第2話神様見習いになりました

イルフェンが提案してきたこと

それはあたしに神様見習いにならないかということだった

「神様…見習い、ですか?」

突拍子もない提案に理解が追いつかない

「そんな心配するもんじゃないわよ。オトネ、あなたはここに来たけどずっとここに居るわけにもいかないでしょう?だから神様見習い、つまり私の後継候補になって私が管理する数多の世界を旅してみないかってことよ。後継候補って言っても建前で、だけどね」

イルフェンの口から出た旅という言葉に思わず反応してしまった

そう、あたしは旅がしたい

それが未知の異世界というのは期待もあるが戦うにしても身を守るにしてもそういう術を持たぬ女1人というのは不安もある

というか不安の方が大きい

そんなあたしの様子を見て察したのかイルフェンがさらにフォローを入れてきた

「神様見習いになるなら私からいくつかの特典をつけてあげる。そうね、あなたの指の数だけの権能をプレゼントするわ」

「指の数…20ってことですか」

欲張って足の指も込みで言ってみたけど否定的な反応は無し

え?マジで20個?貰えるの?

権能って神様としての力ってことだから20だとかなりすごいことになりそうな…

「とりあえず私セレクション権能が10、オトネが選ぶのが10って感じでどうかしら?」

なんかすっごい軽い感じだけど、いやいやいやいや、破格もいいとこでしょ

そう考えてるとイルフェンは矢継ぎ早にセレクション権能の説明をしてきた


権能のひとつめはリジェネレーション

簡単に言えば無尽蔵の体力

軽い怪我程度なら勝手に治るそう


二つめは不老

これはあたしでもわかる、権力者が追い求めるヤツ。確かに神様ならそうだよねーって感じ

というか若いまま居られるのは正直かなりありがたい

不老であって不死ではないから気をつけてとイルフェンから念を押された

神様見習いのうちは不老で

正式に神様になってようやく不老不死になるんだって

あとなんか神様見習いになった時点で見た目は人間でも人とは全く別の存在になるから人に対する恋愛感情とかはほぼ無くなるんだとか。まあ元々そういうの無縁というか興味もなかったから特に気にならないけど


三つめは幸運(強)

幸運補正キターーー!!!

イルフェン曰く、旅に出るならコレは必須とめちゃくちゃ力説してきた

確かに右も左もわからない異世界旅をするんだから当然の如く土地勘もない

そういう時、コレがあるといろいろ上手くいくんだって

他の人が羨むような派手な幸運(あたしの感覚で言えば宝くじ1等が連続で当たるとか運が絡む勝負事で連戦連勝とかそういうの)ではないけど、迷ったり遭難しても無事に戻って来れる

そういう運が強化されるということだそう


四つめは識別

これは使うことを意識して発動する権能であたしの旅に便利だろうからつけてくれた

悪意がある人物の背後にオーラが見えるとか

簡単に言うと赤いオーラはヤバい

黒いオーラはもっとヤバいんだって

それ以外にも看破?とかいうのも使えるとか

鑑定とは違うのがちょいと残念

そもそもあたしが元居た世界では騙されることはあっても『普通の人は』正体不明の何かに化かされたりなんかはないものねえ


五つめは言語変換(翻訳)

これから旅する異世界の言葉があたしに馴染みのある言葉に変換される、逆もまた然り

だけどたまに訳されない言葉もあるそう

神様見習いの特典ありがたいなあ

まだやるかどうかは決めてないけど


そして六つめ、ルーム

これを聞いた時思わず「おおっ」って言っちゃった

ワンルームくらいの広さの部屋に自由に出入りができる

お風呂とトイレ付き(しかもお風呂とトイレ別!)

ペーパーなんかの消耗品は自動補給という優れもの!

