第2話 次の一歩は難しい

「ん…」


目を覚ますと、自宅のベッドで横になっていた

確か俺は、リョウタにはめられて合コンに参加してたはずじゃ…?

そんなことを考えてると、突然声をかけられた


「あら、起きたのね」


俺は恐る恐る、声のほうを見る

そこには知らない女性が立っていた

俺は戸惑いのあまり、声が出ない

そんな俺の様子を察したのか、彼女の方からまた話しかけてきた


「その顔を見る限り、何も覚えてないのね」


「確か、居酒屋にいて…。ある程度、時間が経った後に…?」


俺は、居酒屋での出来事を思い出そうと必死になっている


「好みのタイプをみんなが話してて…。」


そうだ

俺は好みのタイプを話している時に急に眩暈がしたんだ

その後の記憶がないので、きっとこの時に気を失ったんだろう

まあ、気を失った理由はひとつだ

ルリのことを考えたからだ


「ようやく思い出したのね」


「はい…。もしかして、あなたがここまで運んでくれたんですか?」


「ええ、そうよ。藤井?って人だったかしら?その人に無理矢理押し付けられたのよ」


「それは大変申し訳ございませんでした…」


あいつ何やってんだよ!

せめて、騙して連れて行ったなら責任取れよ!

気絶した俺が悪いんだけどさ…

いくらなんでも初対面の女性に家まで送らせるなよ…

俺は彼女の顔を恐る恐る見てみたが、どうやら怒ってはなさそうだ


「まあ、別にいいわよ。私は数合わせで来ただけだったし。2次会に行かなくて済んだもの」


「すいません。ありがとうございます…。確か、嶺井先輩でしたっけ?」


「ええ、そうよ。学部は違うけど、大学も同じはずよ。あと、京子(キョウコ)でいいわよ」


「いや、流石に年上ですし。呼び捨ては…」


「まあ、なんでもいいわ。あなたは、坂倉遥翔くんだっけ?」


「あっ、はい。そうです。」


「なら、ハルトくんって呼ばせてもらうわね」


「あっ、はい。わかりました」


「早速なんだけど、ハルトくんが気絶したのはルリさんって人が関係してるのかしら?」


俺はルリの名前が出た瞬間血の気が引いてくのを感じた

なぜ、先輩がルリの事を知ってるのだろうか


「えっと…。どうして、その名前を?」


俺は先輩に対して、慎重に探りをいれる

しかし、そんな俺に対して先輩はあっけらかんとした感じで答えたのであった


「ここまで来る時にタクシーの中であなたがうなされながらその名前を呼んでたのよ」


「さいですか…」


恥ずかしい

もう、別れてから半年以上経ってるのに…


「で、どういう関係なの?ここまで介抱してあげたんだから教えてよね」


「そんな、面白い話じゃないですよ…」


俺は、事の経緯を先輩に話した

先輩とは初対面の筈なのにとても話しやすい

先輩がとても聞き上手で、落ち着いてるからかもしれない

そうでなければ、こんな事、なかなか話す事できないだろう

ひと通り話終わると、先輩は一つの質問を投げかけてきた


「まだ、そのルリさんのことが好きなの?」


「お恥ずかしいことに、まだ好きなんだと思います…」


俺はバツが悪そうに答える

好きなんだと思うじゃなくて、好きなんだ

今だって、家に女の人をあげてる事を知ったら、ルリが悲しむんじゃないかって考えてしまっている

もう、あの子は何も関係ないのに


「別に恥ずかしい事ではないでしょ」


「え…?」


「その子のこと本気で好きだったってことなんでしょ」


「まあ、そうなんですけど…。もう、終わってしまってるんですよ」


そうだ

もう、俺とルリの関係は終わってるんだ

半年前に終わっている

今さら、好きと言ったところで、何も変わらないのだ


「まあ、そうね。だから、あとはあなたの気持ちの問題なのよ。あなたがどうしたいかなのよ。じゃなきゃ、何も始まらないわよ」


「俺が何をしたいのか…」


正直わからない

何をしたいのかなんて、考えたことなかった

ずっと、失くしたもののことばかり考えていた


「まぁ、とにかく考えなさいね。そろそろ、始発の時間だから帰るわね」


そういうと、先輩は立ち上がった


「あっ、先輩。ありがとうございました。初対面なのに、介抱してもらっただけではなく、身の上話まで聞いてもらって…」


「いいのよ。どっちも私がしたくてしたことだから。はい、これ。私の連絡先。困ったことがあったらいつでも連絡してちょうだい。話を聞くことぐらいならできるわよ」


そう言って、連絡先の書いた紙を渡すと、先輩はドアから出て行ってしまった

残された俺は、1人で今日の出来事を振り返る

とりあえず、リョウタに会ったら一発殴っておこう

先輩には改めてお礼を言いに行かなきゃな

それにしても、どうして俺は先輩にあんな話をしてしまったのだろうか


「本当は誰かに聞いて欲しかったのかもしれないな」


俺は独り言を呟き、タバコに手を伸ばす


「タバコはやめてよね」


ふと、俺はルリに言われた言葉を思い出した


「くそっ」


俺はタバコをゴミ箱に投げ入れた

今だに、ルリの言葉に惑わされる

自分がどうしたいかなんて、わからない

いや、わかってるのかもしれない

それが、叶うことないから、わからないふりをしている

俺はこれ以上考えないよう、逃げるように眠りにつくのであった

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君の言葉に縋る僕 @runamoon416

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