第4話準備は万端
ルームにこもってスキル選びを始めてから2週間が経った
予想以上に時間を費やしてしまった
戦闘系スキルを除いてあの量とか膨大すぎでしょ…
だけどその甲斐あって、この先の旅路で困る事がないと思われる便利なスキルをしっかり選べたからヨシ!
それにこのルームに戻れば好きに付け替えもできるから問題もナシ!
イルフェンからもらった権能のひとつ、食糧作成のおかげで2週間のお籠もり生活中も食べるものにも飲み物にも困らなかったの本当に最高すぎる
さらに言うなら片付けもしなくていい
お風呂はいつでも沸いてるし、めちゃくちゃ快適な生活だった
労働しなくても何も困らないっていいなあ
労働しなくても生きていけるっていいなあ
ご飯の準備も片付けもしなくていいって最高だなあ!!
そんなことを思ってると不意にお腹が鳴った
神様見習いになって人とは別の存在になったとはいえ元が人間である以上お腹は空く
イルフェン曰く、私が選べるスキルはイルフェンセレクションの権能に比べて劣るものだと言ってたのを覚えてたから
食糧作成に似たスキルもあると思って探したらやっぱりあった
『指先から好きな調味料を出せるスキル』
しかも食糧作成と同様に自分が食べたことがあるものならなんでも出せる。ただしノータッチ放置10分ほどで消失する
異世界モノのラノベとかで見たような荒稼ぎとかはできないけど、食料作成と調味料スキルだけで圧倒的勝利じゃない!
1人で猛っていると
催促するかのようにお腹が鳴る
さあ、今日は何を食べようか
ホットドッグとかいいなー
噛むと皮がはじける音とともに肉汁が溢れ出す熱々のソーセージをパンに挟んで
たっぷりのケチャップとマスタード
そしてそこに最推しのアレを……
いけない、想像したら空腹が加速してきた
食糧作成の権能にもだいぶ慣れて
今ではもう言葉を発することなく食糧を呼び出せるようになったあたしに最早、隙はない
今、あたしの手には湯気が立つ熱々のホットドッグがあった
たっぷりかかったケチャップとマスタードの香りが鼻腔をくすぐり、空っぽのお腹がさらに悲鳴を上げる
このままかぶりつきたい気持ちを抑え
ここで調味料スキルを使用
私が最も愛してやまない調味料を呼び出す
そう、それは…
デスソース!!!!
こちらに来て元の世界に戻れないと知ってからの数少ない心残りだったのがこの大好物のデスソース
ほとんど諦めていたのだけどこうして食べられるのはまさに僥倖というものだろう
デスソースもたっぷりかけて…いざ!
「〜〜〜〜〜ッッ!!」
口内に満ちるこの刺激が本当にたまらない
瞬く間にひとつめを平らげ、続けてもうひとつ、ふたつとホットドッグを呼び出す
本来ならこんな暴食はカロリーとかのことを考えればするべきではないのだけども
権能のおかげでどれだけ食べても太らない上に身体への悪影響もない
なんだこれは?天国かね??
………
…………
……………
…さて、スキルも選び終わってご飯も食べたことだしイルフェンのところに行って行き先決めないとね
「オトネ、久しぶり。出てきたってことはいよいよ出発?どこ行きたいか決めた?」
デッッッッッッカ!!
ルームから出た私に声をかけてきたイルフェンは見上げるほどに巨大だった
ああ、そういえば初めて会った時も大きかったっけ…
わざわざあたしの体の大きさに合わせて話をしてくれたんだった
やらかしの隠蔽と捏造の思惑もあるのだろうけどイルフェンってそもそも優しいいい人なのよね
「どこの世界とかそういうのはよくわからないけど、子供の頃に本で読んだような剣と魔法の世界があるなら行ってみたいかも」
もし何か危いことがあってもイルフェンホットラインという緊急脱出装置もあるからなんとかなるでしょ
「じゃあ、あの世界が良さそうね。あそこならそこそこ文明も発達してるし。ああ、そうだオトネ、これは餞別ね。旅の役に立つと思うわ」
そう言ってイルフェンが渡してきたのは小さながまぐち財布のようなものだった
「これはオトネ専用のお財布。オトネが赴く先の世界のお金が少しだけ常に湧き出るから役に立つと思うわ。ルームの外に居る場合、オトネから時間にしてだいたい1分か距離にして100メートル離れたら自動的にオトネの元へ転移してくる安心設計よ。もちろん呼んでも戻ってくるけど」
あー、お金のこと全然考えてなかった
これは正直すごい助かる
お金が少しだけってどれくらいだろう?
