社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第27話 新人騎士、奮闘する【side】
第27話 新人騎士、奮闘する【side】
「敵襲……! 敵襲ーーッ!」
ガンガンと鳴り響く警鐘。
配置に就こうと走り回る兵士たちの足音と怒号。
砦内の執務室で書類仕事に没頭していたレーネ・ロルナは、その慌ただしい様子にハッと顔を上げた。
「まさか……!」
常在戦場の信念により普段から鎧姿で過ごしている彼女の行動は素早い。
すぐさま武器庫に駆け込み剣と盾を手に取り、状況確認のため城壁へと向かった。
『ギャギャッ!』
「ゴブリン兵だと……!?」
城壁の上に出た瞬間、軽鎧を着こんだゴブリンが襲い掛かってきた。
鉈のような剣を振りかぶり、レーネ目がけて叩きつけてくる。
とっさにそれを躱し、剣で叩き斬る。
それからレーネは城壁の外を見下ろした。
「なんだこれは……」
地上は魔物の大群で埋め尽くされていた。
武装したゴブリンとオーク。攻城用の大槌を持ったトロルまでいる。
上空には、小型のワイバーンが数匹舞っていた。
目視しただけでも、数千は下らない大軍勢だった。
それらが城壁のふもとまで押し寄せてきている。
さっき倒したゴブリンは、どうやら先発隊として城壁を上りきった個体だったようだ。
「くそ、一体何が起きている!」
「う、うわあぁぁー! く、来るなッ!」
と、すぐ近くで誰かの悲鳴が聞こえた。
見れば、数匹のゴブリン兵が兵士を囲んでいる。
どうやら兵士は伝令係のようで、城壁守備の兵士たちよりも軽装だ。
それゆえ魔物たちに狙われてしまったらしい。
「今行くッッ!」
考えるのはあとだ。
レーネが一足飛びに魔物たちに迫る。
彼女の剣が二、三、閃き、ゴブリン兵たちの首が同時に飛んだ。
「き、騎士殿! すまない、感謝する……!」
「無事でよかった。兵士長はどこにいる?」
「あ、あっちだ!」
伝令兵の指さす先に、兵士たちに大声で指示を飛ばしつつ魔物と戦っている大柄な男が見えた。
そちらへ急ぐ。
「フィーダ兵士長、無事か!」
「……騎士殿か。ずいぶんと遅いご到着だ。砦主のご機嫌伺いでもしてたのか?」
身の丈より長い大剣で魔物たちを蹴散らしながら、男――フィーダ兵士長がジロリとレーネを睨む。
「貴様らが大嫌いな書類仕事だ。私がそれらを処理しなければ、輸送部隊より供給される食糧や嗜好品が滞ることになるぞ?」
「そいつは困るな! 失言を謝罪するぜ、騎士殿……おっと」
『ブヒィッ!?』
まったく申し訳なさそうなそぶりも見せず、フィーダは襲い掛かってきたオーク兵を両断する。
人族より大きな魔物をたった一撃。
凄まじい膂力だ。
フィーダ・バルベスト。
たしか、年齢は35歳。
かつては超一流の冒険者として王国で名を馳せた男だったが、なぜこんな僻地の砦で兵士長なんぞをやっているのか。
兵士たちのうわさ話では、冒険者ギルドの幹部を殴ってギルドを除名されたとか、さる有力貴族の令嬢を孕ませたおかげで賞金首を掛けられたとか……とにかくロクな評判は聞こえてこない。
だが、その戦闘力と指揮能力だけは確かのようだ。
「それで、兵士長。状況は?」
「見てのとおりだ。俺たちが必死こいて踊り倒さなけりゃ、この砦は簡単に抜かれちまうぜ。……敵はおよそ三千。ついさっき、いきなり城壁の真ん前に現れた。おそらく大規模転移魔術の類だな。用意周到な作戦行動だぞ、これは」
「なんだと……? これほどの規模ならば、転移元はそれほど遠くではないはずだ。巡回の騎兵たちは何をやっていたのだ!」
「日の出前に砦を出て、未だに戻ってきていない。つまりはそういうことだ」
「クソっ!」
今はまだ早朝だ。
おそらく騎兵たちは、この大軍団を発見したのだろう。
だが、口封じをされた。
その後、発覚を恐れた敵は即座に転移魔術を発動した。
そうであれば、砦側に察知する機会はない。
「騎士殿、見えるか?」
「何をだ」
二人は襲い来る魔物たちを嵐のように切り刻みながら、会話を続ける。
