社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第21話 普通の高校生、召喚される【side】
第21話 普通の高校生、召喚される【side】
(俺の名前は
(どこにでもいる高校二年生だ)
(部活は剣道部と手芸部の掛け持ち)
(血のつながっていない妹と幼馴染はいるが彼女はまだいない)
……彼――駒田ユウがなぜこんなことを確認しているかというと。
彼の目の前に広がっている光景が、学校の教室ではなく中世ヨーロッパみたいな白亜の宮殿だったからだ。
それと、二、三十人くらいの鎧姿の男たちや派手な格好の女の人に囲まれてるのもユウの混迷を深めていた。
(ええと……)
(一体何が起きたんだ)
ユウはこれまでのことを思い出そうとした。
たしか普通に朝起きて、普通に通学。
トラックや電車に轢かれて死んだ覚えは、多分ない。
きちんと学校までは辿り着いたはずだ。
そして校舎の三階にある教室の扉を開けて、クラスメイトに挨拶をしつつ中に入ろうとして――
気づけばこの場所に立っていた。
(やっぱり意味わかんねぇ……)
ユウは頭を抱えた。
と、そのときだった。
「おお、勇者殿!」
そこにユウを囲んでいた大勢のうち、一番立派な服をまとった男が前に出てきたのだ。
彫の深い、明らかに日本人とは思えない風貌の五十台後半くらいの男だ。
禿頭で、王冠のようなものを被っている。
「余はノースレーン王国国王、リント・ノースレーン十三世である。よくぞ我らの召喚に応じてくださった。歓迎するぞ、異界の民よ」
「は、はあ。俺は駒田ユウっていいます」
(これ……もしかして異世界召喚ってやつか!? 絶対そうだろこれ!)
ユウは現在、授業で世界史を学んでいた。だから分かる。
ノースレーン王国なんて国家は、どの時代にも登場した覚えはない。
それに……明らかに相手は日本人ではない。
だというのに、どういうわけか言葉は通じている。
それがさらにユウの確信を深める結果となった。
王様らしき男が先を続ける。
「おお、勇者殿。我が王国は、魔王ブラドムーゼ率いる魔族の軍勢により滅亡の危機に瀕しているのだ。もちろん急な話であることは分かっている。混乱もしているだろう。だが……奴らを討ち滅ぼすために、どうか我々に力を貸して欲しいのだ」
「いや、そんなことを言っても……俺、ただの高校生ですよ?」
もちろん敬語で答えた。
ユウはそれなりにweb小説などを嗜むタイプだ。
その手の物語では、ここで王様に『タメ語』を使って「面白い奴だ!」みたいな展開になるのだが……普通の高校生であるユウに、そんな度胸はなかった。
「ふむ、コウコウセイという身分は存じぬが……いずれせよ、そなたが異界の民であることが重要なのだ」
王が顎ひげを軽くなでたあと力強く頷く。
「我が国の伝承では、異界の民がこの世界に召喚された場合は神の加護を受け、大いなる力を授かるという。……大臣、ここに『開示の水晶』を」
「はっ」
もう一人、王より少し年老いた男が出てきて、紫色の球を彼に手渡した。
そしてそれをユウに差し出してきた。
「勇者コマダユウ殿、これに手を触れてくれぬか。なに、危険はない。これはお主に秘められた力を開示する魔道具だ」
どのみちこの状況で「いやです」とは言える雰囲気ではなかった。
王や女性はともかくとして、ユウを取り囲んでいる連中の中には武装した者も多くいるからだ。
「まあ、それくらいなら……」
ユウは少しだけためらいながらも、そっと水晶に手を触れた。
ひんやりとした感触が伝わってくる。
だがそれ以外に、特に身体に変化が起きた感じはなかった。
「ふむ……なるほど」
しばらく水晶に手を触れていると、王様が満足したように頷いた。
「喜ぶといい。そなたには、きちんと素晴らしい力が宿っている。それは『剣聖』というスキルだ」
「……けんせい?」
「うむ。剣術スキル系統の最上位に属するスキルであるぞ。剣ならば、その形状や長短を問わず自在に使いこなすことができるようになるはずだ。おそらくわが国で勇者殿に敵う者はすでにいないだろう」
「なにそれすごい」
(……剣道部では万年補欠以下のザコで後輩にすらボコボコにやられる俺が、剣聖だって?)
