無限観測装置N

刻堂元記

①~①

 この装置には、始まりも終わりもない。なぜなら、この装置は、無限に発生する過去と未来を、その時の状態で観測する装置だからである。だから、この装置は、時にボロボロになり、時にピカピカとなる。しかしこの装置は、時間という誰かが作り出した概念に従って、現象を観測しているわけではない。この装置がある場所は時間が順行することも逆行することもなく、ただ、現象が瞬間的に発生しては消え、発生しては消えるという繰り返しが起きているに過ぎない。


 つまり、現象を無限観測する役目を持つ、この装置自身の変化もまた、無限にある現象のひとつでしかないのである。そうして、そんな装置の変わり様を観測するのも、装置なのだ。だから、観測には限界があると思われるかもしれないが、実際は、現象の発生に伴う装置の状態により、観測済みの情報が増減されるので、装置は、永遠に観測を続けることが出来る。だが、観測している以上、装置にも、現象発生による危機が訪れるに違いないが、その場合、装置による観測は、他の時間軸に存在する、同じ種類の装置が担う。なぜなら、装置の数は、発生した現象の数だけ存在し、発生した現象の数よりひとつ分少ない数だけ消滅するからだ。これを式に表せば、現象観測を行う装置の数(n)=無限発生する現象(p)+1。


 しかし、そうなると、現象を観測していない装置が必ずひとつ存在することになるのだが、それは何を観測しているのかと言うと、不変的な無の現象だ。言い換えれば、はじめから何も存在せず、ゆえに現象が起こりえない無の現象を観測していると言ってもいい。そのため、現象が発生しない無の世界は、無限発生する現象の数の中にカウントされないし、装置すらも存在しない。そして、装置はひとつの現象の中に1つしか存在せず、ひとつの装置は、ひとつの現象しか観測しない。


 だからこそ、最大の謎が残る。無限発生する現象と無の世界を、その数だけ現れる装置が観測していたとして、残りの装置ひとつは、どこから無限発生する現象、あるいは無の現象を観測しているのか。それは分からない。だが、数えきれないほどの装置が、点滅するかのように出現し消滅しながら、同じく発生しては消える現象を観測していることだけは確かだ。


 だから、この装置には始まりも終わりもない。なぜなら、この装置は、無限に発生する過去と未来を、その時の状態で観測する装置だからである。だから、この装置は、時にボロボロになり、時にピカピカとなる。しかしこの装置は、時間という誰かが作り出した概念に従って、現象を観測しているわけではない。この装置がある場所は……。

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