第13話  悲しいさだめ

 浜治屋での生活に慣れた紗季は十八の夏を迎えた。

 陽射しが照り付ける暑い日だった。

 盆の挨拶回りに出ていた平太が汗を落としているところに、紗季も井戸端にやって来た。

 その時、紗季は偶然にも平太の背中に大きな刀傷があるのを見てしまった。

 紗季は慌てて見なかったふうを装い、

うりが程よく冷えました、後ほどお持ちしますね」

 その場を取りつくろい台所に入った。

 浜治屋の使用人は殆どが里帰りをしていた。くみも父親の新盆のため実家に帰っていた。

 紗季は平太の部屋に瓜を持っていくと、部屋からは線香の香りが流れ出ていた。

「どうぞ入ってください」

 平太の招きにより中に入ると、部屋の隅にはささやかな盆飾りがあり、小さな位牌の両側には花が供えられていた。 

 平太は紗季から瓜を受け取ると、位牌の前に置いて供えた。

「先ほどは見苦しいものをお見せしました。おさきさんと初めてお会いした時に、街道で命を救われたと話しましたがその時にできた刀傷です」

 紗季が黙って頷くと、平太は話を続けた。

「わたしが武士であったことはご存知と思いますが、斬り合いで虫の息だった私をたまたま通り掛かっただんな様に救われたのです。だんな様は荷馬車でわたしを医者まで運び、多額の治療費まで出してくださいました。回復してからは武士を捨てることに決めて、恩ある浜治屋の使用人となったのです」

