第5話

 ――そう言えば通知があったなぁ。と思い出したのは夕飯を食べ終え、ソファーに埋もれて何の気なしにテレビを眺めていた時である。

 はてさて、誰からなのやら……メッセージアプリを開けば、一番上には何かで盛り上がっているのだろうクラスのグループチャットがあった。まあいつも通り無視の方針で。

 で、通知があったメッセージの差出人は……『小鳥遊たかなし琳歌りんか』。ボクの最近の映画友達であり、ランニング仲間でもある女子からだった。

 凡そ二時間前に送られてきたメッセージには「近いうちに話す場を設けたい」なる旨の内容が書かれていた。取り敢えず時間をあけてしまったことを謝罪すると共に、ボクは疑問を打ち始める。


『何かあったの?』

『今流れてる噂について謝りたい』


 ボクのメッセージを送信して十数秒後にはそんな文言が返信されてきた。

 ……ふむ。つまり?


『とりま電話していい?』


 意味わからんから直接問い質そう。

 了承も得たので、小鳥遊さんに通話を繋ぐ。一応会話を親に聞かれるのが恥ずかしいため二階に。足の踏み場もないような自室のベッドに腰掛けて発信ボタンを押せば、数コールと待たずに小鳥遊さんは応答した。


「もしもし、聞こえてる?」

『ああ。聞こえてる。ところで何で電話に?』

「色々聞きたいことあるし、それを逐一打ってたら時間足りないから?」

『なるほど……』


 小鳥遊さんもボクの返信速度の遅さは知っている。言也にはそれで煽られて中々話が進まないなんてこともザラだし、どうにかしたいとは思うんだけど……ままならないよね。というか電話のが早いし楽だし、そんな顔を合わせずに今すぐ話したいなんてこともないし。


『それで、聞きたいことって?』

「とりま詳しそうだから件の噂の詳細とか?」

『そういうのは土槻つちづき君の方が詳しいと思うけど……』

「お恥ずかしながら誤爆があった云々しか聞いてないもので」


 目前に突き出されたあの画像をはっきり見えていればまた話は別だったんだろうけど、見えなかったからね。仕方ないね。


「だから相手のこととか、出来れば流れるに至った経緯とか? 小鳥遊さんが知ってる範囲で教えていただけたらって次第。ああ、先に小鳥遊さんの話からで大丈夫だよ。噂に関して、話したいことって?」


 ついつい気になり過ぎて忘れてたけど、小鳥遊さんもまた噂の話で何かメッセを飛ばしてきたのだ。


『……あー、じゃあまずは謝らせて』

「?」

『噂の件のあの誤爆……実は私の友人がしたんだ』


 ……ふむふむ? つまりなんだ。何かがあってボクが話題に出ている会話の時に、偶然にも別のチャットに誤爆した、と?


「ちなみに誤爆の内容って教えていただける?」

『そ、それは……ちょっと時間を貰っていい?』

「いいともー」


 まあ自分の友人が誤爆した尻ぬぐいで、自分達の恥を掘り返すんだし、心の準備くらいは必要になる――待て。確か他クラスの人間にも影響がある人物と噂されてるっぽいんだよね? てことはもしかして。


「ねえもしかして――」

『私と曲辰君がお似合いだね――って!』


 ――。

 ――――。

 オーケーオーケー。一度冷静になろう。まずは現状把握だ。

 事の発端は小鳥遊さんのご友人の誤爆。すぐに消したようだけど、言也含む一部の輩が見ていたようで「ボクに恋人がいる」なる噂が立つ。それも他クラスからも注目を浴びる程の有名人。で、その相手が小鳥遊さん、と。


「……マジ?」

『マジじゃなきゃこんなこと言えないって……』

「だよねぇ」


 小鳥遊さん、嘘とか下手そうだし。

 しかしまあすると、色々と納得は出来る。

 小鳥遊さんはウチの学年で知らない奴はいないくらいの有名人で、闊達な性格で男女問わず分け隔てなく接することから仲の良い人も多いため、他クラスの生徒にまで影響はあるだろう。教師からの人望も厚いし、顔立ちも整っていてスポーツ万能……まあハイスペックなお嬢さんだし。噂では下級生からも慕われており一部女子からは『お姉様』なんて呼ばれてるとか何とか……ってのはさておくとして、だ。

 そんなハイスペック同級生と付き合ってるって噂の男がボクだと? この噂考えたやつセンス壊滅してるね。


「取り敢えずまあ噂については納得したよ。だけど誤爆の件は小鳥遊さんが謝ることじゃないと思うけど、またどうして」

『いや、誤爆する発端は私だからさ……実は』

「? 小鳥遊さんが恋人云々に関する話題を出したってこと?」

『そうじゃなくって……いやそうなんだけど、そうじゃないんだ』

「とりま落ち着こう。深呼吸しよう深呼吸」


 どこぞの政治家のようなことを言いだした小鳥遊さんを一旦止めて、ボクも一緒に深呼吸する。

 吸って――吐いて――なぜボクもやったのだろう。混乱してたのかね。


『スマン――私達は恋人云々って話じゃないんだ。偶然、そう解釈できる部分を萌生めいが誤爆しただけで』

「ボクと小鳥遊さんがお似合いって?」

『……うん』


 小鳥遊さんは気まずげに頷く。

 あー、まあ自分のことを言われれば恥ずかしくもなるか……混乱してそこまで気が回らなかった。猛省。


「と、取り敢えずわかった。謝罪は受け入れる。小鳥遊さんのせいじゃないし」

『ゴメン――』

「謝らないでって。というか小鳥遊さんも気まずいだろうに色々聞いて申し訳ない。

 ボクには実害あったわけじゃないんだし、気にしないでいいよ」

『わ、私は気にしてないから大丈夫だ! む、寧ろ渡りに船っていうか……』

「?」


 後半部は早口&小声過ぎて聞き取れなかったけど、はて……。


『あとだけど! その……曲辰君は、「私と付き合ってる」って噂……どう思った?』

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