「城壁の向こう側、およそ五百歩程度先。赤い鎧に矛を持ったオーク。アイツが現場指揮官だ」
「あれは……オークコマンダーか。つまりこの魔物たちは魔王軍の作戦部隊ということか」
見れば、砦からかなり離れた場所にひときわ目立つ鎧姿の魔物が見えた。
大きな矛を振り回しているので一目瞭然だ。
「ああ。こんな辺鄙な場所を襲う理由は『聖女』しかないだろ」
「クソ、そういうことか」
聖女アンリ様は数日前にこの砦を発っているが、次の巡礼先へ到着するのにまだ日数を要する。
しかしこの砦を突破することができれば、旅の途中で追いつくことができるはずだ。
作戦の意図を理解したレーネは歯ぎしりした。
だが、分からないこともある。
「兵士長。しかし、なぜ聖女様の居場所が分かったのだ? 身分も見た目も偽っていたはずだ。王都の貴族たちならばともかく、砦内でも知る者はわずかだ。魔王軍に知るすべはない」
「ほかの二人の聖女様とあの『黄金の聖女』様は出自も派閥が違うからな。おお怖い怖い」
「まさか内通者が……? 魔王軍を権力闘争の道具として使ったというのか!? なんということを……」
暗澹たる思いだった。
レーネも弱小とはいえ貴族の出だ。
それゆえ王宮内での暗闘が、容易に想像できてしまった。
「しかしまぁ、これじゃあ埒が明かん。俺もこの近くの街に嫁と娘がいるんだよ。砦を抜かれるのは困る。騎士殿、何かいい考えはないか?」
「残念だが、あの距離をどうにかする方法は思いつかないな。弓兵と魔法兵は? 騎兵による正面突破は難しそうか?」
「弓も魔法も射程外だ。巡回に出た騎兵は戻ってきていない。残りの騎兵では数が足りん。どうしようもない」
「む……このままではいずれ押し潰されるぞ。増援はどうだ?」
レーネは周囲を見回して言った。
自分とフィーダはまだ問題ない。
だが、砦の兵士たちが皆二人のように戦闘力が高いわけではない。
今のところ死者の報告はまだないが、重傷者や戦闘不能者の報告がフィーダのもとにどんどんと寄せられている。
「そっちはすでに手を打ってある。伝令兵が『ジェント』から予備の衛兵をかき集めて戻ってくるはずだ。あそこが一番近い城砦都市だからな」
「ジェントか……どんなに早くても増援が来るのは夜になるぞ……!」
すでに城壁の手薄な場所に梯子を掛けられ、ゴブリン兵たちが雪崩れ込んでいる。
トロルが城壁の一部を破壊したと
周囲からは兵士たちの怒号と悲鳴が絶えず聞こえてくる。
「クソ……ッ!」
あまりに絶望的な状況に、レーネは天を仰いだ。
と、その時だった。
空に閃光が走った。
それから少し遅れて、ズン! という地響きがレーネの足元を揺らす。
「な、なんだ?」
城壁に続いて、まさかトロルに城門を破られたのか……?
一瞬で血の気が引く。
だが様子が変だ。
地響きとともに、急に魔物たちの挙動が鈍くなった。
中には戦闘をやめてしまった個体もいる。
「チッ。さすがに持ちこたえられなかったか……うん?」
フィーダも同じ考えに至ったらしく、慌てて城壁から身を乗り出して……そのまま固まった。
「兵士長?」
「おい、どういうことだこれは」
フィーダは下を見ていなかった。
ぽかんと口を開け、視線は遥か遠く……魔物の軍勢の一番後ろを見ていたのだ。
レーネもそれにならって視線を向ける。
「なっ……」
彼女の視線の先には、頭部を完全に喪失して地面に倒れ伏す、巨大な魔物の姿があった。
オークコマンダーだ。
あれが死んだせいで魔物たちの指揮系統が乱れ、混乱に陥っているらしい。
そして……
違和感を覚え、レーネは自分のすぐ下の城壁を見た。……そこが大きく砕け、赤熱して煙を吹いている。
「……まさか」
彼女は小さく呟いた。
こんなことをしでかす存在に心当たりがあった。
それは……先日ワイバーンに襲われているところを助けてくれた、あの奇妙な風貌の
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