「武士の身分を捨てることに戸惑とまどいはございませんでしたか」

 紗季は平太が傷を負っただけで商人へ転身したとは思えなかった。

「わたしはある命を受けて旅をしていたのですが、わたしが死にかけていた時にはすでに大切な人を失っていました。絶望の淵で武士が嫌になったのです」

 平太は悲しげな眼で位牌に視線を移した。

「そのお方は」

 紗季が尋ねると、

「妻です。いや正しくは妻となるはずの人でした」

 と平太は答えた。紗季は訊いてはいけなかったような気がした。

 平太が妻をめとらぬ理由もここにあった。

 紗季は平太が彼岸に休みを取っていたのを思い出した。



 秋になり三治が江戸で平九郎や源兵衛と再会した頃、紗季は松本の浜治屋で江戸行きの準備をしていた。

 貯めていた給金が江戸までの路銀になろうとしていた。

 そんなある日、紗季は使いに出た道すがら平太が野の花をんでいるのを見かけた。

 紗季が何となく後を追うと、平太は沢山の野菊を抱えて寺の門をくぐって行く。

「番頭さん、お墓参りですか」

 紗季が声を掛けると、平太は驚いたように振り返った。

「おさきさん、どうして此処に」

「花を摘むお姿が見えたものですから」

 そう言って共に墓地へ向かった。

 やがて日の当たる場所にある墓石の前に来ると、平太は周りの雑草を刈り落葉を集めて火をつけた。

 白い煙が高く昇り、青い空に吸い込まれた。

 平太が墓石に水をかけて洗うのを見て、紗季も手伝って丁寧に布でぬぐった。すると墓石の表面に彫られた観世音菩薩像がくっきりと表れた。

 その時である。紗季は裏に彫られた名前を見て驚いた。

 そこには野尻小平太と野尻菊枝の文字が並んでいた。菊枝の名の下には元禄六年十月十五日没とあり今日がその命日だった。

「番頭さん、あなたは野尻小平太様だったのですね」

「そうです、墓石の裏を見たのですね」

 平太には紗季が何故そんなに驚くのかわからなかった。

「わたくしはお父上の平九郎様とお会いしました。良い知らせもございますよ。千代松君は生きておられます」

 今度は平太が驚いた。

「詳しく聴かせてください、おさきさん」

 二人は側の石に腰を下ろした。

 紗季が平九郎の苦労や美濃助から得た話、そして紗季が過ごした三治との時間を詳しく語ると、平太は目をみはって聴くうちに目を真っ赤にして涙を流した。

「菊枝、よく頑張ったな」

 平太は墓に白い野菊を供えながらいとおしに呼びかけた。

 当時、小平太が倒した藩士たちは用人によって密かに運ばれたが、小平太と菊枝の亡骸は行き倒れと同等扱いで町役人に委ねられた。

 小平太は町役人が到着する前に浜治屋の宗衛門に拾われ、菊枝だけが無縁仏として葬られた。

 医者の所で目覚めたのは一月後で、すでに新しい藩主が決まっていたばかりか小平太と菊枝は千代松を拉致した咎人とされていたと平太は語った。

 死人にむちを打つような仕打ちに、武士に愛想あいそが尽きたのももっともな話だった。

 平太となった小平太は菊枝の墓を松本に移した。

「菊枝とは旅が無事終わったら祝言を上げる約束でした。生きて叶えることはできませんでしたが今は夫婦です」

 平太は穏やかに微笑んだ。

「寂しくはございませんか」

 紗季が問うと、

「わたしはいつも菊枝に話しかけています。その日の出来事や己の感じたこと、旅の空の下では美しい景色や野辺に咲く花など、話すことは沢山あります。するとそれにこたえて菊枝の声が聞こえてきます。優しい笑顔が浮かんできます。未だ二十歳の菊枝は輝くような美しさで微笑んでくれます。どんなに遠く離れていても、心が忘れなければ共に生きて行けるのです」

 平太は力強く言った。

 帰り道、平太は暫く沈思ちんししていたが急に立ち止まると、

「千代松君が生きておられたのならば、わたしは最後の忠義を果たさねばなりません」

 と、武士の顔に戻って告げた。

「何をなされるおつもりですか」

寒鰤かんぶりの時期は動けませんから、年が明けたら江戸へ旅立ちます。おさきさんも共に参りましょう」

 紗季自身もその時が来たと思った。


 正月が終わり、浜治屋に使用人たちが戻って来た。

 浜治屋にいつもの活気が戻り、忙しい日々を送るうちに中山道を旅してきた客から雪解けの知らせが届いた。

 平太は留守の間の仕事を分担し、旅への支度を始めた。

 そして旅立ちの朝、

「紗季様、やっと江戸へ行けますね。あたしのせいで一年も延びてしまいましたが恋しいお方に逢えればいいですね」

 くみは励ますつもりで明るく言ったが、何故か紗季が二度と戻らぬような気がして悲しかった。

「三治さんが何処にいるのかもわからないのよ。会えるといいけど」

 紗季は不安を感じながらも、今は前に進むしかないと自らを奮い立たせた。

 平太の忠義、そして紗季の願いもすべての鍵は祥法院にあると平太は考えた。

 平太と紗季はその一点に向かって歩き出したのであった。


 残雪の難所をいくつも乗り越え、平太と紗季はやっと江戸に辿り着いた。

 その日は早々に宿を取り、旅の汚れを落として明日に備えた。

 翌朝、紗季は髪を結いなおし身なりを整えた。平太は町人姿のままだ。

 二人は緊張した面持ちで祥法院の屋敷を訪ねた。

 来訪を聞くやすぐさま祥法院が座敷に現れた。

「小平太、生きていてくれたとは……よう戻りました」

 祥法院は歓喜の涙を流した。

「祥法院様、お久しゅうございます。おめおめと生きながらえておりました」

 平太は小さくなって畳に手をついた。

「生きてまた顔を見られただけで嬉しいのです。それよりその町人姿はどういうことですか」

 祥法院の問いに答えるため、平太は生き延びた経緯を語った。そして、

「意識が戻るのに一月ひとつき、身体が戻るのに三月みつきかかりました。その時には典定様がすでに藩主の座に就かれ、咎人とされたわたくしにはもはやできることはございませんでした」

