卒業
ナナシリア
卒業
卒業するときに、俺は涙を流すことが出来るだろうか?
卒業するときに、誰かが俺のことを遊びに誘ってくれるだろうか?
卒業するときに、学校生活の思い出をなにか思い起こすことが出来るだろうか?
俺は不安だった。
周りの同級生たちが、集まって卒業ディズニーだとか卒業ユニバだとか、そういう華々しい話をしている。
俺だって自分の中では積極的に彼ら彼女らに話しかけていたつもりだったが、俺に話が伝わっていないということは卒業なんちゃらを一緒に行くほどの仲でもなかったんだろう。
それとも、俺は話しかけていたつもりでも、彼ら彼女らにそんな意識がなかったのだろうか。
どちらにせよ、悲しくなったり寂しくなったりするのは俺だけだし、彼ら彼女らからしてみれば大して関係ないのかもしれない。
俺がいない中で話している卒業なんちゃらの打ち合わせに割り込むのも邪魔になるだろうから、教科書を開いて教室の隅っこで一人勉強する。
そこでディズニーだかユニバだかの予約がなんたらとか話が聞こえてきて虚しくなる。
「僕は予定が空いてないから、また次の機会に」
「俺もあんまりみんなで出かけるっていうのは好きじゃないな」
誘われたのに断る声が聞こえてきて、圧倒的なボッチの俺への当てつけかと疑うほどだ。誘われるだけありがたいと思えよ、と心の中で呟いて、憤りは手元のy=ax²にぶつける。
予定が空いてないのなら自分の意思じゃないので仕方ないとも思えるが、みんなで出かけるのが好きじゃないという断り方はもはや俺に殺意すら抱かせてしまった。
「君たちが来ないんだったら他に何人か誘おうかな」
俺を誘いに来ることはないと分かっていた。
そもそもこの学校に思い入れとかないし、だから卒業式にも別に行く予定ないし、と自分の中で言ってみるが、じゃあ俺が卒業式に出席したとしてその場で涙を流すことはできるのだろうか。
俺、感情がないんだ、って言って格好つけている中二病患者のように思われるほど無表情になるようにも思える。
だって俺がいろんなクラスメイトに積極的に話しかけるようになったのはここ一年間の話で、それ以前の記憶なんて薄すぎて泣いちゃう。
どのくらい薄いのかといえば、二枚重なって一枚になってるあんな感じのティッシュを剥がした片方くらい薄い。
というか俺が中学校に入りたての頃なんて尖りに尖って友達なんて全然いなかったし、どちらかといえば人生全体黒歴史なので卒業とか嬉しいと思わない。
「こういうところが尖ってるんだろうなあ」
「春休み一週目、空いてる?」
俺に突然話しかけてきたのは、卒業なんちゃらを最初に企画したディズニー大好き少女だった。
もちろんディズニー大好きなのはこの少女だけではないが、この少女は群を抜いてディズニーが大好きだ。
どのくらいかといえば、学校のバッグにディズニーのキーホルダーみたいなやつを三、四個つけてるくらいだ。
「え? 俺はほぼ毎日暇だけど……」
「私たちと卒業ディズニー行かない?」
彼女が提案したということからまあ卒業なんちゃらの『なんちゃら』の部分は十中八九ディズニーだろうと思っていたが、その通りだったようだ。
誘われないと思っていたのに誘われるとどこか気まずさを感じるが、誘われないと思っていたのは俺だけだったろうから、向こうからしたら気まずくはないのだろう。
「行きたい、誘ってくれてありがと」
「あれ、ディズニー嫌いとか言ってなかったっけ?」
それは尖り過ぎていたころの黒歴史だ。
ディズニーランドにはたくさんのカップルがいるからだとか、千葉にあるくせに東京を名乗っているからとか、いろいろ言い訳をしてたがやっぱり逆張りだ。
でも、友達に誘ってもらったという事実がある以上、もう俺にとってディズニーは好きな場所とすら言えるだろう。これから作る思い出を想起したから。
「今は好きだよ」
卒業 ナナシリア @nanasi20090127
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