寂しい気持ちはどのように表に出したら良いのだろうか

「伝線してる」


「え、うわ、ほんとだ」


「よし、脱げ」




 いつものグループで遊び倒した帰り道。帰る方向が同じの俺とコイツは、他の人間とは別れふたり並んで歩いていた。


 つい公園で懐かしい遊具を見つけて子ども組と少しはしゃいでしまった時にでも出来たのだろうか、彼女の黒のストッキングに見つけたそれ。足首に近い部分、白い肌と黒のコントラストがはっきりしているせいで目立っている。




「はあ?」


「いやそれそのままでいんの?」


「それはそうだけど」


「なんだよ、脱がせてほしいの?」


「なわけないでしょ」


「いいから脱いでこいって、そこで」




 指さしたのはすぐ傍のスーパーに添えつけられている、外側にあるタイプの手洗い。彼女はうーん、と唸りながら少し迷ったあと、わかった、と言ってそこへ入っていった。立てられているポールの上に軽く腰かけて、出てくるのを待つ俺。……少しばかり、彼氏っぽくてドキドキする。




「寒い。すーすーする」


「でもまあロングスカートで良かったじゃん」


「不幸中の幸いってやつね」


「買ってきてやろうか、スーパーにもあるっしょ」


「いいよ、いいよ。大丈夫。ありがと。ねえせっかくだしさ、ちょっと寄り道しない?」


「いいけど、どこ?」


「海!」




 また突拍子もないことを。


 そうして、さっきまでさんざんはしゃいで遊びまわっていて疲れたであろうことも忘れてふたり、海までやってきた。潮の香りがする。風が強い。




「ストッキングじゃなくてタオルを買えばよかったかも」


「入る気?」


「うん、足だけ」


「そいつはすげーな」


「一緒に入ろうよ」


「さすがにこの時期だとちょっと冷たくね?」


「大丈夫、大丈夫。ほらいこ」




 俺の手を掴む、彼女。その手は柔らかくて温かかった。引かれるままについていけば、彼女はサンダルを脱ぎ捨てて砂浜へ直接、その肌を触れさせる。仕方なく、俺も同じように靴と靴下を脱ぎ捨て、ズボンの裾を折り曲げた。




「うわ、やっぱりちょっと冷たい」


「だから言ったじゃん。……うわ、マジだ。つめてー」


「でも、楽しい」


「おー、そうか。そりゃよかった」




 まるで、終わりかのように。




「……そんな顔で笑うなよ」


「え、どんな顔してた? わたし」




 まるで、先のストッキングのように、伝線して解れてしまっているかのような。そんな切ない顔で、眉を下げて笑わないでくれ。




「帰るのやめちゃう?」


「え、どうして」


「帰りたくない、って顔してる」


「……おかしいなあ、なんでバレたんだろう」


「そんだけ、お前のこと見てるってこと」




 同じように脱ぎ捨てて。俺がきちんとすべて、覆ってやるから。


 足を海水に浸したまま、俺は彼女の腕をひいた。すると彼女はふわりとこちらへ倒れこみ、そのまま。まるで縄で縛りあげるかのように、抱きしめた。ほとんど沈んでいる夕日が、淡く俺たちを照らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょっとだけキュンとなれる恋の小話 スズキ @hansel0523

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