 と胸の内を明かした。

「さぞや無念であったことでしょう。武士に嫌気がさすのもわかります」

 祥法院の慈悲に満ちた言葉に、平太は目を閉じて黙ったまま頷いた。

「されど此度は何故わたくしに会おうと思ったのですか」

 祥法院が不思議に思って訊くと、

「紗季という娘御から千代松君の生存を知らされたからでございます」

 平太の答えに祥法院は驚いた。

「平九郎といい、そなたといい、余程その紗季という娘と縁があるようですね。千代松に至っては夫婦になりたいと願っておるのです」

 今度は平太が驚いた。

「実は紗季も若君にお会いしたいと、共に旅をして参りました。別室にて控えております」

 平太がそう言うと、祥法院は侍女に紗季を呼びに行かせた。

 座敷に現れた紗季は、目を伏せたまま静かに平太の後方に正座すると頭を下げた。

「紗季とやら、面を上げて顔を見せておくれ」

 紗季がゆっくりと顔を上げると、祥法院はそのたたずまいや所作を見て良家の娘らしい品の良さを感じた。

「そなたは我が家中かちゅうの娘御ですか」

「はい、わたくしは国家老剣持玄馬の娘、紗季にございます」

 祥法院の問いに紗季が答えると、平太が驚きと困惑の表情で紗季を見た。

 しかし祥法院は気付かずさらに訊いた。

「千代松に会うために江戸まで来たそうですが、何か伝えたきことがあるのですか」

「若君は宍倉様配下の天野という武士を倒しましたが、宍倉様は面目を潰されたと刺客を立てました。わたくしは若君の御身が心配で、ご注意あそばすようお伝えしたかったのでございます」

 紗季が訳を話すと祥法院は、

「千代松を案じて来てくれたのですね。されど心配は無用です。宍倉梅膳は公儀隠密であることが判明し、すでに一味は壊滅かいめつしました」

 と紗季を安心させた上で、

「それより千代松はそなたを娶りたいと願っていますが、そなたの気持ちはどうですか」

 と、唐突とうとつに尋ねた。

 紗季が頬を染めて返答の言葉を探していると、平太が割って入るように進言した。

「祥法院様、そのお話は少し待っていただけませんでしょうか」

「どうしたのですか、小平太」

 平太の慌てた様子を見て尋ねた。

「此度わたくしが恥を忍んで参上しましたのは、謀反の証拠が存在することをお知らせするためでした」

「何と、証拠があるのですか?首謀者は誰ですか」

 祥法院は驚いて問い詰めるように訊いた。

「当時わたくしは若君と共に証拠も失ったと思っておりました。祥法院様は若君が身に着けていた道中着が何処にあるかご存知でしょうか」

「それなら千代松から受け取りわたくしが持っております」

 平太の目が喜びに輝いた。祥法院は期待に肩を震わせた。

「その道中着のえりに菊枝が証拠の書状を隠したのです」

 祥法院は再び侍女を呼び、道中着を持ってこさせた。

 小刀で糸を切り襟を開くと、中から油紙に包んだ書状が出て来た。

 それは剣持玄馬が毒薬を届ける際に用人に宛てたもので、泉寿院と香取が殿を殺害したように領内に入ったところで本陣にて千代松にも同じ毒を使えという内容の指示書だった。

 当時、千代松の毒殺を未然に防いだ小平太は用人を斬り、菊枝は奪い取った書状を道中着に隠してから千代松に着せたのであった。

 祥法院は書状に目を通してから、苦しみと悲しみが入り混じった目で紗季を見つめた。

「どうやら千代松とそなたの婚姻は叶わぬようです。謀反の首謀者が剣持玄馬であると判明しました」

 祥法院は動揺どうようを抑え、自らを落ち着かせると静かに告げた。

 紗季は雷に討たれたような衝撃に思わず腰を折って手をついた。 

 みるみる顔面蒼白そうはくとなり、畳に手をついたまま激しく震え出した。

「申し訳ございませぬ。罪深い家に生まれながら若様に学問をお教えしたり、ましてはお慕いするなど身の程知らずでございました。祥法院様におかれましては、わたくしは憎き存在でございます。どうぞ父と共にお手打ちにしてくださいませ」