冗談みたいな話だとユウは思ったが、妙な実感もあった。
取り巻きの騎士っぽい人たちの一挙一動が『理解る』のだ。
例えば。
……王様の隣に控えている大柄な騎士っぽい男は、こちらをかなり警戒している。
すぐに剣を抜けるように、少し半身に構えている。典型的な右利きの構えだ。
それにさっきから、強い『殺気』を感じる。
事を起こすとなれば、最初の挙動は鞘から剣を抜くと同時の斬り払いだろう。その次は振りかぶっての斬り下ろし。どちらも速いから、俺の現在の身体能力では躱せない。彼を無力化するのならば、騎士が剣を抜く直前に懐に入り込み鞘を抜こうとする手を左手で軽く押さえ、もう右手で彼の眼球を――
「…………っ!?」
ほんの一瞬で、大柄な騎士を『殺す』イメージがブワッと頭に浮かび上がってきた。
(なんだ……これ)
自覚した瞬間、ドッと嫌な汗が噴き出てきた。
「む……恐れながら、我が主」
大柄な騎士が顔をしかめると、隣の王に話しかけた。
「彼は今、殺気に反応して私を殺そうとしました。そしておそらく、それはたやすく成されたことでしょう」
「ほう……そうか、そうか」
王様は満足げに顔を綻ばせ、大きく頷く。
「……自覚したであろう。そなたには『剣聖』の力が宿っておる。食事用のナイフが一本でもあれば、今この場で我々を皆殺しにできる力だ。だが……願わくば、その力を魔王討伐に役立てて欲しい」
「……力があるのは分かりました。でも……少し考えさせてください」
そう言うのがやっとだった。
吐きそうだった。
殺意を向けられたからじゃない。
自分が容易く人を殺そうと、そしてそれを当然のこと感じ、実際に事を成そうとしたことに……強いショックを覚えたからだ。
そんな様子を慮ってか、王がユウの肩にそっと手を置いた。
「今は混乱していることだろう。だが安心してほしい。我々はそなたの味方だ。魔王討伐に向かうのならば、全面的に応援する用意がある。当然だが、一人で挑めと言うつもりもない……聖女殿、お二人とも前へ」
「……はい」
「……はっ」
王に呼ばれて囲いから前に出てきたのは、二人の女性だ。
どちらも宗教めいた清楚な服装に身を包んでいる。
歳はどちらも十五、六歳くらいだろうか。
ひとりは淡い青髪で優しそうな顔立ち。
もう一人は真っ赤に燃えるような髪色で、勝気そうな顔立ち。
「…………っ」
ユウは二人から目を離せなくなった。
二人は信じられないほど美しい少女たちだった。
同じ人間だとは思えないほどに。
もちろんこの場には、他にも美女はいた。
だがそれでも……この場にいる他の女の人と比べてもあまりに飛びぬけていたのだ。
二人はユウの前にやってくると、軽く頭を下げた。
「お初にお目にかかります、勇者様。私は『氷牢の聖女』ミーネと申します」
「あんたが勇者か。あたしは『炎獄の聖女』ライラだ。まあ、よろしく頼むぜ」
「この者たちは魔王を封印する力を持つ『聖女』だ。同時に、彼女たちは勇者殿を助けるために必要なあらゆる教育と高度な戦闘訓練を受けている。道中、そなたをしっかりと支えてくれるはずだ」
「よ、よよ……よろしくオネシャス!」
王が二人を紹介してくれた。
だが二人のあまりの美貌に、ユウはしどろもどろになってしまった。
「さて、お互い自己紹介は済んだことだ。勇者殿は急なことでお疲れだろう。王宮の中に部屋を用意してあるから、今日はもう休むといい」
「ふふ……存外可愛らしい勇者様で安心しました。さあ、こちらへどうぞ」
「ま、仲良くやろうぜ、勇者君」
青赤二人の美少女が妖艶な笑みを浮かべながらユウの両脇に立つと、腕にスルリと手を回してきた。
さきほどの清楚な雰囲気はどこへやら。
ユウはまるで二匹の蛇に睨まれた哀れな蛙の気分だった。
「…………っ!?!?」
(…………俺はこれから一体どうなってしまうんだああぁぁぁっ!?)
ユウの心の叫びは、誰に届くこともなかった。
◇
※特に主人公チェンジとかはなく、次回から本編に戻ります。
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