冬に入る 🪶

上月くるを

冬に入る 🪶




冬空やむかし市電の走りたる

寒禽やガードマン振る警備棒


牛の目をよぎる雑踏冬の雲

色変へぬ松や朱色の太鼓橋


石段の踏まれる前の枯葉かな

湖は木の葉時雨に暮れにけり


いんいちがいちといふやう銀杏散る

冬ざれやドッジボールのにがてな子


犬小屋の主は主水もんどや冬うらら

蓄電器のかげの三毛猫冬の虹


まねかれて勝手知ったる冬館

冬座敷まづ結論を述べにけり


トンネルを抜けて眼下に冬灯

空と山押し合ふてゐる冬の月


ただいまとおかへりを言ふ寒灯

何となく何かを待てる寒夜かな


冬の夜の電子時計のりちぎかな

わが呼吸ふと恐ろしき夜半の冬


愛用の上着のほつれ霜夜かな

冬灯や脚を組み替へ読む文庫




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