第58話 言葉と行動

―言葉と行動—


 11月某日、ハワイにて、日本、華東※1、華連、米国の4国によるアンドロイド会議が行われた。


 各国にアンドロイド管理局を設け、ウェットロイド技術を厳密に管理すること、アンドロイド戸籍の管理を行い他3国と共有すること、新たな技術開発をする場合は他3国の承認を得て結果を共有すること、これらの運用を監査するアンドロイド協会を共同で設立することが取り決められた。


 この取り決めに従い、各国で持ち得るウェットロイド技術の研究所は1箇所だけとされたため、日本では横浜、華東では北都、華連では虹港、米国はハワイにのみ許された。


 これに伴い、サポロイド社の南都のウェットロイド設備が解体され、ハワイに移設された。華連の虹港以外のパープルロイド工場は全て解体されたがコクーン施設は残された。

 北都のサポロイド社は華東NSAの管理下に入り、ハワイの研究施設には、筑紫野と絹代が派遣されることとなった。


 これらの事項は、各国の正式な契約手続きを経ることなく、各国間の密約とされた。



   *   *   *   *



 12月某日、羽田空港の国際線出発ロビーでは、お腹が少し目立つようになった姫乃と付き添いの紅鈴と楊黄鉄の3人が、伊崎、奈美、ヒコロイド、ヒメノ達の見送りを受けていた。


 姫乃は華連アンドロイド管理局長の職を受け、もろもろの準備のために虹港に発つことになった。実際の活動拠点はパープルロイド社になる予定で、周緑山自ら周到に手配を進めてくれていたので、身ひとつで行けばいいという恵まれた状況だ。



「それじゃ、行ってきます」

「気を付けてね」

「お母さんもね」

 見送る奈美のお腹も少し膨らんでいる。


「姫乃。国家主席になったつもりでやり切ってこい」

「もちろん、そのつもりよ。お父さんの娘だもん」

 思わぬ返事に目を潤ませる伊崎。


 姫乃は改めて見送りの4人とベビーカーの英与を見回すと、一度ヒメノに頷いて、忘れ物でもしたかのようにベビーカーに駆け寄り、英与の頭をすすっと撫でた。


「行ってきましゅね、お姉ちゃん」

 姫乃の中では、英与は既に、お腹の子のお姉ちゃんになっているようだ。

 怪訝な顔をする伊崎に、立ち上がって自分のお腹を指差す。

「ほら、英与はこの子のお姉ちゃんだから」

 そう言って、手を振ってキャリーバックを転がしながら、前を向こうとしてヒコロイドと目が合う。


 姫乃は笑顔で頷きだけを返して、背を向けた。紅鈴と楊も、見送りの一行に頭を下げて、姫乃に続く。


 ――行ってきます、英彦さん。


 ヒコロイドではなく、天国の英彦に向けた思いだ。

 ヒコロイドのチューニングをしていた音声記録で英彦が語っていた言葉が蘇る。


 『古代の日本では、外国人でも、

  国を愛する心があれば、

  その言葉と行動を認められて

  同化してきた。

  だからきっと、

  アンドロイドとも同化出来る筈だ』


 ――言葉と行動、か。


 姫乃は、これからウェットロイドの中に紛れ込む外国人となる。彼らは姫乃の言葉と行動を受け入れてくれるだろうか? それとも彼らも紅鈴やヒメノと同様、イビトのような生き方を受け入れているのだろうか? 1億のウェットロイド達は、10億を超える国民を動かすに充分な言葉と行動を示せるのだろうか?



   *   *   *   *



 翌年の正月、周緑山は新年の演説で、華連の段階的民主化と共産党の段階的解体を計画的に行う、構造改革プログラムを発表した。





―おしまい―


※1 本作では、一部、国名を変えています。周辺国の地図はこちら↓

https://kakuyomu.jp/my/news/16818023212437545534


※この物語はフィクションです。登場する人物名、団体名は架空のものです。

 また、作品中に出てくるAIの構造や機能、ならびに幹細胞工学や海洋開発の技術

 は、物語の前提として考察したものであり、必ずしも科学的事実に基づくものでは

 ありません。

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WETROID ―ウェットロイドー 炊込物語 のしまる @takikomi-noshimaru

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