12:大はここにいる。/完
ここまで、来ちゃった。
……病院まで。
あいつはどうなったんだろう。
怖い。
もし、あいつが死んじゃってたら?
そう思うと怖い。
でも、前へ進まなきゃいけない。
ちゃんと確かめなきゃいけない。
「あ、空!」
意を決して開けたドアの先。
りこの姿に少しホッとする。
そして、その先、
ベッドの上にいるのは――。
生きてた。大が、生きてた。
そんな大が見上げていたのは、
初めて会った時と同じで、
やっぱり空だった。あの、大空。
「だ、大……? い、生きてる? 大、生きて、る……?」
あたしが名前を呼んだのを聞いて、
その瞳があたしの姿を捉えた。
けど、
「えっ、なんで、俺の……」
大は困惑していて。
「大、この子ね、私の友達で空っていうんだけど、知らない?」
「はい?」
あたしのこと、忘れちゃった、の?
大があたしのことをじっと見た。
それから、再び窓の外に広がる空に目をやる。
あたしらしくない。
こんなの、あたしらしくないのに、
泣きそうになる。
大が生きてることは嬉しいのに。
あたしを忘れていることが寂しい。
なんて、俯いてたら、
「そ、ら……!? あ、あぁッ!?」
大が急に叫び出す。
あたしのこと、思い出した?
思い出して、くれた?
「おいおい。でかい声出すと身体に悪いぞ」
「うわッ! 空だッ! 空、空空空ッ! 空ぁーッ!!」
う、嬉しいけど!!
嬉しいけど恥ずかしい!!!
「……じゃ、あたしこれで帰る!」
「ちょ、ま、待てよッ!」
「空、空ぁ! なに照れてるのー?」
「え? 空、照れてるの?」
大のお父さんらしき人があたしを見て、
ニヤニヤしながら言った。
「おい、大、この子もしかして、お前の彼女か?」
「ち、ちち違う! ち、ちがっ、違います!」
思わず慌てて否定してしまう。
か、かの、かの……ち、違うし。
告白もしてないし、されてもないし。
「なぁ、俺さ。空にずっと言いたかったことがあったんだ」
「え?」
急に大が真剣な表情になった。
「俺は、生きてるから。ここに、いるから。だから、ちゃんと言うよ」
「……大?」
な、なんだろ。ド、ドキドキする。
あ、あたし、まだ、心の準備ができてない。
どどどうしよう、好きって、言われたら。
え、でも、まだそうだと決まったわけじゃないし。
「空、俺とコンビを組もう。漫才コンビ。そう、コンビ名は大空だ!」
「は?」
「いや、絶対上手くいくと思うんだよな。俺たちって息ぴったりじゃん?」
な、なんで漫才コンビの話になるのよ!?
あの顔は! あの真剣な顔は! 雰囲気は!
なんだったのよ!?
他にもっと言うことあるでしょ!?
なに? あたしがこいつにドキドキしてる間、こんなこと考えてたわけ!?
「ばか、ばかばかばか、ばかばか、大のばかッ! ちょっとでも期待したあたしが、あたしが馬鹿みたいじゃないッ!」
「何を期待したんだよー?」
「そ、それはあんた、そ、それくらい察しなさいよッ!?」
っていうか多分、わざとでしょコイツ!!
「どーせ俺はバカですよー」
「それくらいとっくに分かってるわよ!」
一応、加減はするつもりだけどムカついたから平手打ちでも喰らわせてやろうかと手を前に出した瞬間、
「空、好きだ」
……え? 今、えっ!?
好きって、す、好き、って。
「俺と付き合ってください」
その瞬間、拍手と口笛が響き渡った。
「こ、この状況で断れるわけないじゃないッ! ば、バカ……」
こ、告白、された。す、好きな人に、
告白、告白……。
「空、おめでとッ! ふふ、良かったじゃん」
りこかあたしの頭を撫でる。
なんか、こう、すごく微笑ましそうに。
それがなんか、もう、恥ずかしくて、
「なッ!? べ、別に嬉しくなんか……」
そんな風に返してしまう。
「空は素直じゃないよなぁ」
「そうそう、素直じゃないよねぇ」
だ、誰が素直じゃないって!?
って不機嫌になりながらも、
……本当は、ちゃんと分かってる。
素直になれないのはあたしで、
大も同じ気持ちだって知って、
すごく嬉しいって、思ってる。
でも、まだ、教えてあげない。
だって、悔しいもん。
そんなことを思いながら、
大達が話しているのを聞いていた。
毎日毎日、変わらないと思ってた。
勉強ばっかで終わると思ってた。
恋なんて関係ないと思ってた。
でも、大に会って変わった。
変われたんだと、思う。
ふと、あいつを見てみた。
あいつはまた空を見てた。
もう、あの時の瞳じゃない。
すごく、すごく、幸せそうな顔。
そんな大を見てるあたしに気付いて、
大がすごく、すごく優しく笑った。
あいつに出会えて良かったって思う。
本当に、良かったって。
ありがとう。
ここにいてくれて、ありがとう。
生きててくれて……ありがとう、大。
SORA-君がいて僕は大空になる- @hbiy0514
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