9
私がレオとラルフのことを話したら、カーター夫人はそれを驚くこともなく受け入れた。カーター夫人の顔がやや明るくなった。
「そうですよ」
「本人たちが――レオとラルフが言ったんですか? 僕たち実はぬいぐるみだよ、って」
さぞやびっくりしただろうと思うけど。カーター夫人は肯定した。
「ええ。でも私にはわかっていたのです。彼らが正体を打ち明ける前から。だって私は――ずっとお嬢さまの子ども部屋を管理してきましたからね。彼らが何になろうと、ちゃんとわかりますよ」
そう言って、カーター夫人はほほえんだ。そして私たち、私とスーザンに、さらに深いほほえみを、愛情深いと言ってもいい笑顔を見せた。
「あなたたちもとてもよく頑張ってくれましたね」
私は何も――。そう思ったけど、隣でスーザンが「はい」と答えていた。
「私はあの晩、二人を、レオとラルフを救ったといっていいと思います」スーザンは堂々と、でも鼻にかけてる感じでもなく、あっさりと言った。「それに私も――二人の正体がわかってはいませんでしたが、どこかおかしいとは思っていました」
たしかにそうだけど。私はスーザンをまじまじと見る。スーザンはいたって真面目な顔つきをして、話を続けた。
「私ってたぶん……ちょっと特別なんじゃないかと思うんです」
なんだか愉快な気分になってしまった。
――――
お屋敷は住む人がいなくなってしまった。ウィンストンさまの遺言で、お屋敷は売りに出され、ブライスさんとカーター夫人が管理をすることになった。私とスーザンは暇を出され――でもすぐ、呼びだしがかかったのだ。
暖かい春の日、私はまた、お屋敷の前に立っていた。懐かしい場所、またあのときみたいに、最初にここに来たときみたいに、使用人用の玄関の前に立って……でもあのときとは違う。もう不安なんかなくて、ただ、嬉しさと期待が、胸の中に沸き上がってくる。
あのときは、黄色がかかった奇妙な夕暮れだった。でも今は昼下がり。空が青く、ふわふわとした丸いしっぽのような雲が浮かんでいて、辺りは平和で眠たくなるくらいだ。
私がお屋敷の中に入ると、スーザンが出迎えてくれた。
「スーザン!」
「メアリ、久しぶり」
スーザンが笑い、私たちは再会を喜び合う。
私たちはまたお屋敷にメイドとして雇われたのだ――。お屋敷が売れたから。もうあと何日かすれば、新しい住人がやってくる。
私はまた、このお屋敷のメイドとして、ここで働くのだ!
「新しい住人はどんな人だか聞いた?」
スーザンが尋ねてくる。私はうなずいた。
「まだ若い家族でしょう。幼い子どもたちがいるって話」
にぎやかになりそう。私はワクワクしている。
「ね、子ども部屋はどうなったの?」
今度は私がスーザンに尋ねた。お嬢さまの子ども部屋だ。レオとラルフが――いるところ。
「まだそのままよ。なんていうか――片付けそびれてるみたいなところがあって……」
スーザンは少し言葉をにごした。
「私、荷物を置いたら、まず子ども部屋に行ってみる!」私は明るく言う。「レオとラルフに会いに!」
「そうね」
スーザンがほほえんだ。
――――
私は子ども部屋のドアを開けた。緊張している。ここに来るのは……スーザンとたまたま鍵が開いているときに入りこんで以来、初めて。
レオとラルフの正体がわかった後も来なかった。なんだか……あまり足を踏み入れる気にならなかった。そのままお屋敷を去ってしまったので、ずっと気になっていたのだ。
でもこうして私は、ここに戻ってきた。
室内は明るかった。カーテンは引かれていない。家具はそのまま。おもちゃたちも――そのまま。
きちんと片付いて、掃除も行き届いている。カーター夫人だ。カーター夫人は、この部屋をどうするつもりなんだろう。
おもちゃを捨てることは……ないと思う。新しく越してきた人たちが引き続きここを使うことになるのかしら。私はそっとおもちゃたちに近づいた。
棚の上に並べられたぬいぐるみたち。緑の目をした黒い子猫。私――前にこの子を見たことがあるわ。
あなたがレオだったのね。
続けて、ラルフを探した。少し手間取り、ドールハウスの傍らにぽつねんと置かれている小さな茶色のはりねずみを見つけて、私は嬉しくなった。抱き上げると、茶色の瞳が私を見上げる。あなたがラルフなのね!
私はレオの隣にラルフを並べた。少し小生意気そうな黒い子猫に、内気そうな茶色のはりねずみ。私は笑いかけた。
新しい住人が来るのよ。心の中で、私は二人に呼びかけた。子どもたちもいるの。その子どもたちは、あなたたちの友人になってくれるかな。
シャーロットは友だちだって言ってた。……ね、よければ私も友だちの仲間に加えてくれる?
私は彼らをじっと見つめる。二つの小さなぬいぐるみが、ちょっぴり笑ったような気がした。
幽霊屋敷と魔の棲む湖 原ねずみ @nezumihara
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