第3話急ぐ旅じゃないのだから
「はい、完了。残りの権能の追加はオトネ自身に任せるわね」
イルフェンはそう言うけど
正直何が変わったのかよくわからない
あ、そうか
意識しなきゃ使えない権能を使ってみればいいのよね。…とりあえず
「あんぱん、出てこい!」
声に出してから念じるとあたしの右手には普段からよく買っていたあんぱんがあった
「あら、早速使ってみたのね。私たちのような生まれながらの神は基本的に生きるための食事を必要としないのだけど、娯楽として味を楽しむくらいのことはするからこういう権能もあったりするのよ」
イルフェンの言葉であんぱんに気を取られていたあたしは我に返った
そうだ、味だ。味まで完全に再現してこその食糧作成の権能でしょうとも!
あたしは大きく口を開けあんぱんに齧り付く
「…あまい!美味しい!!あんぱんだ!これすっごいあんぱんだよ!!」
なんか語彙がおかしなことになってるけど
権能であんぱんを生み出せたことに興奮が隠せないので仕方ない
神様の権能ってすごい……!!
「好きな食べ物は……あんぱんだ!!」
感極まったあたしの叫びが周囲に響く
「オトネ、盛り上がってるとこ悪いけどちょっといい?私とのホットラインについて説明しておきたいのだけど…いいならこちらに来てくれないかしら」
イルフェンがあたしを呼ぶのでそこに行くと見慣れないけど何故か読める文字列があった
「これを読めるのも権能?」
「そういうこと。で、今オトネが見て読んだコレはまだ創生されて間もない実験的な世界たちに付けてる仮の名前なの。身の危険はないから一度この世界どれかに降りてもらってホットラインを試すわね」
イルフェンの言葉にドキドキと不安が入り混じる。異世界よ、異世界!
いや、今いるここもめっちゃ異世界だけど巻き込まれじゃなくて自らの意思で赴ける異世界なんてテンション爆上げじゃないの!!
不安が入り混じるなんて言ってるけど実際は9:1よ9:1!ドキドキ9!不安1!!
個人的にはさっき見た『小さきものたちの楽園』ってのが気になってるのよね
なんていうかファンシーな感じの響きがまたいいのよねー!
「じゃあ、まずはオトネがルームの権能を使って部屋をを出してその中に入って。念じれば扉が出るから。あ、オトネの場合は声も出した方がやりやすいかもね」
なるほど、さっきのあんぱんと要領は同じってことね。よーし…
「扉よ、出てこい!」
目の前に現れたのは元の世界でよく見るようなドアノブつきの扉だった
おそるおそる扉を開けてみると中はきっちり片付いててお風呂とトイレが別にあり、ベッドとテレビ、洗濯機もあるし小さいけどキッチンもある
まさにワンルームって感じ
というか、テレビ映るの?
まあ映っても映らなくても、そもそも私が見たいの見れないのはわかってるからあまり必要性を感じない
「オトネ、聞こえる?こっちからは見えてるから聞こえてたら手を振って」
イルフェンからの呼びかけに応えて手を振る
「じゃあ、今からどれかの世界に送るけどリクエストある?ないなら適当に…」
「小さきものたちの楽園で!!」
「オッケー☆」
やや食い気味に行きたい場所をリクエストする。だって小さきもの楽園よ?小動物たちがのんびりゴロゴロしてたりする世界とかまさに楽園じゃない!!
シルバニア的なのもいいし、ちぃかわ的なのは…ちょいとシビアがすぎるわね
そんなことを妄想してると
突然、部屋にある電話のようなものが鳴った
受話器を取るとそこからイルフェンの声が聞こえてきた
「これがホットライン。旅先の世界から帰りたいときに部屋に戻ってこの通信機で連絡してくれたらオトネをこちらに転送するから。でも、私が仕事してたら気づくの遅くなると思うからそこのところはよろしくね」
仮にイルフェンが気づくの遅くなっても安全な部屋はあるし食糧も問題ないから大丈夫ダイジョーブ☆
「ねえ、イルフェン。ちょっと外に出てみていいかな」
「それは別に構わないけど、さっきも言ったように創生して間もない実験的な世界だから意思疎通できる存在とかいないわよ?」
ふふん。イルフェンはそういうけど意思疎通できなくても小動物は可愛い、それだけで正義なのよ
そして私は意気揚々と扉を開け…
…………………そこは地獄だった
「扉よ!出てこい!早く!!」
怒涛の勢いで部屋の中に戻り通信機を使ってイルフェンに連絡を取る
「イルフェン!はっ、はよ、はやく迎えに、きて!」
あたしが見たもの、それは空を飛び回り地を這い視界を埋め尽くす虫の大群だった
「おかえりー。小さきものたちどうだった?って、なんかすごい顔してるね」
イルフェンは虫、平気なのね…
まあそうよね、あたしが元居た世界でもふわふわ可愛い小動物よりも虫の方が存在したの遥かに先なわけだし
創生されたばかりの世界なんだから当然そうなるわよね
とりあえず深呼吸……
「大丈夫、もう落ち着いたから。そういえばイルフェンはこの部屋には入ってこれないの?見えるから入らないだけ?」
ふとした疑問をイルフェンに問う
「今のままだと入れないわよ。というかオトネが招かないと誰であっても何であっても入ることはできないのよ。もちろんわたしであってもね」
セキュリティ最強かあ
至れり尽くせりでなんかもう笑えてきた
「あ、そうだオトネ。オトネが選ぶ権能についてだけど私セレクションのものよりはちょっと劣るのね。どうしても授けるものと選べるものでそういう差が出ちゃうのは仕方ないのだけど…」
それはそうよね。というかそうでないと明らかにやりすぎになっちゃう。今の時点でも充分やりすぎ感はあるけど…
「大丈夫、問題ないわ。私が権能を選ぶのは時間かかっても大丈夫?」
「もちろん!急ぐ旅じゃないのだから部屋でゆっくり決めるといいわよ。あ、でもオトネは旅がメインだから選んでもらうリストの中に戦闘系のものはほとんどないの。護身程度のものはあるけど…」
いやいや、あたしは戦わないからそんな戦闘スキルみたいなの要らないよ?
あー、でも護身のはあった方がいいかなあ
権能のリストは呼び出せるみたいだからのんびり考えよう
そんなことを考えているとイルフェンが何かを思い出したように話しかけてきた
「オトネは元の世界に居たときRPGとかいうゲームやったことある?」
ちょっと意外な質問だったけど
多少はやったことある(謙遜)ので素直に頷く
「そしたら権能はスキルって言い方に変えた方がいいわね。旅先の世界では神様見習いってことは伏せておいた方がいいと思うのよ」
確かに『私!神様見習いです!』なんて公言するのもどうかと思うし、不老不死に限らずバレたらヤバいものだらけだからあたしの身の安全のためにもその提案は圧倒的に正しい
それを踏まえて権能…じゃなかった、スキルのチョイスをじっくり考えてこよう
「ああ、そうだオトネ」
スキル厳選のために引き篭もろうとしたあたしをイルフェンが呼び止める
「言い忘れてたけど、オトネが選べる権能は私が直接授けた健康に少し劣るとは言ったけど、ひとつの強みがあるのよ」
ひとつの強み?なんだろ?
そしてイルフェンから放たれた言葉はまさに衝撃の一言だった
「スキルはルーム内でなら好きに付け替えできるからね」
はっ…破格すぎでしょ……
てことはこのスキルリスト全チェックして把握してチョイスしなきゃじゃない!
間違いなく1週間とかかかりそうね…
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