 とぎれとぎれの息づかいの中でそれだけ言うと、紗季は気を失ってその場に倒れた。

「子には罪がないとはいえ、不憫ふびんな娘じゃ」

 祥法院はつぶやくと、侍女たちに紗季を別室にて寝かせるよう命じた。

 紗季がいなくなると平太は、

「以前わたくしが諦めたのは咎人にされたことばかりではございませぬ。泉寿院様の出自を調べましたところ、剣持玄馬が若い頃に囲っていた女との間に誕生した娘を薬師問屋の養女としたことがわかりました。その娘こそ美和すなわち泉寿院様でございます。従って典定様は剣持にとって孫に当たります。わたくしの力では一族で繋がれた権力を崩すことなど不可能と思ったからでございます」

 と新たな事実を伝えた。

「私欲にまみれた母と祖父の間で典定殿は領民のためによう励んでおる。考えてみれば典定殿も過酷かこくなさだめを背負ってしまったようですね」

 祥法院は謀反に巻き込まれた数多あまたのさだめに想いをせた。

「平太、謀反を起こした者どもを断罪した後はまた武士として戻ってきますか」

 平太は平伏すると、

「有難いお言葉ではございますが、野尻小平太は菊枝と共に死にました。これからも町人のまま菊枝の菩提ぼだいを弔いながら夫婦として生きとうございます」

 と、丁重に断った。祥法院もその気持ちを理解していた。

「わかりました、菊枝の家族にもその旨伝えておきます」

「かたじけのう存じます。良しなにおとりなしくださいませ」

 平太が退室しようと立ち上がると、祥法院は一言付け加えた。

「紗季は暫く此処にとめおきます。見放したら死んでしまうでしょうから」

 平太は丁寧に頭を下げ、座敷を後にした。


 紗季が目覚めた時、傍らには祥法院が座していた。

「気が付きましたか、だいぶ顔色もよくなりましたね」

 慌てて起き上がろうとする紗季を手で制してから言った。

「心が落ち着くまで寝ていなされ。そなたに罪はないのです、生きなければなりませぬ。そなたが死ねば千代松も小平太のようになってしまいますよ」

 祥法院の優しさが身に染みた。紗季が手で顔をおおって泣くと、祥法院はその手を取って両手で包んだ。


 祥法院に呼ばれた早見徳之進は証拠となる書状を見せられ暫し沈思した。

「大物三名が首謀したとなれば、用人・側近・配下の武士などを加えると藩を上げての大掃除となりましょうな」

 早見は眉間に深いしわを寄せて言った。

「問題は典定殿です。藩主を咎人にしてはなりませぬ。幸い剣持と典定殿の血縁は誰も知りませぬゆえ、泉寿院を何とかいたしましょう」

「それでは、泉寿院様の罪は問わないと仰るのですか」

 早見は驚いて祥法院の顔を見た。

「いいえ、泉寿院には先代の殿を毒殺した大罪があります。さりとて藩主の実母を打ち首にはできぬでしょう。泉寿院のことはわたくしにお任せください」

 祥法院は泉寿院との一騎打ちだと覚悟を決めていた。 


 翌日、祥法院の乗った駕籠かごが江戸屋敷の門を通った。

 屋敷を移ってから実に十年目の春であった。

 玄関前で籠を降り、奥座敷へと向かう。奥女中らが何事かとささやき合った。

 奥座敷では事前に来訪を知った泉寿院が威厳いげんを持って上座に座っていた。

「祥法院様、突然のお出まし、いったい何用ですか」

 と威嚇いかくするような目つきだ。

「本日は火急かきゅうの用があって参りました」

「何、火急とな。わらわは忙しいのです、れ言であったら許されませぬぞ」

 強気な物言いをしたが、泉寿院の目にはおびえの色が見て取れた。

「足掛け十年になりますが、謀反の首謀者がようやくわかりました」

