第19話 社畜、初めての狙撃
「あ、あっぶねえぇぇぇぇ……!」
マジでギリギリだった。
ドンピシャでドラゴンの頭部をマックスまでチャージした『魔眼光』がブチ抜いたおかげで、一撃で撃墜することができた。
ナイスエイム、俺。
ドラゴンが女騎士っぽい人に襲いかかる寸前に一瞬動きが止まったのは、まったくの偶然だ。
なんか喉元が焼けた鉄みたいに赤熱していたから……もしかしてブレスを吐く体勢だったのだろうか?
だとすれば、選択を誤ったなドラゴン君よ。
そのおかげでしっかり狙うことができた。
もちろん女騎士さんも修道女さんも無事だ。
足元でクロも『でかしたぞ』みたいな顔で俺を見上げ、誇らしげに尻尾をブンブンと振っている。可愛い奴め。
「あの、大丈夫ですか……?」
首無し死体になったドラゴンを避けるようにして二人に近づき、声をかける。
もちろん左目は警戒されないよう『魔眼色解除』で普通の目の色にしている。
その辺はぬかりない。
「む……っ!?」
と女騎士さんがこちらを見て、驚いたように目を見開く。
それから、両手に持っていた剣を構えようとして……すぐに下げた。
急に声を掛けたせいで驚かせてしまったようだ。
「失礼。……貴方がこれを?」
女騎士さんは何か絡まったものを解くような動作をしてから剣を鞘に納め、光の粒子へと還りつつある竜の死骸に視線を落とした。
……不思議なもので、鎧姿の人物に剣を向けられたというのに俺は全く恐怖感を覚えなかった。
もしかしたら、これまでダンジョンで魔物を大量に倒してきたことと竜を倒したことで感覚が麻痺してしまったのかもしれない。
「ええと……まあ、はい」
どう答えたらいいか分からなかったので、とりあえず曖昧に答える。
「あの、レーネさん。間違いないと思います。私は、彼が魔術で竜の首を吹き飛ばすのを見ました」
修道女さんが立ち上がると、そう補足してくれた。
「そう、だったのか……どうやら我々は命拾いをしたようだ。……感謝する」
「あの、私からも……助けて頂きありがとうございます」
「どういたしまして」
二人が頭を下げてきたので、俺も頭を下げる。
それにしても……二人とも、びっくりするほどの美人さんだな。
女騎士さんの方は、歳はおそらく20歳過ぎ。
銀髪で、キリっとした顔立ちだ。
身長は俺より少し低いくらいだけど、手足はスラリと長くモデルのようだ。
ちなみに修道女というかシスターさんはどことなく小動物っぽい雰囲気で、髪はサラサラの金髪。
歳は女騎士さんより若く、たぶん15、6歳くらい。
美人と言うよりは美少女、といった感じだな。
「申し遅れたが、私はレーネ・ロルナと申す。ノースレーン王国騎士団に所属する騎士で、現在はこの道の先にある監視砦に駐在している。こちらはアンリ殿。見てのとおり、シャロク教の聖じょ……巡礼者だ」
おお、いろいろ国名とか宗教とか出てきたけど何一つわからん。
あと今、そこの美少女シスターを見て『聖女』とか言いかけませんでしたかね?
まあ、聖女だろうがシスターだろうが俺にとってはよく分からん存在なわけだが。
とりあえず、この場所が異世界であることは間違いなさそうだ。
それはさておき、こちらも自己紹介はしておくか。
肩書は……商人かな? まあ、間違ってはいないはずだ。
「俺はアラタと言います。あ、姓はヒロイです。いちおう商人をしております」
「ほう……ヒロイ殿、か。初めて聞く家名だが、異国の民だろうか? ……いや、失礼。風貌がこの国の民とは異なるように見えるものでな」
「ええ……まあ」
とりあえず曖昧に濁しておく。
そっかー、たしかに俺とロルナさんたちは髪や目の色、それに顔立ちもだいぶ違う感じだからな。
もっともそんな俺をきちんと人間として扱ってくれているのなら、彼女はそう悪い人ではないのかもしれない。
「……と、そうだ」
ロルナさんが思い出したように言った。
「命の恩人にこのような場所で立ち話というのも失礼な話だ。ヒロイ殿がよろしければ、砦までお越し頂けないだろうか? ドラゴンが退治されたことを報告すれば、砦主もヒロイ殿を歓迎するだろう」
なるほど。
おそらくこれは社交辞令というやつだな。
ロルナさんは口調こそ丁寧ではあるが、ややぎこちない態度からして、俺がこの場に居るべき人間ではないと察した上で対話しているようだ。
というか……彼女の視線は俺やクロの一挙一動を観察しているように見えるし、アンリさんをうまく庇うような立ち位置をキープしている。
さすがに盗賊だとか危険人物だとは思われていなさそうだが……恩人だからと手放しで歓迎されている風にも見えなかった。
これは、彼女の言葉を真に受けて、誘いにホイホイついていくのは遠慮した方がよさそうだ。
それに……
くいくいと足を引っ張られる感覚があり、下を見れば……クロが俺のズボンの端を咥え引っ張っていた。
そこで気づく。
腕時計をチラリと見る。
すでに時刻は21時を過ぎていた。
お誘いはさておいても、そろそろ帰宅しなければまずい。
明日は普通に仕事だからな。
「申し訳ありません、ロルナさん。ご招待頂きとてもありがたく思うのですが、実はこの先の村に向かうことになっておりまして……少々急いでいるのです」
「ふむ、
ロルナさんは一瞬だけ腑に落ちなさそうな表情したが、そう言って頷いた。
……ボロ、出してないよな?
ちょっと不安だ。
とはいえ、ことさら引き留めるつもりはらしい。
「本当にすいません。もし機会があればまたいずれ」
「貴方は私たちの恩人だ。またこの近くを通るときは……是非、砦を訪ねてほしい。門番にもきちんと話は通しておくから、むげに扱うようなことはしないと約束する」
「はい。そのときは是非に」
俺も一応そう言って、軽く頭を下げる。
こっちは社交辞令かどうかは分からなかった。
彼女はすぐに表情をキリっとしたものに切り替えると、姿勢を正す。
「すまないが、私たちもこれで失礼する。ワイバーンとはいえ竜が出現したのだ。速やかに砦へ伝えなければならない。また会えることを祈っているよ、ヒロイ殿。……さあアンリ様、行きましょう」
「はい。……ヒロイ様に、シャロク神のご加護のあらんことを。それでは、ごきげんよう」
そう言って、ロルナさんとアンリさんは道の向こうへと消えていった。
「……ふう。緊張した」
二人の姿が見えなくなると、力が抜けた。
一触即発というほどではないが、なぜか会話の端々にピリピリとした緊張感が漂っていてまるで新規顧客との商談みたいだった。
この手の腹の探り合いは、何度味わっても慣れないな。
『…………』
「おっと、ごめんごめん。夕飯まだだったな。さっさと帰ろう」
クロがフスフス鼻を鳴らしながら、俺の足に鼻先でツンツンと突っつき攻撃を繰り返している。
さっさと帰らねば。
まあ、このあと再びダンジョンを逆攻略することになるんですけどね。
とりあえずウザったい死霊術師スケルトンは全力でシバき倒しながら帰った。
……あ、もちろん短剣とかダンジョンでゲットしたアイテムはダンジョンの入口付近に置いて帰りましたとも。
銃刀法違反で捕まるのはイヤだからね。
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