第65話(終話)それでも前世よりはましだろう
「ところで先程ミーニャさんが、『なにも壊さずに解決できたのは久しぶり』と言っていましたけれど、普段はどんな感じなんですか?」
「例えばメギア洞窟では、洞窟より上の岩石や土砂を吹き飛ばして、山を半壊させたニャ」
えっ!?
「山を半壊させた、ですか」
「メギア洞窟にいたチェルナボーグは、光がない場所ではほぼ無敵の魔物です。ですので空が見える環境にしなければ殲滅できませんでした」
クリスタさん本人がそう解説、もしくは弁解した。
だから間違いなく事実なのだろう。
「その前のカリギア遺跡の時は地底湖を爆破して、第九階層以下の階層を水没させたのニャ」
「此処の洞窟と同様の、アンデッドを自動発生する仕組みでした。ですが長年攻略されないままだった結果、発生した魔物の数が一万体を超えていました。個別に倒すことは困難だと判断しましたので、地底湖に聖別祈祷をして湖水を聖水化した後、下層へ流したのです。魔物は全滅しましたし、水流によって仕組みも破壊できました」
今のやりとりで、俺は理解した。
解決の為には手段を選ばないタイプという事か。
そして手段を選ばない場合、大規模破壊なんて魔法を使う事が可能だと。
なら念のため、確認しておこう。
「もし今回、俺が釣り道具を使用した方法で
「……やはり周辺を崩して、空が見える環境にするのが一番簡単です。外の光が入る環境になればアンデッド系魔物の力は弱まりますし、崩れた土砂で
カサクラ谷が埋まってしまいますが、居住者はいないので問題ありません。坑道も露出してしまいますが、むしろ露天掘り出来る環境になるので、採掘効率は上がる事でしょう」
なるほど、クリスタさん的解決方法がよく理解出来た。
ならついでの再確認だ。
「参考までにどんな魔法で山を崩すのでしょうか」
「一番簡単なのは、帯水層で水蒸気爆発を起こす方法です。山肌近い部分から順に爆発を起こせば、綺麗に崩すのは簡単です。エイダンさんの魔力があれば問題無いでしょう」
ほぼ完全に理解出来た気がする。
クリスタさんが、危険人物だという事を。
「取り敢えず今回は、現場を崩さず解決出来たのニャ。だから問題はないのニャ。あと、補食の査定が終わったのニャ」
ミーニャさん、いつの間に。
大丈夫だろうかと思いつつ、記載事項を確認する。
うーん、これは……想定外だ。
「材料については小魚一匹まで完璧です。何処かにメモしていたんですか?」
フライや南蛮漬け、煮物で出した小魚まで、匹単位で記載されていた。
俺自身でさえそこまで把握していない、という位に。
「一週間程度なら問題無いのニャ。残念ニャがら食べられなかった物も含めて全部、覚えているのニャ」
「意外かもしれませんが、ミーニャさんは事務能力も高いのです。派遣していた商業ギルドからも、移籍して欲しいという話が何度もあった位です」
「商業ギルドは言葉使いまで面倒なのニャ。そもそも外に出ないで書類相手なんて性に合わないのニャ。食べて寝て、時々戦う生活がいいのニャ」
「この魚や野菜類の値段も、把握していたんですか」
この質問はジョンだ。ミーニャさんは頷く。
「一昨日正午のドーソン中央市場のデータニャ。昼食の買い食いをしながら調べたのニャ」
何というか……
ミーニャさん、戦闘能力といい事務処理能力といい、無茶苦茶ハイスペックだったようだ。
食意地の張った駄猫、というイメージだったのだけれど……
「それよりエイダンとジョンは、これからが大変なのニャ。今日はお祝いにしろ、明日からは覚悟を決めておいた方がいいのニャ」
えっ!?
「どういう事ですか?」
俺より先にジョンが尋ねる。
「相当に凶悪な依頼でも何とか出来る。その能力があるという事が冒険者ギルドとクリスタにバレてしまったのニャ。ニャのでこれからちょくちょく、今回のような面倒な依頼にかり出されるのは間違いないニャ」
えっ!?
「あんな魔法や収納を使えるエイダンはともかく、俺は単なる弓使いですけれど」
「速射出来て命中精度も高い弓使いは何かと重宝するのニャ。ちょうど、魔法が使えない場所なのに
「そうですね。さしあたってジョンさんには、この先2週間でC級冒険者試験に合格していただきます。教本8冊を暗記すればいい程度ですから、そこまで難しくないでしょう」
いやクリスタさん。それって結構厳しいと思う。
俺は速読魔法でクリアしたけれど、魔法無しでそれをやるのは……
そして
教本に載っていた事例では
案の定、ジョンは絶句している。
すぐには返答出来ないようだ。
「あとエイダンもニャ。このレベルで搬送と偵察と攻撃を兼ねた魔法使いなんてまずいないのニャ。ニャのでどんな現場でも大助かりなのニャ。特に大人数で攻略出来ない故に放置されていた、遺跡や洞窟、高山での依頼には大助かりなのニャ」
ちょっと待って欲しい。
「俺は、生活できる程度に依頼を受けられれば、それでいいのですけれど」
「冒険者ギルドには特別指名依頼制度があるのニャ。未解決の重要案件を解決する為に、冒険者を指名して、依頼を受領させるという制度なのニャ。西部のギルドだけでもアレ関係の未解決案件が7件あるのニャ。ニャので遠からずエイダンには特別指名依頼が来ると思うのニャ」
ちょっと待って欲しい。
そう言おうと思ったところで。
「そうですね。ここ10年ちょっとの間、西部に限らず力のある冒険者がいなくて、重要案件の解決が滞っている状況にあります。ですがこの4人パーティでしたら、それらの大半を解決する事が可能でしょう。今まではこういった案件に安心して付き合っていただける能力がある方が、ミーニャさんくらいしかいませんでした。ですがこれで晴れて継続的な活動が可能となったようです」
「私も籠もって事務仕事するより、外に出る仕事の方がいいのニャ。それにこの手のお仕事を解決すると、依頼実施日数と同じだけ休暇が入るのニャ。その間は寝放題で食べ放題なのニャ!」
……理解した。
つまりこの先、俺の意思にかかわらず、依頼がやってきて解決せざるを得なくなるという事を。
これでは前世、業務過多で倒れたのと同じだ。
そう思いかけて、そして気づく。
解決すれば依頼日数と同じだけ休めるのなら、前世より遙かにましだと。
この点を確認しておこう。
「もし依頼が連続してくるとしても、間に必ず休みはとれるんですよね」
クリスタさんは頷いた。
「ええ、それは大丈夫です。特別指名依頼が連続する場合でも、必ず間に前の依頼にかかった日数以上の休みと、次の依頼に必要な準備期間は取る事と定められていますから。
ですからもし次にエイダンさんに依頼をお願いするとしても、
よし、ならば前世よりずっとましだ。
だからまあ、問題はないだろう。
「わかりました」
「なら早速ですが、
(FIN)
何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々 於田縫紀 @otanuki
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