第20話 逃走再開


「これはたまげた……」


 店主のおじいさんは、目の前で起こる光景に驚いていた。

 コウが光に包まれる光景を見たことがあるアロナも、驚いていた。


「なんか光の色が紫だよ!? コウ大丈夫なの!?」


「……」


 みるみる光の形が変化していく。


「――おおっ!」


 光が次第に消えていくと同時に、コウの全身が顕になっていく。


「え? コウ……なの?」


 アロナが恐る恐る聞いてくる。


「あ、ああ。俺も俺なのか、正直怖くなってる」


 なんとコウの体は、紫色の細い姿になっていた。

 今までの甲冑の騎士ではなく、闇に生きる殺し屋……いや、死神と言った方が正しいだろうか。


「ホホホッ。様になってるじゃないか。カッコイイぞ」


「そ、そうか?」


 これだけ姿が変わったんだ。

 能力もかなり変化があるんじゃないか?


形態変化メタモルフォーゼ

 【モード:凶手トレット

  ・暗殺者、シーフのスキルが使える。

   (無条件で、全体の7割程使うことができる)

  ・身体能力が上がり、スタミナが上がる。

  ・本人のレベルが上がれば、比例して使えるスキルが強くなる。

  ・通常の姿の半分しか力が出ない。


 超便利じゃん!

 正面からの戦闘は不向きだが、使えるスキルが多すぎて全然許容できる。

 一度に全部把握できないのがちょっと残念だが……。


「――おい! こっちの店で何か光ったぞ!」


 バレたかっ。


「追われているなら、裏口を使うといい」


「本当か! ありがたく使わせてもらう」


「ありがとうおじいちゃん!」


「いいよいいよ。しかし、その右腕で逃げ切れるのかい?」


 店主のおじいさんは、コウの負傷した右腕を指差した。


「まあしょうがない。治癒してもらってこれだからな」


「ちょうどいいポーションがあるんだが、飲んでいかないか?」


「そんな便利なポーションもあるのか?」


「あっという間に傷を全部治すことができるのさ。レベルを1つ消費してな」


 流石に代償はあるよな。

 だがレベルの低い今なら使っといて損はないはずだ。


「貰いたいんだが……もうお金がなくて」


「これはサービスだよ。無料ただで持っていってくれ」


 そう言った店主のおじいさんは、奥からすぐに持ってきてくれた。


「でも――」


「遠慮してる暇ないよ! 早く!」


 アロナはすでに、裏口の扉を開けて、外の様子を確かめている。


「……ありがとう。貰っていく」


 コウは店主のおじいさんからポーションを貰い、即座に飲んだ。


「――おおっ!」


 フッと右腕が軽くなった。

 これなら――。


 コウは腕を固定している包帯をブチッと破き、裏口に向かって走り出した。


「後でお金払いに戻ってくるから!」


 コウはそう言い残し、アロナと共に店を飛び出した。


「フフッ、とうとうアロナちゃんにも友達ができたか……」


 店主のおじいさんは、微笑ましい顔でカウンターに戻っていった。




◇ ◇ ◇




 あの後コウとアロナはある方向に向かって走っていた。


「これから向かうのは?」


「私たちが前入れなかった、あの甲冑専門店に行く」


「あそこにか?」


「うん。人気もないし、最悪店に入っても、あの甲冑が撃退してくれるでしょっ」


 まあ確かに、あの辺りは全然人がいなかったな。


「よし分かった」


「じゃあ目立たない道で行くから、見失わないでね!」


 アロナはそう言うと、速度を上げた。


「おうっ!」


 現在俺は、気配を消す【隠密】。

 一次的に速く走る【疾走】の2つのスキルを使っている。

 初めて使うが、感触は悪くない。

 この【凶手トレット】はこれからも使わせてもらおう。


「――いたか! 早くしないとリーダーに叱られるぞ!」


 ここら辺にも追っ手が来ているのか。

 ここまで来ると、まるで指名手配の犯罪者だな。

 最悪道を挟まれたとしても、高く飛ぶことができる【カエル飛び】。

 壁や天井に引っ付くことができる【吸着】を使って、建物の屋根に上って逃げることもできる。


 これなら余裕で逃げ切れ――。


「――ヤバい来る」


 アロナとコウは異変に気付き、足を止めた。

 その瞬間――。


「なっ……!?」


 目の前の建物が崩壊し、大きな土の塊が現れた。


「デカすぎだろ……。モンスターか何かかよ」


「トップ3には入らないけど、それに続くパーティーのリーダーだよ!」


「グゥ……ミツケタゾ……」


 その土の塊は、やや人間のような形をしており、モンスターで言う『ゴーレム』に近い形をしていた。


「……フッ」


 早速この【凶手】の戦闘を試してみるか。


「何やってるのコウ!」


 コウはアロナを無視し、戦闘態勢に入った。


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甲冑人生 ~目が覚めたら全身甲冑だった~ ダブルミックス(doublemix) @doublemix

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