第05話 出会い(参)
しんとした静寂が室の中に下ろされた。窓穴から差し込む
カリーマはラーミウの横へ坐すと静かに聲を鳴らした。
「
「
ラーミウは貌を曇らせ、俯いた。昊の
「その影響で最も恐れられるのは」
「
「いずれも白鏡さまが健在であれば起きないことだね」
「
「けれど、直接的な解決策は白鏡さまが回復なさるか」
「次代がお生まれになるか、です」
ラーミウの応えにカリーマは黙し――瑠璃をまたラーミウへ向けた。
「白銀の眼を持つ者を探していると云ったね。何故、
「僕が探しているのは次代ではなく、
ラーミウの言葉には迷いというものがない。曇りなく真っすぐだ。カリーマが動じる素振りを見せることはない。それはラーミウの真の意味を解しているということを指す。されどしんとした瑠璃に鈍い光を灯して、敢えて問う。
「今代の白鏡さまは宮におわすだろう」
「白鏡さまがおっしゃったのです。何処かに
「その意味を識っておいでかい?」
「……
ラーミウはカリーマの瑠璃から眼を背け、唇を嚙み締めた。カリーマは苦笑するとそっとラーミウの手に手を添える。ラーミウの手は強く握られていた。カリーマはラーミウを宥める様にその拳を優しく撫でて云う。
「まあ。宝石持ちのことにしろ、白星さまや三珠についてのことにしろ、あたしたちは何も識らないからね。故に、事が起きた際に根本的な働きかけができない。無知とは恐ろしいものだ」
カリーマの瑠璃へ、ラーミウは視線を向け直した。カリーマは寂しげに瑠璃を細め、苦々しく微笑んでいた。その表情の意味をラーミウは知らないが、何かを知っていることは確かである。ラーミウはカリーマの手を強く握って詰め寄った。
「カリーマ様は何かご存知で?」
「
カリーマの瑠璃は一層悲哀の色を浮かべる。ラーミウは眉根を寄せ、小首を傾いだ。離れた場所でシハーブが呆れた風に深く嘆息を落とし、小さく舌打ちをしている。ラーミウは一層眉間の皺を増やし、静かに尋ねた。
「……どういう意味ですか」
「そういうことは、より詳しく相応しい者がある。きっと御前さんの探すものに関して、すべて知っている者だ。その者に尋ね、御前さんなりの答えを見付けなさい」
「それはいったい……」
「
カリーマの発した語にラーミウは息を呑んだ。
「
「
「俺が案内しよう」
カリーマの語を
「良いのかい?」
「カリーマは膝、悪いだろう?偶には
その語調には嘲りが含まれている。ラーミウがシハーブのあまりの言い振りに愕然としていると、カリーマはよよよと泣くような素振りをして応じた。
「確かにその優しさに涙が出るね」
「へへ、
すると矢庭にけらけらと嗤うシハーブの頬をカリーマは勢い良く抓り、瑠璃の眼に爛々とした殺気を籠めた。
「この口、縫い付けてやろうかね」
「カリーマ、マジの目は止めろよ。
シハーブがやや貌を引き攣らせると、ふん、とカリーマは鼻を鳴らしてシハーブから手を離す。その鋭い眼光に、離れて見ていたラーミウですら冷たい汗が額を伝う。呆れた風に肩を竦めるとカリーマはようやくラーミウへ向き直り、にやりと笑ってみせて云った。
「もう外は雨だ。一晩中降るだろう。明日シハーブに案内させるから、今日は家へお帰り。明日また此処へおいで」
カリーマの言葉で初めて、しとしとと降る雨音にラーミウは心付いた。窓穴の外を見れば、昊はすっかり厚い鈍色に覆われて群青の姿は潜められており、白星の光も
「有り難う御座います」
それはジャウハラの民の正式な礼だ。ラーミウが深く頭を垂れていると、カリーマはその肩へそっと触れて応じる。
「
「
ラーミウは面を上げると、やおらシハーブへ身體ごと向き直った。シハーブは先程までと同じ飄々とした態度で、ひらりとラーミウへ手を振り返す。
「じゃあ明日は宜しく、旦那」
「
ラーミウはシハーブにも礼をする。頭を垂れるラーミウをシハーブが昏い眼差しを向けていることに、ラーミウは心付いていなかった。
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