イルフェン曰く次元の異なる場所にあるそうであたし以外には開けられないのだとか

セキュリティも完璧すぎる

それにしてもなんでここまでしてくれるのだろうか?破格の対応すぎる

イルフェンの真意がわからなくてちょっと警戒してしまう

詫びだけじゃここまではしないよね…


そんなあたしの疑念を一気に吹き飛ばすヤバい権能が来てしまった

確かに旅をする上で大事なのは食料

神様見習いになって無尽蔵の体力があっても

不老でもお腹は減る


七つめ、食料作成

あたしが元居た世界では石をパンに水を葡萄酒にってヤツよね?

と思ったらさらに上だった

私の記憶にある、たとえ忘れていても過去に食べたことがあるものは作り出せる

しかもコストかからずで…!

ただし、食べられるのはあたしだけ

手から離してノータッチで10分ほど経つと消えてしまう

覚えているものは即座に作成できて

忘れているものはリストを呼び出して作成することができる


こんなの永遠に旅できるじゃない!

あ、でもこういうのバレたらヤバいからあまり人目につくところでは使わない方がいいってヤツよね

ルーム使用時限定にすれば大丈夫かな

というかこの権能があればアレを…

うふふふふふふふ…


八つめは動物との意思疎通

相手が人なら翻訳でいいのだけど

動物だとそうもいかない

イルフェン曰く、特定の種族の声だけでなくあらゆる種族の声を聞くことが神様として大事なことなのだとか

だけど、声を聞けるからといって

干渉しすぎないようにと釘を刺されてしまった

この権能も使うと意識してから発動するそう


九つめは身体機能の強化と保護(内臓も含む)

これは病気にならないというだけじゃなく

『太らない・胃もたれしない・酔わない』

といった食事や飲酒の美味しいとこだけ味わえるという素晴らしい権能

余分な脂肪の蓄積や肝臓へのダメージもない

そんな素敵なものつけてもらえるなら神様見習いにならない選択肢なんてないじゃない

イルフェン…なんて策士なの…

疑念とかもうどうでもいいわ


そして最後の権能が…

イルフェンホットライン

旅先の異世界から今いるこの場所に戻りたいときに連絡すれば帰らせてもらえる

緊急事専用の権能

とりあえずこのあと使い方を教えてくれるそうなのでちゃんと覚えておかないと

緊急時の連絡先マジ大事…!


「で、どうかしら?私からの豪華権能セレクションで神様見習いになる気になった?」

イルフェンがこちらの顔を覗き込んでくる

「なってもいいけど、ひとつだけ教えて欲しい。なんでこんなに良くしてくれるの?意図がわからないとちょっと…」

疑念とかどうでもいいと思ったけど、やっぱちゃんと聞いておかないとね。

イルフェンを信じないわけじゃないけど、あまりにも破格の待遇すぎて

何かヤバい思惑があるのではないかと勘繰ってしまうのも仕方ないってことなのよ


「んー…、そうよね。オトネの言うことももっともだわ。ちゃんと正直に話すべきよね。端的に言ってオトネがここに来た理由を隠蔽、捏造したいのよ」

「隠蔽と捏造?」

なんか不穏な言葉出てきたけど大丈夫?

「そう、オトネがこちらに来たのはマーグティオスの仕業だけどそれは本来ならあってはならないことで、バレたらすごい怒られるどころか神様としてのクビが飛んじゃうのよ。あおちゃん…オトネの元居た世界の神様も巻き込んじゃってるからかなりの大事になると思うの」


あー、そう言えばそんな話してたなあ

イルフェンは話を続ける

「だからね、オトネは偶然出来た空間亀裂を通って奇跡的に生きてここまで来た。そして私に見込まれて神様見習いになって修行の旅に出たってことにしたいのよ。そうしたら上司…他の神々にバレることもないと思うの」

保身かー……

でも、バレないで済むならそうしたい気持ちもわかるし

私にはメリットばかりだから悪い話じゃない

「わかった。私、神様見習いになる」

拍子抜けするようなイルフェンの思惑に肩の力も抜けてしまって、神様見習いになることを受け入れながら笑ってしまった


「オトネありがとおおおおおおー!!やはりあなたが神よ!神!!」

だから神様はイルフェン、あなたでしょ

私はまだ見習いになったばかりなんだから

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