冬の終わりに

「ふぅ、寒いな」


 相変わらず風がびゅうびゅうと俺の肌を切りつけるように吹いている。

もう三月の下旬だし、そろそろ暖かくなってもいい頃合いなのにな。


「よっ、雪斗! おはよう!」


 そんなことを考えていると、誰かがポンと俺の肩を叩いた。


「おぉ、真白か。おはよう。まぁ、俺の肩を叩く奴なんて、お前くらいだもんな」


 俺は真白にそう挨拶して言った。


「なーんかさ、もうすぐ三月も終わりだけど、全然暖かくならないよな」


 真白はそう空を見上げながら言った。曇天だ。


「天気予報だと、四月にならないと暖かくならないって言ってたぜ」


 俺は真白にそう言った。すると真白はげんなりしながら


「マジかー。まぁでも、寒い方が温かいココアが飲めるし、ココアが飲めるって点ではこのまま四月まで寒さが続いてもいいかもな」


 真白はそう呟いた。そういえば、真白はココアが好物だったな。

 でもこいつ、今年の冬そんなにココア飲んでたっけ?

俺はふと疑問に思った事を真白に聞いた。


「でもさ、お前今年の冬そんなに沢山ココア飲んでたっけ?」

「お前がいる前ではあんまり飲まなかったけど、実は家で沢山飲んでたんだ。

でもまだ飲み足りないんだよな……」


 真白は俺の方を見ながらそう言った。


「何本くらい飲んだんだ?」


 俺は真白が飲んだココアの本数が気になり、真白に尋ねてみた。沢山飲んでるといっても、せいぜい十本くらいだろう。いや、十本でも多いか?


「んー、あんま覚えてないけど、まぁこの冬で合計して二十本くらいは飲んだかな」

「多すぎるだろ! 糖尿病になっても知らねぇぞ」


 ココアを二十本飲むなんて、とてもじゃないが考えられない。予想を遥かに超えてきたな。


「お前な……そんなにココアを飲んで糖尿病とかになっても知らねぇからな?」


 俺は呆れながら真白に言った。


「ははは、雪斗ってば大げさだな。大丈夫だって! その分筋トレとかもしてるからさ」


 真白は俺の言葉を気にも留めずにそう笑い飛ばした。


「……ほんとかよ。なんか信用できねぇな」


 俺はそう真白を疑った。


「えー、なんで信じてくれないんだよ!」


 真白は口をとがらせて拗ねた。


「相変わらず、くだらない話をしているね。君たちは」


 ふとそう尖った声が後ろから聞こえた。慌てて振り向くと、そこには––––


「銀治! 聞こえてたのかよ、今の会話」


 銀治と銀河がいた。


「……おはよう、二人とも」


 銀河が、銀治の後ろからひょっこりと顔を覗かせて、俺たちに挨拶をしてくれた。


「……あぁ、そういえば挨拶が遅れたね。雪斗に真白、おはよう。今日は寒いね」


 てっきり銀治は挨拶をしてくれないかと思ったが、ちゃんと挨拶をしてくれた。


「おぉ、銀治! 挨拶をしてくれて、俺は嬉しいよ」


 真白がそう言った。そういえば、この前銀治が挨拶を返してくれないとかで、

銀治と真白が揉めたんだっけ。確か仲直りはしたはずだけど、こうやって実際に

挨拶をしてくれるだけでも、なんだか嬉しいな。


「あぁ、銀河も銀治も、おはよう」


 俺もそう双子に挨拶を返した。


「……銀治、最近愛想がいいよな」


 真白が俺にぼそりとそう耳打ちする。


「まぁ、あいつなりに色々頑張ってるんじゃねぇの?」


 俺はそう真白に返す。


「相変わらず寒いよね。今日、僕と兄さんはココアを飲んできたんだよ」


 銀河がそう俺に話す。


「そうか、さぞ身体も温まっただろうな–––」

「今、ココアって言ったか⁉︎」


 俺が相槌を打とうとすると、すかさず真白が俺と銀河の間に割って入った。


「お前はココアのことになると本当に地獄耳だな」


 俺はそう呆れながら真白に言う。


「そっか、今日お前たちはココアを飲んできたんだな。羨ましいな〜。

俺、今日はココアじゃなくてコーンスープ飲んだんだけど、やっぱココアを飲みたかったなー」


 真白はそう過剰に羨ましがった。


「コーンスープも美味しそうじゃん。僕はコーンスープも好きだよ」


 銀河がそう真白をフォローした。


「そうだよ。コーンスープ、美味いじゃん。俺なんて、今日ココアとかスープとかの汁物すら飲んでないし」


 俺もそう言って真白を慰めた。正直、自分でもフォローの仕方が下手だなぁと思ったが、それ以外に慰めの言葉が見つからなかったので仕方ない。


「そっか、コーンスープだって美味いよな。二人とも、ありがとう。俺、今日からココアだけじゃなくてコーンスープも推していくよ!」


 真白はそうにこやかに言った。そもそも真白のココア好きは、もはや『好き』という次元じゃなくて『推し』という次元なのか……と、俺は真白のココア愛に、もはや尊敬の念すら抱いていた。


