第16話 再び屋敷の中

 目が覚めた。


 俺は、真っ先に自分の首元に手をやっていた。自分の首が痛むくらい、強く握る。


 強く握りすぎて、思わず咳き込んだ。


 …ちゃんと、つながってる。


 そう思った瞬間、自分の頭が体と離れ、辺り一面が真っ赤に染まった光景を思い出して、吐きそうになる。


 冷静になろうと、何度か深呼吸をして、ようやく少し落ち着いた。


 どうやら、また時間が巻戻り、身分が変わったらしい。


「ここは?」


 ぱっと見、屋敷の中だ。また、貴族の身分になれたのだろうか。


 服装はタキシードだった。前回の貴族の時には、これと言って特徴も無い普通の服を着ていた気がするが、今回はタキシードか。


 もしかしたら、貴族ではなく使用人だろうか、と思ったところで、それを肯定するかのように声がかかる。


「シュート君、こんなところで何をやっているのかね?」


 年齢は四十代くらいだろうか、少し小太りの男がいかにも偉そうな態度で立っていた。


 まさか、これで、この人が執事だと言うことはないだろう。まず間違いなく、この人がご主人様で、俺は使用人の関係に違いない。


 そう考えると、またいつものように自分が使用人であることが当たり前のように感じ始めた。次第に、脳内に使用にとしての作法や、使用人がやるべき仕事の情報が溢れかえる。しばらくすると、情報の奔流は終わりを告げ、使用人の振る舞いを脳が完全に理解し、実戦できるようになる。


「…すみません、ご主人様、少し体調が悪くて…。」


「ご主人様など、気色の悪い呼び方をするな。いつものように、カーネット様と呼べ。」


「申し訳ありません、カーネット様。」


「ふん、分かったのなら、とっとと仕事に戻らんか。」


 そう言うと、我がご主人であるカーネットは立ち去っていった。ポケットの中に入れた手の中指を立てると、少しだけ気分はましになった。


 三回目にして、最悪の身分だ。先程のチンピラの方がまだ良かったと思えるくらいに。そう思うと、初回の貴族は本当に当たりだったんだなと実感する。

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やり直しの異世界生活 ~死ぬたびに神や悪役にだって身分が変わる無限コンティニューで得た知識と経験で陰ながら世界を救っています~ 憂木 秋平 @yuki-shuuhei

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