで俺は思い出した。


 ずっと忘れていたが、スキルで『威圧』ってのを取得していたことを。


 もしかしてあれ、パッシブ系のスキルだったのか?


 今の感じだと、そうだと思われるが……



 そういえば取得したけど興味のないスキルはロクに『鑑定』していなかった。


 この機会に、確認していないヤツもきちんと見ておくべきだな。



 ……ていうかフィーダさん。


 剣を構えて、なんでそんな嬉しそうな笑顔してるんですかね?


 逆に不吉なんですが?

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