星龍井戸譚 後書き&解説

並木空

星龍井戸譚 後書き&解説

 『覆面作家企画』のために書き下ろした作品でした。

 それを加筆修正したものがこの作品でした。


   ◇◆◇◆◇


  この話の書き始めは、「星が入った籠」というメルヘンな発想からでした。

 蛍の入った籠の類似品です。

 「籠」という字は「竹」と「龍」に分けることができます。

 竹の籠に閉じ込められている「龍」はどんなものなのだろうと考えました。

 この時点で、中華風、和風、現代ファンタジーに絞られてきました。

 「竹」は木気。木気が封じるのは土気。

 土気の聖獣は麒麟と黄龍です。

 というわけで、木気に封じられているのは黄龍だとなりました。

 風水、陰陽五行というわけで、舞台は古い時代のほうがしっくり来るだろう。

 陰陽師が大活躍な平安絵巻を原稿用紙20枚で書く自信がなかったので、中華風になりました。

 なので、『星籠』は四神をあしらった中央が黄金の石がはまった『銅鏡』になりました。

 水気を生む金気の材質です。だから作中で、井戸に落としました。

 子どもとも大人ともつかない少年少女が、井戸に銅鏡を叩き落す、シーンが頭に浮かび上がって、書き始めました~。

 陰陽五行をベースに話を掘り下げていきました。


 ちなみに假睡を中心とする地方では名門と呼ばれる家が五つあって、五行と関係している姓を名乗っています(本作では二つしか出ていませんが)。その五つのグループ内でかなり濃い血族結婚をくりかえしたりしています。

 平行従兄妹なのに黄垣筐が後継ぎな理由とか、語りだすとめちゃくちゃ長くなるので割愛です。

 午前は陽の気、男性を意味する。午後は陰の気、女性を意味します。

 なので、この二人は見事な太極(調和)なのです。


   ◇◆◇◆◇


 話の流れというか歴史観です。

 黄帝が蚩尤と大戦争をしました。

 当然、配下の黄龍は黄帝と一緒に地上で戦いました。

 ところが戦が終わって平和になってみれば、力を使い果たしてしまった黄龍は天界へ帰れなくなってしまいました。



 ……と、ここまでは中国の実際の伝承です。で、この先は捏造です。

 地に失墜した黄龍を埋めるべく、聖獣たちは中央に麒麟を置きました。

 黄龍には面白くありません。いつか天界に帰って見せると誓いました。

 天上に返り咲くには、五行の整った場所で、エネルギーを充電するしかありません。

 假睡の土地は風水的な見地で、完璧でした。

 黄龍はここでしばらく休むことにしました。

 とはいえ、ここで暮らしてきた人たちには迷惑です。

 巨大な龍が街の中央を占拠しているわけなんですから。

 日常生活にも支障が出ます。

 逆鱗なんかに、間違ってふれちゃったら、街一つ分ぐらい消し飛んでしまいます。

 ほとほと困っていたときに黄帝がやってきて、後始末をしてくれました。

 黄龍を街の中央に封じてくれたのです。その上で、黄龍が暴れまわれないように街を整備してくれました。

 碁盤の目のような道筋に、四方を四神が守ります。

 街自体が黄龍を封印する道具になっているのです。

 黄帝は街の代表者に言いました。

“やがて黄龍が力を蓄えて天に帰る日がやってくるだろう。

 あまりに巨大な力だ。地にあっては災いになるだけだ。

 だからその日が来たら黄龍の封印を解いて欲しい”と。

 その後、黄龍が封じられた場所には井戸が作られました。その水を飲むと、延命できるという伝説の井戸です。

 黄帝の言っていた合図とは、井戸が枯れることでした。

 強すぎる土気が水気を抑えてしまう。=黄龍の復活。

 黄家の皆さんが黄帝にもらった言葉なんてものは、紙なんかではなく、木片(木簡ですらない)に書きつけられていて、長老たちもありがたがるものの、肝心の中身をすっかりと忘れてしまったのでしょう。(むしろ始皇帝が文字を統一する前に書かれたものだから、古文で難解なので読めない)

 枯れた井戸は放置されてしまいました。

 そして力を蓄えすぎた黄龍は五行の調和を崩しました。土気は土用なので、季節が移り変わる時(18日ぐらい)を意味します。なので季節の停滞が起こりました。次の季節がこないのです。


 『星籠』は封印を解く道具です。

 だから、井戸に投げ込むので正解なのです。


 加筆版では少々、語っていますが「琴」は「龍」や「陰陽五行」に関する物です。

 日本の琴に関して言えば「琴」は横たわる龍をイメージして、部分ごとの名前が決まっています。「龍頭」、「龍尾」など。

 中国の古琴はサイズはまちまちで、製法もまちまちですが、唐の時代に成立した形は「陰陽五行」の色の強いものになっているそうです。

 また楽器は荒ぶる神を静める道具であることも多いので、黄家の跡取り息子の黄垣筐の日常は「琴」を中心に書きました。


 林圭籃が水(井戸・応龍江)にこだわったのは、女性で陰の気(水)だということもあります。

 母系社会の名残というモチーフが大好きな私ですので、キーになる人物はやはり少女が良かった。という作者の贔屓もあります。

 Y1遺伝子も良いのですが、ミトコンドリアにも良さがあると思うのです。


 正午は陽の気から陰の気に変わる時間です。陽でも陰でもないので、土属性に当たります。

 冬至は一年で一番「昼(陽)」が短く、水が解放されるのにふさわしいと考えました。

 (五行だと冬至から十二支が始まって「子(ねずみ)」で、属性が「水」なのです)

 『歌う』のは五行の五声で土属性で、「極北(北極星)」も土属性です。

 とにかく五行をこだわって封印を解くシーンを書きました。


 虹は、龍の眷属です。だから、ラストシーンに虹を出しました。

 黄龍に、お独りで帰ってもらうのは寂しいかなぁと思ったのが理由です。

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