君の言葉に縋る僕

@runamoon416

第1話 君はもういない

……………


「別れましょう」


どうして…?


「将来性が見えないから」


そんなのって…


「でも、まだハルトの事は好きだよ」


だったら…


「ごめんね。また、いつか一緒になろうね」


待ってよ…

ねぇ、待ってよ…


………………


また、この夢だ

彼女に振られてから、半年以上たっている

しかし、彼女の言葉は俺に深く突き刺さったまんまだ


「言葉って呪いだよな」


俺はボソッと呟いた

もちろん、一人暮らしの部屋なので誰も聞いていない

半年前まで、賑やかだったこの部屋も今では寂しさでいっぱいだ

半年以上、引き摺っているのは情け無いと思う

これが、もし、喧嘩別れや気持ちが無くなって別れたのならまた違っていただろう

別れ際に彼女は言ったのだ


「まだ好きだよ」


「他の女の子といたら嫉妬しちゃうな」


「また、いつか一緒になろうね」


この言葉に深い意味は無いのかもしれない

でも、俺はこの言葉に縋るしかないのだ

初めて本気で人を好きになった

絶対に手放したくなかった

でも、彼女はいなくなった

好きなのに別れる

俺には到底理解する事ができなかった

その結果、今の惨状である


「はぁ…」


俺はため息を吐き、スマホを見た

時刻は朝の8時

1限に間に合わせるために支度をしなきゃいけない時間だ

俺は夢のせいでナイーブになっていたが、無情にも時は過ぎていくので身支度を整え、大学に行くことにした


……………


大学で講義室に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた


「よっ、ハルト。朝から疲れた顔してんな」


「色々あるんだよ」


俺は声の主の方を向き答えた

俺に声をかけてきたのは高校の時からの友人である、藤井涼太(リョウタ)である


「また、宮内のことか?」


リョウタが俺の顔を覗き込みながら尋ねてくる


「まあ、そんな感じだ…」


「そんなに心残りなら、直接会ってくればいいのに」


「いや、会ったところで何も話す事はないよ」


「はぁ…。お前の悪いとこだぞ。1人で抱え込んで、負のスパイラルに陥るんだから」


「わかってるよ…」


リョウタの言う通りである

でも、今更会ってどうするのだ

もし、ルリに新しい彼氏がいたら

もし、ルリが俺のこと好きじゃなかったら

今まで縋ってきたものが無意味だと突きつけられてしまう


「いい加減、前向いたらどうだ?」


「そんなこと言ったって…」


「まあいい。こういう時は酒を飲もう。今日の夜は空けとけよー」


そう言い残し、リョウタはどこかに行ってしまった

リョウタはあんな感じだが、俺のことを心配してくれてるのである

早く、リョウタのこと安心させなきゃな…

そんな事を考えつつ、俺は講義室に入り、いつもの席に座った

数分後、俺の隣にとある人が座ってきた


「ハルト、おはよ」


「おはよ、ミサキ」


俺に挨拶をしてきた子は、河井美咲(ミサキ)といい、大学に入ってから知り合った子である

俺の数少ない大学でできた友人である

お互い、同じゲームサークル(ほぼ活動していない)に所属しており、そこから仲良くなったのだ


「ハルト、今日の夜空いてる?」


「なんで?」


「こないだ話してたお店行かない?」


「あー、すまん。今日はリョウタに誘われてるんだよ」


「それは、残念。また今度空いてる日、教えてね」


「あぁ、わかった」


会話は一旦途切れたが、再びミサキが話しかけてきた


「ハルト、なんか顔色悪くない?」


ミサキが心配そうに俺の顔を見てくる

リョウタにも指摘されたが、そんなにもわかりやすいのたろうか

今後気をつけなくては


「まあ、ちょっとな」


俺は言葉を濁し、切り抜けようとする

しかし、察しのいいミサキには無意味な抵抗であった


「もしかして、また例の元カノのこと?」


「まぁ、そうだな…」


「もー、いい加減に切り替えなって」


「俺だって切り替えたいさ。でも、気持ちが言うこと聞いてくれないんだよ」


「ハルトって、高校の時は結構遊んでたらしいのに、意外と一途なんだね」


「…。誰から聞いたんだよ」


「リョウタだよ?」


「だろうな…」


確かに、高校の時は女癖が悪かった

でも、それはもう昔の話だ

ルリと付き合ってからは、彼女に誠実に向き合っていた


「まー、とにかく、いい加減にしないと心がもたないよ」


「わかったよ…」


ミサキもリョウタ同様に本気で心配してくれているのだろう

しかし、その気持ちに応えられないのが心苦しい

結局、その日、俺はずっとモヤモヤした気分のまま講義を受けたのであった


……………


夜の18時

俺はリョウタとの待ち合わせ場所に来ていた


「ハルト、お待たせ」


「おう、遅かったな」


「まあ、少しな」


「ところで、行く店って決まってんのか?」


「バッチリよ!」


「そうか?」


なぜか、自信満々のリョウタに一抹の不安を覚えつつも、黙って着いて行くのであった

数分歩くと、目的地に着いたのか、リョウタが店の中に入って行った


「お客様、何名ですか?」


「あっ、予約した藤井なんですけども」


「ご予約様ですね。あちらの席にご案内致します」


俺とリョウタは店員さんに着いて行き、案内された席の方を見た


「え…?」


俺は言葉を詰まらせた

なぜか、案内された席に既に女の子たちが座っているのである


「リョウタ、これって…?」


「あれ?言ってなかったけ?合コンだよ」


「聞いてないよ…。聞いてたら来てないし…」


「まあ、細かい事は気にするな」


「でも…」


リョウタは気を遣って、こういう場をセッティングしてくれたのだろう

だから、ここで怒って帰って、場の空気を壊すような事はしたくない

しかし、気持ちとは、逆に動悸が激しくなり、呼吸が苦しくなってきた

またか…

俺はルリに言われた言葉を思い出す


「他の女の子といたら嫉妬しちゃうな」


あぁ…

こんな事してたらルリに嫌われるかもしれない

いや、もう振られてるんだから、関係ないはず

でも、ダメだ

この言葉に縋るしかないんだ


「また、いつか一緒になろうね」


やっぱり…

言葉って呪いだ


その後のことは、語る必要がないくらい、惨憺たる結果であった


















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