第5話チュートリアル(基礎編)
あたしの目に入って来たのは
山!平原!一面の緑!!
移動したー!って実感がまったくないけど
ルヴァなんとかって世界なのよね、ここ
さて、とりあえずは人の居るところに行きたいけどどうしたものか
今、あたしが居る場所は草の背がやや高い
だいたい膝のあたりくらいまでの高さで生い茂っているから足元は見えないに等しい
「とりあえず山を背にして開けてる方に行ってみようかしら…幸運補正もあるし、なんとかなるでしょ…」
そんな時だった
「うわっ!!」
なんか踏んだ…
足に伝わったのはぐにっとした感触
恐る恐る足元に目をやると
そこには1人の男の人が倒れていた
「えっ…まさか死んで──」
私の言葉を遮ったのは倒れていた男性のお腹の音だった
「……何か食い物と水…を…」
よかった、生きてた
異世界来て最初に出会うのが行き倒れた人の亡骸とか勘弁してほしい
びっくりしたけど、これで何もしないで立ち去れるほど非情でもないからとりあえずお水とパンでも渡してみようかしら
あたしに授けられた権能、食糧作成で作られた食べ物は基本的にあたし自身しか食べられないのだけど、こんなこともあろうかと1週間のお籠もりのときに見つけておいたとっておきスキル
お裾分け〈シェア・ハピネス〉
食糧作成で作ったものを自分以外の者に分け与えるスキル
設定したキーワード、現時点だと「お裾分けです、どうぞ」と言うことで相手に作成食糧を渡すことができる
でもやっぱり10分くらい手付かずで消失
受け取ったものを別の人に渡すこともできないと、制限はやや強め
さっさと食べればなんの問題もないのよ、お腹に入れれば消失しないし、ちゃんと栄養も取れる
「もしもし、大丈夫ですか?パンとお水で良ければありますよ」
んーと、翻訳…できてるよね?
あたしの不安はすぐに解決した
倒れてた男性が起き上がる
「いいのか!?くれるのか…?」
「…ええ、もちろん。お裾分けです、どうぞ」
異世界の人だし、菓子パンとかよりはバターロールとかのほうが無難よね…?
倒れていた男の人はすごい勢いでバターロールにかぶりついた
「美味え!何日かぶりのまともな食い物だ!!ちくしょう、美味えなあ…」
「急がずにゆっくり食べてね。はい、お水」
さすがにペットボトルは混乱を招くだろうから渡せないので、旅の荷物を入れたバックパックの中から木製のコップを取り出して水を注いでパンを頬張る彼に渡す
(あたしに対する敵意、悪意は無しか…騙そうとかじゃなさそうね)
彼がパンを食べるのに夢中になってるうちにこっそり識別させてもらった
「ありがとう、見知らぬ人!あなたのおかげで助かりました!是非お名前を伺いたく…!」
行き倒れの彼から突然名前を教えてくれと言われて一瞬だけ考える
まあでも場所が
別に隠すようなものじゃないし
「私はオトネ。特に行くあてのない旅をする魔術師よ」
イルフェンのアドバイス通りに魔術師と名乗ったのだけど、それを聞いた目の前の彼の表情が驚愕と歓喜に変わっていくのが見えた
あれ?あたしなんかマズった??
「魔術師!魔術師なんですか?わ、私はエイマルと言います。是非、魔術師様のお力をうちの村に貸していただけないでしょうか!」
んー?んんんんんー??
いやいやいやいや、魔術師って世を欺く仮の姿、方便だからね?
さすがに断ろうかと考えていると
エイマルさん、先の喜びの顔から一転、泣きそうな顔であたしに懇願して来た
「お願いします!魔術師様のお力添えで村を、私たちの村を助けてください…!」
「わ、わかった。わかったから落ち着いて…」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」
いやいやいやいや、わかったってそういう意味じゃないから
でも、イルフェンが言ってたのよね
あたしが自分の力で誰かを助けるのならその術はもう持っているって
その言葉とあたし自身を信じてみますか…
エイマルさんの村に行くことになったけど、彼の村はここからだと数日ほど歩いたところにあるらしい
歩く?数日?
現代っ子のあたしに厳しくない??
