我慢する恋

 家の中まで響いてくるのは雨の音。今日は豪雨、うるさいほどに家屋に打ち付ける音を鳴らすのは、もしかしたら何かの合図だったりするのだろうか。例えば、神様がお怒りなのだ、とか。




「どうしたの」


「あー、うん。今こっち雨すごくて」


「そうなの? こっちはそんなに。しとしとと」


「結構やばそう。電話越しでも聞こえそうなくらいの雨の音」


「それは豪雨だね。窓際まで行ったら聞こえるのかな、わたしにも」




 こんな日に外に出るだなんてたまったものじゃない。今日は大人しく、家の中でゆっくりすごす休日にしよう。こうして彼女とゲームをしたり、課題に手をつけてみたり。僕的にはそれが、なかなかに充実した、優雅な休日だと思うのだけれど。




「今日はバイト?」


「そう」


「じゃあもうちょっとだね」


「ごめん、あまり時間とれなくて」


「いいの、いいの。わたしは。こうして電話してくれる時間作ってくれるだけで、十分」




 あっちもこっちも、どれもこれも。すべてを平等に、は難しいからせめて君に対するウェイトはなによりも大きくいたいのだと、伝わっているのだろうか。




「俺はもっと繋がっていたいし、できることであれば隣に、一緒にいたいよ」


「わたしも同じだよ。でも、とりあえずは君が今一番がんばるべきは、大学かなあ」


「う。それは、そう言われると、うん」


「いつもいろんなことがんばっていて、偉いね」




 違うんだ。




「別に、がんばってないよ。どれも適当、のらりくらりって感じ。でも、その中でも特にいちばんがんばる必要性のない……って言ったら語弊があるかも。がんばらなくても自然体の俺で、自然とそうできているのは、君との関係」


「あはは、確かに捉え方によっては最悪かも。でも、ありがとう」


「ねえ、真剣に言ってんの。俺、本当に君のことが」


「知ってる。知ってるから、ね、お願い。言わないで」




 言わないで。それが何を意味しているのか、わからないほど子どもではなかった。彼女は必死に、我慢することをがんばっている。大学、バイト。多忙な俺について、を。わがままを言わないように、と。俺との関係を、俺とは違って彼女は、がまんをして続けているのだ。




「……俺と一緒にいるの、つらい?」




 答えはなく、沈黙が続く。




「でもごめん、手放してはあげられないから。だから、迎えにいくその日まで、俺を待ってて。ねえ、言わないで、って言われても言いたいから、ごめん。本当に好き。愛してる」




 電話の向こう側、沈黙の間にたまに聞こえる鼻をすする音。




「週末、会いに行く。泊めてくれるでしょ?」


「……うん」




 この想いがどうか、10分の1でも彼女に伝わりますように。

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