 祥法院は相手の顔を凝視しながら切り出した。泉寿院は腰を浮かせぎみに身構えて、

「あれは謀反ではありませぬ。千代松君を拉致した二人を成敗しただけです。千代松君に至っては不幸な事故でした」

 慌てるように言った。

「わたくしは謀反の在る無しを論ずるつもりはありませぬ。謀反の首謀者が判明したと申し上げたのです」

「首謀者とは誰ですか。証拠を見せてくだされ」

 祥法院の落ち着きとは裏腹に泉寿院の目は血走り、膝に置いた手は重ねた甲に爪を立てていた。

「証拠は千代松が持っていた書状で、すでに使者がそれを持って国元に向かっております。それと千代松は生きておりましたよ、さらに野尻小平太も。二人もまた生き証人となりましょう」

 身構えていた力が抜け、浮いていた腰がぺたんと落ちた。泉寿院は抵抗する気力を失くした。

 祥法院はその姿を見すええると、

「ご先代や千代松を亡き者にして、何故そこまでして典定殿を藩主の座に就かせたかったのですか」

 厳しい口調で問うた。泉寿院は取り乱し、

「殿が憎かったからです。たった一夜で郁松を身籠みごもったものの、その後はわらわのことなど眼中になく捨て置かれたからです」

 と、感情を露わにした。

「そのような理由で、何と身勝手な……。あの頃殿は政務で大変ご苦労なされていた時期であった。お疲れの殿をいやす努力もせず、わが身の欲だけを押し付けたそなたから心が離れたのは当然のこと。真心を持って接しておれば殿もお応えになっていたはずです」

「そのようなこと、わかりようもない。わらわは町で育った十八の娘だったのじゃ、殿の方が気を遣うべきではないか」

 祥法院の話は空回りし、泉寿院はただの駄々っ子のようだ。 

「もはやそなたには罪から免れるすべはない。いさぎようご自害なされ」

「自害などせぬ。それほどわらわを死なせたくば、斬首するなり毒を盛るなりすればよい」

 泉寿院は涙を流しながら大声で叫んだ。

 それには動じず、祥法院は憐れみを込めた目で見つめた。

「そなたも一人の母親です。愛しい我が子に母の裁きをさせるつもりですか。典定殿は立派な藩主です。母君に死罪を言い渡すことになれば、その罪によって藩主となられた典定殿も自らおはらされることでしょう」

 祥法院の言葉は、同様に子を持つ母の心に響いた。

「わらわが自害すれば典定は生きながらえることができますか」

 泉寿院は上座より駆け寄り膝にすがった。祥法院はしっかりと頷いて、

「そなたのことは気鬱きうつによる自害と伝えましょう。そして泉寿院様が謀反に関わったことは秘密にいたします。剣持玄馬と香取弥七郎にすべてを被ってもらうことになるでしょう」

 泉寿院はその言葉を聴いて畳にひれ伏した。

「かたじけのう存じます。典定は藩主を続けられましょうや」

「その問いには答えられませぬ。藩主を替えるか否かは千代松が決めることです。但し、典定殿のまつりごとが如何に成果を上げて来たかは誰もが知っております。心配は無用かと思いますよ」

 泉寿院はいつしか穏やかな顔になり、覚悟ができた澄んだ目に変わっていた。

「今ならば早馬にて使者に追いつきます。国元で待つ千代松にわたくしの書状を届けさせます」

 最後の言葉を残し、祥法院は奥座敷を後にした。

 泉寿院はその後ろ姿に頭を下げ、祈るように手のひらをり合わせた。

 その夜、死装束しにしょうぞくを身にまとった泉寿院は、人払いをしたのち自室にて自ら命を絶ったのであった。

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