最終話

『曲辰君は、「私と付き合ってる」って噂……どう思った?』

「……」


 噂に関することを聞いて「そりゃあ広まるし、他クラスの奴も気にするわ」と納得していると、小鳥遊さんからそんなことを聞かれた。

 小鳥遊さんとお付き合い、ねぇ……。


「まず、正直に云うとね。よくわからない」

『それは――』

「別に、小鳥遊さんに非があるわけじゃないよ。ただボク、趣味にアクセル全開だろう? そんなだから自分の恋愛っていうのにはどうも考えが及ばなくてさ」

『……』

「だから、正直「ボクに彼女がいる」なんて噂、夢かと思ったよ。ボクも思春期真っ盛りの一般高校男子だからね。そういう欲の一つはある。それがこんな変な幻覚を見せてるのかとさえ思った」

『嫌とか、思わなかったの?』

「別に? 寧ろ、小鳥遊さんって知って安堵したくらい」

『え?』

「だって知らない人と勝手に彼氏彼女の関係にされるのはねぇ? 対して小鳥遊さんのことはよく知ってるから」


 真逆な性格だけど、これでも去年から休日のランニング友達兼、映画友達だ。そんじょそこらの人とはわけが違う。

 そういう意味もあってのことだけど……うん。ちょっと気障っぽいかな。


『そっか……』

「ところで小鳥遊さん達はどんな会話してたの?」

『ひぐっ!?』

「どんな反応なのそれ。益々気になるんだけど」

『そ、それはその……笑わない?』

「笑わない笑わない……たぶん。というかこの流れで笑う要素あったら驚くと思うけど」

『そうかもだけど……いや、曲辰君も当事者だし。うん……い、一応だけど、誰にも言わないでよ?』

「大丈夫。言える相手いないから」


 交際関連のことは言也にも絶対バラさないって決めてるので無問題。今日のアレで若干引いてるんだよね。


『その……服のこと』

「服?」

『土曜日に着てく服を相談してたんだよ!』

「へぇー……取り敢えずボクはオシャレとか門外漢以前のこととして、謝った方がいいよね?」

『いや、別にそういう理由じゃなくて! いやそれもあるけど……ともかく! 曲辰君から感想を貰いたくて着飾ってるんじゃないから! 気にしないでもらって!』

「いやボク、結構酷い服装の時もあるし……うん。いやホント気が回らなくてゴメンナサイ」

『私の自己満足だからそこまで気にしないで!?』


 自己満足でもそう言うこと出来るの凄いけど……んー、やっぱ小鳥遊さんは凄い人だね。


「いや、本当に申し訳ないからボクも少しは身だしなみに気を付けるようにするよ。映画館の人にも失礼にあたるだろうしね」


 そういえばボク、どんな服持ってたっけ……基本ジャージか上に羽織る系の厚手のものしか持ってない気がする。親のお古は体形が合わないせいで無理だし。少し買うかー。あ、でも土曜日どうしよう。最悪、ワイシャツでいっかな? アイロンがけすればまあ清潔感はあるように見えるかな? 薄いのがネックだけど。


『じゃ、じゃあ土曜、映画の後、時間ある? 一緒に色々見てみない?』

「マジ?」

『……大マジ』

「じゃあ是非に。というかいいの? 小鳥遊さんは萌生さんに聞いた方が無難だと思うけど」

『ははは……曲辰君に感想を貰えるだけでも、嬉しいから』

「……」


 ……流石にボクも鈍感とかじゃないから、小声で呟かれても聞こえるものは聞こえるし、お年頃なのも相まってそう言う方向に捉えてもしまうんだけどなぁ。

 なんというか、今日だけで新しい一面見え過ぎじゃない? 小鳥遊さん。


『? どうしたの?』

「いや――小鳥遊さんは凄い頑張り屋さんで、いつも凄いなーって思ってたけど、可愛らしい一面もあるんだなって」

『うっ……そ、それじゃあもう遅いからっ! またね!』


 そう言って小鳥遊さんは電話を切る。うわもう9時過ぎてるじゃん。さっさと風呂入ろ。

 それにしても――噂が本当になることも、そう遠くない内にあり得るかもしれない。

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ボクには彼女がいるらしい 束白心吏 @ShiYu050766

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