「ふっ、何やら賑やかだと思っていたが……。お前たちがいたのか」


 また、後方から声が聞こえた。この特徴的な言葉遣いをする奴は、一人しかいない。


「白澄か。おはよう」


 俺は白澄にそう声をかけた。なんか、目の下にあるクマがより一層濃くなっているような気がするのは、気のせいだろうか?


「よぉ白澄! おはよう!」

「真白か。ふっ、朝日の昇っているうちに逢えた事、嬉しく思うぞ」


 白澄は大げさに顎に手を当ててそう言った。


「……相変わらず、変な挨拶だよね」

「あれ、白澄なりの挨拶の仕方らしいよ」


 そう銀治と銀河が話し合っている声が聞こえる。


「今日も、学舎での活動を頑張るとしよう」


 白澄は髪を触りながら言った。こいつはナルシストなのか、ただの厨二病なのか分からないな。


「おーい、みんなー! おはよー!」


 そう向こうから手を振ってやってくるのは、あきらだ。


「おぉ、あきらも来た。今日はみんな勢揃いだな」


 真白がそう言った。確かに、こんなに全員が揃うことなんて中々ないかもな。


「昨日、遅くまでアニメ見てたら遅くなっちゃった!」


 あきらはそう困ったように笑った。


「ふっ、映像などが時間潰しになるなど、馬鹿馬鹿しいな」


 白澄があきらの発言を聞いて、そう小馬鹿にするように言った。

毒舌だが、それが白澄のキャラでもあるんだ。


「おぉ、今の白澄の台詞、昨日見たアニメに出てきた––––」


 あきらは、白澄の言葉を聞き、目を輝かせて昨日のアニメの話を始めた。

まったく、あきらは口を開けばすぐアニメの話をするんだからな。


「でもさ、今年の冬って、なんだかんだ言って楽しめたよね」


 銀治がふとそう言った。


「あぁ、俺と雪斗でクリスマスパーティーを開いたりな」


 真白がそう言った。確かに、そんなこともあったな。二人でクリスマスパーティーをして、ふと空しさが込み上げてきたりしたな。


「初詣にも二人で行ったよな」


 俺は真白に言った。


「あぁ、あったな。あのとき、めっちゃ寒かったけどお前と一緒に初詣できて良かっったよ」


 真白も、楽しそうに思い出を振り返った。


「真白と雪斗。それから吾輩で、雪人形を生成したりしたな」


 白澄が懐かしそうにそう言った。


「あぁ、三人で雪遊びをしたときだよな」


 俺はそう相槌を打つ。


「えー、真白と雪斗と白澄の三人で遊んだの? 俺も雪遊び一緒にしたかったな〜」


 あきらがそう言った。


「みんなで遊んだといえば、節分とか、マシュマロを焼いた時は楽しかったよな」


 真白がそう言った。


「マシュマロを焼いた時は、お前が言い出しっぺだったよな。俺は氷尾さんを監督役として呼んだんだよな」


 俺は真白に言った。マシュマロを焼いたときは、氷尾さんがわざわざ俺たちのために来てくれたっけ。懐かしいなぁ。


「マシュマロを焼いた時は、どうなることかと思ったけど、なんだかんだ楽しかったよ」

「うんうん! 楽しかったよね、氷尾さんも頼りになったし!」


 銀治と銀河も、氷尾さんの話題をしていた。なんか、俺の知り合いが褒められているのって、悪い気はしないなぁ。


「節分の時は、なんだか白熱したよね。ただ豆まきをするだけだったのに」


 あきらが、笑いながらそう言った。たしかに、ただ豆まきをするだけなのに、やけに少年漫画っぽかったような……?


「そういえば、雪斗と一緒にゲーム屋さんに行った時は、変な人たちに絡まれて怖かったけど……なんとか対処できて良かったよ」


 あきらがそう言った。あぁ、あのときのあきらはカッコ良かったな。

ゲーム対決で年上の奴らをこてんぱんに負かしたんだから。


「また来年の冬も、こんなふうに皆で遊べたらいいな」


 俺はそう呟いた。


「おい、やばいって! もうすぐホームルーム始まっちまう!」


 ふと真白がそう言った。


 じゃあ早く行かなきゃ、と誰かが言い、みんな一斉に学校へと走り出した。


 肌が凍てつくような寒さに耐えきれず、俺も学校へとダッシュした。

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寒すぎる 翡翠琥珀 @AmberKohaku

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