第319話
――街の入口で、二人を待っている。
ついに旅立ちの日が来た。
もう随分とこの街にいた気もするが、実際には数ヶ月にも満たない期間だ。
「長かったな」
「ん、そうだね」
クロは、人間モードで俺の隣りにいた。
この街にやってきたときの村娘ルックで。
最近は色々と買い物をして服を増やしていたので、この姿を見るのは久しぶりだ。
村娘ルックではあるものの、ある程度旅することを想定しているので、旅の間はこれが一番向いている服装でもある。
「でも、俺の人生で一番充実してたよ」
「それはよかった」
「まぁ生まれ変わったから、実質生まれてからずっと充実してる、とも言えるけどな」
「若干笑えない」
そうだな、と苦笑する。
死んだと思ったらこっちにいて、いつの間にやら冒険者をしている。
異世界転生、まさか自分の身に起きてしまうなんて。
「何にせよ――クロに出会えてよかった」
「ちょっと恥ずかしい」
てれてれ、と自分で言いながら無表情でクロは頬に手を添えた。
「……」
「……? どうしたの?」
「クロはさ」
「うん」
「特別な――」
――特別な、他とは違う妖精なのだろうか。
そう、問いかけようと思った。
けど、止める。
クロは、聞くまでもなく他とは少し違う妖精だろう。
二人で話をするたびに、そういう思いを強めている。
わざわざ確認する必要はないし――本人が口にしないのなら、野暮というものだ。
だから、少し考えて、
「……俺にとって、特別な妖精だよ」
そう、伝えた。
なんだか、告白みたいになってしまったな、と内心苦笑していると。
ぽんっ。
クロが音を立てて真っ赤になった。
恥ずかしそうだ、表情は変わっていないものの、少し目は見開いているような気がする。
「……悪い、恥ずかしかったか?」
「とても」
なんというか、申し訳ない。
ある意味ごまかすように言ったことだったのに。
まぁでも、本心であることに違いはない。
「だからまぁ、これからもよろしくな」
「……ん、よろしく」
そうやって言葉を交わし、視線を交わす。
「――ツムラ」
そうして、クロが名を呼んだ。
風が流れる。
「ツムラさん!」
「おまたせしました、ツムラさーん」
同時に、街の方からヒーシャとナフがやってきた。
二人して、大量の荷物を抱えている。
俺がアイテムボックスを持っているからって、持ちすぎではないだろうか。
普通あの量で旅をするなら、馬車が一つ欲しい。
とはいえ、らしいといえばらしい話だ。
「ヒーシャ! ナフ!」
「はひっ」
二人に呼びかける。
「これからも、よろしくな」
「あ、うん!」
そうして。二人が俺の隣に並ぶと――
俺達は、この街を後にした。
本作は一旦これにて終了となります。
またの機会がありましたらよろしくお願いします。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
レベルを上げることが普通じゃない世界でレベリング中毒に陥った異常転生者 暁刀魚 @sanmaosakana
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