第5話 Weekender Girls

「というわけでして…。すみません。」

「うーん。そうですねえ。」

 店主は腕組みをして考える。

「記事にしていただく話は、ありがたいんですけど、ちょっと厳しいです。」

「ですよね。無理言ってしまってすみません。」

 今日はカウンター席に座っている。今日のケーキはチーズケーキだ。相変わらずどのケーキが出てきても飛び切り美味しい。

「でも、向井さん?でしたっけ?」

「えっ、どうして名前を……。」

 またどこかにわかる情報があっただろうか。エリカさん、細かいことにもよく気付くからなあ。

「どうしてって、美咲さんが何回も言ってるので覚えちゃいましたよ。」

 彼女は小さく笑った。

「……。」

 頬が熱くなっているのを感じる。いや、赤くなるな、自分。

「向井さんと来ていただく分には大丈夫ですよ。大事な後輩なんでしょう?」

 紅茶を一口飲む。おいしい。よし、少し落ち着いた。

「ええ。後輩との関係を良好に保つのも仕事ですから。」

できるだけ平静を保って言った。

「ふふっ。」

 エリカさんは耐えられなくなったように噴き出した。

「ど、どうかしましたか?」

「美咲さん、隠し事、上手じゃないでしょう。」

 ギクッ。

 エリカさんは笑みを浮かべたまま言う。

「仲良くなれるといいですねえ。」

 隠し事はできないみたいだ。

「もう、からかわないでくださいよ。」

「ふふっ。」

「あはは。」

都心から外れたカフェで店主さんとガールズトーク。こんな週末を失ってしまうのはもったいないから、やっぱり記事は別の題材を探すことにしよう。



「まあ、美咲さんのお友達なら大丈夫よね。」

夕暮れ時、店主はぬるくなった紅茶を飲みながら呟く。

不思議なものだ。こんなリスクを取る必要なんてないのに、あの子のことはなぜか手助けしたくなってしまう。毎日を必死に生きている人を見ると、なぜか助けたくなってしまう。

「私も歳かしら…。」

独りぼっちの店内に、小さなため息が響く。

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檸檬の香りがする昼に @RubisC

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