社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第8話 社畜、見えないダンジョンに再アタックする
第8話 社畜、見えないダンジョンに再アタックする
「よし……行くか」
土曜の深夜。
人通りのなくなった街で、俺は気合を入れる。
俺の左目には、不思議な扉がビルの壁に見えている。
今日は準備万端だ。
もちろん明日も休みだから、ある程度夜更かしもできる。
何かとブラックな仕事環境の弊社だが、会社全部がブラックというわけではない。
昨年に同僚が働き過ぎて身体をぶっ壊し病院送りになったせいで、コンプライアンス遵守を名目によほどのことがない限りカレンダー通りのお休みが貰えるようになったのだ。
もっともそのおかげでノルマクリアのハードルが上がったので痛し痒しであるが……
それはさておき。
準備万端といっても、たいしたものは持ってきていない。
動きやすい服に、昼間バイク用品店で買ってきた手足のプロテクターを装備。
リュックに入っているのは携帯食料やチョコなどの食料と水、それに懐中電灯とか換えの着替え、それにホームセンターで買ってきた小道具をいくつか。
武器になるものも持ってきたかったのだが、日本の治安を維持する警察の皆様は非常に優秀である。
包丁とかナイフなんかを持ち出して職務質問を受けてしまえば、ダンジョン内で魔物に襲われて死ぬ前に最悪社会的に死ぬ可能性があった。
そこでどうにか持ち運びできるものとして選んだのは……小型のドライバーセットだった。
マイナスとプラス、それに
正直お守り代わりにしかならないと思うが、なんか尖っているヤツがないと不安だったからな。
まあ、これも目的なしに持ち歩くにはちょっと微妙なラインではあるが……どうにか言い訳が立つグッズである。
もっともあの広間には瓦礫とか壊れた椅子のような『重量武器』が転がっていたし、何より俺にはこの魔眼がある。
ドライバーセットを使うことはないだろう。
とにかく、『いのちをだいじに』が基本方針だ。
まあ、そうまでしてマナなんか集めなくてもいいと言えばいいのだが……好奇心に勝てる人間はそうそういない、ということである。
「……よし」
しばらく深呼吸をして気持ちを落ち着けたら、いざダンジョンに潜入だ。
扉は、この前と同じようにあっさりと開いた。
内部も、前回と同じ。
そのまま慎重に進み、前回と同じ大広間に出た。
「よし、この前と変わってないな……それも変な感じだが」
そう。
ダンジョンの広間は、何も変わっていなかった。
瓦礫の位置も、床の汚れ具合も。
スライムに遭遇して戦い、これらを全滅させる前の状態に戻っていたのだ。
「はは……いよいよゲームじみてきたな」
要するにこのダンジョン……一度出るか、一定時間が経過することで内部の様子がリセットされるらしい。
そして、その推測を裏付けるように、俺が広間に入ってきたとたんスライムがあちこちから出現してきたのだ。
「出現位置は前回と違うな。数は……13体か。前回よりも多い……のか?」
どうやらスライムの出現位置、出現数は変動するようだ。
とはいえ、やることは変わらない。
俺は近くにあった手近な椅子を手に取った。
「……あれ?」
そこで、妙な違和感に気づく。
なんか、この椅子、ずいぶん軽いな!?
つーか前、こんなに軽かったっけ?
結構苦労して振り回していた気がしたんだが。
……もしかして。
これはスキルのせいか?
そういえば、すでに取得しているスキルの中に身体能力を向上させるものがあった気がする。
「…………」
とりあえず掴んだ椅子をブンブンと振り回してみる。
まるで発泡スチロールでできているのではないかと思うくらい、軽かった。
本体の重量による抵抗より、空気抵抗の方が強かったくらいだ。
「……ははっ、すげぇ」
これ、多分普通の腕力じゃないぞ。
ムキムキの格闘家でもないのに、5キロ近い木製の椅子をビュンビュンと鋭い風切り音が出るまで振り回せるわけがない。
これがダンジョン限定なのか、現実世界でもそうなのかは分からないが……今はどうでもいい。
肝心なのは。
――スライムなんて、何匹出てこようがもう俺の敵じゃない……ってことだ。
――こいつらは『獲物』だ。
それを自覚したとたん、俺の中でカチリと何かが決定的に変わった気がした。
狩られるものから狩るものへ。
そう、俺は狩る側だ。
「……くくっ」
思わず笑みがこぼれた。
自分でも聞いたことがないような、獰猛な笑みだった。
『――――』
じわじわと近づいてくるスライムたちの中心部には、魔眼により暴露された弱点が強く光っている。
前回は強く意識しなくては分からなかったが、これはスキル『弱点看破』の力だろうか。
いずれにせよ、あんな弱点丸出しの魔物に負ける要素はもう存在しない。
「じゃあ、いっちょやったりますか……うおりゃっ!!」
――ぶちゅっ!
一番近くにいたスライムに椅子を振り下ろすと、簡単に潰れてしまった。
弱点ごと、粘液を撒き散らしながら飛び散って、それでお終いだった。
「あっけないな」
もはや、スライムに対する怖さは微塵も感じなくなっていた。
「じゃあ、どんどん片付けるか」
すでに、広間のスライムを全滅させるのはただの作業に変わっていた。
◇
「ふう……これで終わりか」
ものの数分でスライムを全滅させた俺は、近くの瓦礫に腰掛け、持ってきたスポーツ飲料を飲んでいた。
なんというか、軽い運動をした後のような爽快感だ。
というか、軽いかどうかはともかくとして、これって一応運動だよな?
格闘技とかもスポーツだし。
ちなみにステータス画面を呼び出して余剰マナ総量を確認したら、196になっていた。
すでにあった余剰マナが40だから、獲得したのは156マナということになる。
……計算はあまり得意でないので、とりあえずスマホの計算アプリで確認すると、スライム一体あたりのマナは12だった。
前回倒したのはちょうど10体だったから、とりあえず合っていると思う。
できればこの場でスキルを上げられればいいんだが……
《スキル不足:ダンジョン内ではステータス操作を行えません》
ステータス操作をしようとしたが、アラートが出てきてしまった。
なるほど、そういう仕様ですか。
まあ、今すぐ取得しておきたいスキルはないし、このまま進むことにする。
……このマナ、俺が魔物に殺されたらどうなるんだろう?
やっぱりロストするんだろうか?
まあ、死んだらそもそも終わりだから関係ないか。
ゲームじゃあるまいし、蘇生なんてできないだろうし。
……まあ、このことは考えても意味ないか。
「よし、休憩は終わりだ」
戦闘結果も確認したところで、俺は瓦礫から立ち上がる。
今日の目的は、まだある。
「あの扉の先って、どうなってるんだろうな」
この広間には、まだ先に続く扉があるのだ。
その奥を確認せずに、今日は帰れない。
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