とはいえ幸いにも身体強化とかリジェネレーションの権能があるからそこまで疲弊せず歩けそうなのは正直助かる
エイマルさんの村に向かう間のうちに色々と話を聞いておくことにする
言われるまま流されてしまうのは絶対良くないのよ、経験としても痛いほどわかってる
「あの、エイマルさん…?とりあえず移動しながらでいいから何がどういう状況なのか教えてもらえる?」
「はい、魔術師様。あ、私のことは呼び捨てていただいて大丈夫です。実は──」
エイマルから聞いた話はこうだ
まず、ここはセレイツ王国が治める土地で彼の住む村は国境近くの辺鄙な村ということ
最近そこに野盗団が襲撃をかけてきたという
今のところ食糧の強奪だけで人の命は失われていないものの、このままではどうにもならないと野盗団の隙をついて足に自信のある者たち数名が国境警備兵に救援を、そして追手による全滅を防ぐため冒険者にも救援を頼もうとそれぞれ別れたのだとか
「村を出てほどなくして追手が来ました。そこで襲われた時、俺は川に落ちて流されたのです。追手も私が死んだと思って諦めてくれてればいいのですが…」
うーん、どうしよう…
イルフェンも言ってたしあたしもそれでいいと思ったから戦闘用のスキルとか取ってないのよね。
リストにそもそも無かったしイルフェンもそんなこと言ってたはず
一応、護身用スキルは取ってるけど
命懸けの戦いなんてしたことないあたしがエイマルの村に行って何ができる?
そんなことをモヤモヤ考えていると突然エイマルに肩を掴まれ引き止められる
「大変です、魔術師様。追手は俺を諦めていませんでした。下手したら見つかってしま─」
その時だった
少し離れた丘の上から馬に乗った男がこちらを見ているのが見え…思いっきり目が合った
ど、どどどどどうしよう
逃げようにも逃げ切れないヤツだ
いや、あたしだけならルームに逃げ込めばいいけどそんなことしたらエイマルは間違いなく殺される
知り合って間もないけど、さすがに見捨てるなんてできない
でもだからと言ってルームに招くかとなればそれも避けたい(というか最終手段にしたい)
となると、護身用スキルでなんとかする?
できるか……いや、やる!
やるんだよ、今!ここで!!
神様から貰ったスキル(選んだのはあたしだけど)がそんなショボいわけないはずだから
きっと護身用スキルでもいける!
よし、覚悟決めろあたし!
今までの話からエイマルに戦う力はない
だから魔術師と名乗った私に縋ったんだ
魔法は使えないけど
きっとこのスキルなら乗り切れる
この世界に来る前に試し撃ちもした
だからきっと大丈夫だ
鎮まれ、胸の動悸
そう、深呼吸して落ち着け
素数─、素数を数えるんだ
そうしているうちに
エイマルを追ってきた男は私たちの目と鼻の先に迫っていた
「やっぱり生きていたか…困るんだよなァ、助けなんて呼ばれると」
少なくとも人を対等に見るような感じではない眼差しでその男は言った
「そこの女は格好からして魔術師か?だが、魔法など恐れるようなものじゃない。この距離ならば何より疾く俺の剣がその女の喉元に届く」
ん?
こいつ今何て…?
あたしがなんちゃって魔術師ってのがバレた?いや、違う
エイマルの話からも魔術師が高い
なのにこの男の自信は何…?
とりあえずちょっとカマかけてみよう
「魔法より疾い剣?そういうのって大体は詠唱中にこちらを仕留めるということでしょ?もし私の魔法が
そう言ってあたしは追手の男を指さす
しかし、追手の男はあたしの言葉を鼻で笑う
「フンッ、どうせお前たちはどう足掻いてもここで死ぬ。絶望ついでに教えてやろう。この鎧はな、魔法を弾くのさ!無詠唱だろうが関係ねェ!理解したか?理解したなら死ね!!!!!」
追手の男が剣を振り翳し、大声で吼える
──今だ
(スキル、サミングショットカスタム
部位指定【両目】
男に向けられたあたしの指先から
液状となった唐辛子が射出される
この護身用スキル、ヤバい点がふたつある
ひとつは視認できる部位であるならば「必中」になること
もうひとつは
ついでに言うと対象は別に味方でもいける
「ゴッ…ガッ!ゴアアアアアアガアアアアアッーーーァァァォァァァァ!!!!!」
追手の男の絶叫が響く
あたしが放ったトウガラシ弾は見事に男の両目に命中した
馬から転げ落ち悶絶する追手の男
あたしはふと思いつき
エイマルとともに男が乗ってきた馬を連れて急いでその場を離れた
神様見習い、異世界を旅する にしくらすなこ @nishikura_sunako
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