気になってイルフェンに聞いてみると
あたしが元居た世界なら1万円くらいとのこと
ついでに言うと使いやすく1000円札10枚状態で湧き出るらしい(あくまでもあたしが元いた世界で考えると、だけど)
それ以上増えることもなく常に一定の額をキープするとかなんとか。うーん至れり尽くせり
だけどこれ、その世界の経済とか大丈夫なの?ホントに大丈夫??
イルフェンが何も言わない以上は大丈夫なのだろうけど…
まあでもあたしが旅に出ることでイルフェンは致命的なやらかしの隠蔽ができるわけだからここまでしてくれるのだろうなあ
口止め料にしてはすごいものばかりもらってるけど…
「ああ、そうだオトネ。大事なことを伝え忘れてたわ。今オトネがいるこの場所『管理界』と他の世界は時間の流れが異なるの。ここでの1時間が他の世界では1年だったり10年だったりすることがあるから、もし再度同じ世界に行く場合は気をつけてね」
なるほど、昔何かの本で見たことがあるウラシマ効果?とかいうヤツね
でも、あたしやイルフェンに何か影響があるわけではないから…いや、あるか
例えばあたしが2年くらい旅して帰ってきたとした場合、この管理界では大して時間経ってないとかあるわけかぁー
イルフェンからしたらなるべくここから離して隠していたい存在であるあたしが短時間で頻繁に帰ってきても困るわけだ
帰るのはホットライン使うから仕事の邪魔にもなるだろうし
あと、ホットライン使ってもイルフェンの仕事の手が空かないと帰れないってことは
終わるまで待たなきゃならない、場合によっては何年も何十年も…
さすがにそれはメンタルに来そうだなあ
そんなことを考えているとまるでお見通しと言わんばかりにイルフェンが言った
「時間の流れのことでホットライン使用時の待機時間が不安なのね。それは心配しなくていいわよ。ホットライン使った時点でルームの中の時間経過がここと同じになるから」
それならよかった
あたしは思わず安堵の息を吐いた
「ええと、確か剣と魔法の世界…あった、ルヴァナーズに行くってことでよかったのよね?んー、その世界に行くなら旅の魔術師ってことにしといた方がいいかもね」
イルフェンは数多の世界の管理者というだけあって自分が管理してる世界はしっかり把握してる。これから行く世界、ルヴァ…ルヴァなんとか、なんかお菓子のクラッカーみたいな名前の世界
確かに神様見習いということは秘密にしておいた方がいいのは間違いない
そう考えると魔術師ならそれっぽいローブを着てれば食糧作成とかを見られずにできるしスキルとかも魔法ということで隠し通せるかもという淡い期待もある
あ…でも、そもそもローブとか持ってないから現地調達しなきゃいけないかー(メンドクセ)
そんなあたしの表情を見てかイルフェンがまたひとつ教えてくれた
ルームのクローゼットには旅先の世界に対応した衣装が収納されているということを
ホント至れり尽くせりすぎない?
「オトネ。行く前に大事なことを伝えるわね」
イルフェンの真剣な眼差しに思わず息を飲む
「あなたは神様見習いだけど、これから行く世界ではあくまでも旅人。その世界に深入りするなとは言わない。でも、誰かを助けることに私は手を貸せない。あなたの目の前に死にそうな子供が居ても、旅先の世界でのあなたの恩人や友達が命の危機であってもここには連れてこられない」
なんとなくわかってたけど
あらためて言葉にされるととてもシビアだ
「でも、あなたが自分の力で助けるというなら話は別。そのための術は持っているのだから」
そう言うとイルフェンはにっこり微笑んでいつもの気さくな感じに戻った
「オトネ!どうせなら私が管理する数多の世界全部旅してらっしゃい!」
数多ってどんだけあるのよ、無茶言わないで
あたしとイルフェンは互いに目を合わせて笑いながら軽くグータッチをした
「行ってらっしゃい!」
「行ってきます!!」
とりあえず初めての異世界旅
さあ、こっからはあたしのステージだ!!
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