第4話 記者
「えー、今回の会議では……。」
あー。退屈。会議ってなんで毎回こんなに退屈なんだろ。
美咲は、会議中三回目のあくびをかみ殺した。
そもそも会議なんて、すでに決まっていることを上司から伝えられるだけの場だ。それなのに形式だけ意見を求められたって、言うことなんてないに決まっているじゃないか。こんな形式だけの会議ならやってもやらなくても…。あーあ、会議なんてなかったら今日は午後休とってゆっくりしたのになあ。
「……というわけで、原田くん。この件について、意見などあるかい?」
まずい、全然聞いてなかった。
「えーと、はい、いいんじゃないでしょうか。」
「ありがとう!では、今月号の特集の担当は原田君に決定しました。拍手!」
まばらな拍手が沸き起こる。いや、待て待て。
「えーと、いや、私まだ二年目ですし、先ほどは良いと申し上げましたが、ほかに適任の方がいるのではないかと……。」
「いやいや、何事も経験だよ。頑張ってくれたまえ。はっはっは。」
「えっと……。」
「では本日の会議はこれまで。解散!原田君、原稿は来月のはじめまでに頼むよ。期待しているからね。」
桐谷さんは私の肩をポン、と叩いた。皆が会議室を出て自分のデスクへと戻っていく。
「あの。」
立ち去ろうとする桐谷さんを呼び止める。
「特集って、具体的には何を書けばいいんでしょうか。私今まで記事を書いたこともないですし、何を題材にするべきかわからなくて。」
ほら、私は記事を書くことに関しては無能ですよ。ほかの人に変えたほうがいいんじゃないですか。
「君の思う通りに書いてくれればいいよ。我々のテーマは、『知らなかった東京』だ。このテーマに沿っていれば、君が自由に書いてくれていい。」
だめだ、私が書くしかなさそう。
「わかりました、頑張ってみます……。」
「期待しているよ。何かあったらいつでも聞いてくれ。」
行ってしまった。頑張ってみるとは言ったものの、今まで私検閲してただけだしよくわからないんだけど。
「原田先輩、お疲れ様です。」
「えっ、あっ、向井くん、お疲れ様。」
「さすが先輩ですね、いきなり特集記事の担当だなんて。」
「えっ、あはは……。」
まずい、かわいい後輩の前で会議聞いてなくて成り行き上そうなっちゃっただけなんて言えない。向井くんの前でなんかなおさら言えない。
「題材ってもう決まってるんですか?先輩東京のこと詳しそうですし楽しみだなあ。」
「わっ、私隠れ家系のいいカフェ知ってるからそこのことを書こうかな。」
全然東京詳しくないなんて言えない……。エリカさんごめんなさい、でも向井くんのためなんです、許して。記事にはしないから。
「へ~、いいですね。でも、今月中に原稿つくってこいだなんて桐谷さんもめちゃくちゃいいますよ。」
「ほんと。私文章まともに書いたことないのに。まあ、なんとかするよ。」
何とかなるかはわからないけど。
「来月までだと、取材も結構近いうちにしなきゃいけないんじゃないですか?」
あ、確かに。まだ何も考えてなかった。向井くんやっぱり頭切れるなあ。
「そうね。文章書いて、読んでもらって直してを考えると来週末くらいにはいかなきゃいけないかも。」
「来週末ですか。隠れ家カフェ、いいですね。」
あれ、これもしかして。いやでも断られるかな……。そもそもいきなり誘ったら怖がられるか。でも向井くんもいいですねって言ってるし。そうだ、これは仕事の話なんだから仕事の手伝いってことにすればいいじゃない。いやでもやっぱり……。
「先輩?どうかしました?」
「むっ、向井君。来週の土日あたり、カフェの取材、一緒に行く?」
まずい言ってしまった。
「あー、いいですね。仕事の様子、見せていただけたら参考になるかも。僕も新人とはいえ場数を踏んでいきたいですし。」
やった!
「じゃっ、じゃあ、場所とかは今度送るから。向井君も質問とか準備してきてもらえると助かるかな。」
「承知です。じゃあ、記事頑張りましょうね。」
「ええ。」
美咲は、スキップしそうになるのを抑えながらデスクに戻る。
ん、いや待てよ。
「一回、エリカさんに相談してみるか…。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます