第64話 そして在庫は減り続ける

「あとクリスタ、冒険者ギルド所定の費用算定書式を出しておいて欲しいのニャ。あれに今回の補食分については市場価格含めて私が書いておくのニャ」


「わかりました。それでは此処に出しておきます」


 クリスタさんは部屋の隅にある机上に紙とペンを出す。

 いいのだろうか、ミーニャさんに査定を任せて。

 そう思うのだけれど、クリスタさんが出したのなら大丈夫なのか、また別の意味があるのだろう。

 だから何も言わないでおく。


「それでは食べながら、情報公開の時間なのニャ。まずはアレについて、もう少し詳しく話しておくのニャ。という事でまずはクリスタが話すのニャ。私が足りないところは適宜捕捉するのニャ」


 キャラクターとしては、ミーニャさんが簡単に話して、足りない部分をクリスタさんが捕捉する方が正しいと思う。


 それが逆なのは、現状ミーニャさんが食べるのに忙しいからだろうか。

 限りなくそんな気がするのだが、取り敢えずは指摘しないでおく。


「そうですね。モリオンについてはある程度話しておいた方がいいでしょう。モリオンが直接的に攻撃してくるという事は無いでしょうけれど、モリオンが仕掛けたものに出遭う可能性はありますから」


 仕掛けたものか。

 今回のアンデッドに汚染された魔素マナによって魔物を発生させる仕組み。

 カンディルーが大量発生した裏にもそんな仕組みがあったのだろうか。

 定着した今は消えていると仮定して。


「まず最初に。モリオンは倒せません。一見ダークエルフに見えますが、実際は先祖返りのハイエルフです。精神生命体に近い存在ですから、肉体を完全に抹消させても死にません。数ヶ月か数年くらいで再生します。そして精神を消去する方法はありません」


 ハイエルフか。

 前世でも話こそ聞くが存在しているか不明な存在だった。

 まさか現物が出て来て、しかも敵だとは。


 そう思ったところで煮魚の汁かけおにぎりを食べ終わったミーニャさんが口を開く。


「ただ向こうも人間と戦おうとすることはない筈なのニャ。アレが相手を滅ぼそうとする場合は、対象がよほど悪逆な場合だけなのニャ。それでも普通は魔法で無理矢理改心させるのニャ。むしろクリスタの方が悪人に容赦しない分、危険なのニャ」

 

 クリスタさんが苦笑する。


「ありましたね。グルド要塞に住み着いていた盗賊団討伐の時に。国も始末に困って、結局は独立した開拓団として辺境に出したのでした」


「あれはクリスタが悪いのニャ。広域滅殺魔法なんて出そうとしたから、アレが出てきたのニャ。本来はアレが出てくる要素はまるで無い依頼だったのニャ。あとさかニャと御飯追加なのニャ。ご飯はおにぎりでもいいニャ」


「はいはい」


 おにぎりと魚料理各種を追加しつつ思う。 

 今の話を聞いているとクリスタさん、結構危ない人のような。

 むしろミーニャさんやモリオンの方がまともなように聞こえる。

 まあ事案内容の詳細を聞いたら、また話は変わるのかもしれないけれど。


「ですからモリオンが出ても恐れることはありません。倒す事は出来ませんが、攻撃される事もありませんから」


 恐れることはない、か。

 ただそれはモリオン個人に対してだろう。

 彼が仕掛けた魔物は危険なものが多いようだから。

 

「モリオンは人類が増え広がること、また知識をつけて魔法や技術を発達させることを否定しています。そして魔法や技術の発達、あるいは人口や居住区域の拡大を妨げる為、様々な妨害を行っています。カサクラ坑道に魔物が出現するようにしたのも、ダグアルに魔魚を繁殖させ河川交通を不可能にしたのも、その一環です」


「此処だけではないのニャ。南部砂漠の一定以上南の地域にレッドサンドワームが出るようになったのも、ヴェリイズ遺跡の10階層に倒せない魔物が出てそれ以上先に進めなくなったのも、おそらくはアレの仕業なのニャ。アレ関係は面倒な依頼が多いので、大体は塩漬けになっているのニャ。それともう少しさかニャが欲しいのニャ」


 仕方ないから更に出す。

 このペースで食べられると、3日分の副食も底を尽きそうだ。

 ついでにクリスタさんに確認をしておく。


「敵に回しても危険ではないけれど、国や地域が発展するのに邪魔で、かつ修正困難な状況を作っていく上、倒す事が出来ない存在。そう捉えればいいですか」


 クリスタさんは頷いた。


「ええ。それで基本的には正しいです。そしてその邪魔、モリオンが作った仕掛けが面倒なのです。魔物が強過ぎたり多過ぎたりで、普通のB級パーティでは攻略しきれない場合が多いですから」


「だからと言って放っておくわけにもいかないのニャ。ニャので仕方なく、何とか出来そうな冒険者を捕まえて、こうやって解決する事になるのニャ。それでも、ここまで何も壊さずに解決できたのは久しぶりなのニャ。あとさかニャおかわりなのニャ」


『なにも壊さずに解決できたのは久しぶり』か。

 つまりいつもは破壊的方法で解決してきたという事だろうか。

 非常に気になるが、俺がまず解決するべきなのはこちらだ。


「在庫切れです。それにそろそろ食べ過ぎじゃないですか?」


 本当はまだもう少し残っているが、それは俺の夕食用だ。

 これ以上在庫を減らすわけにはいかない。

 特にヒラメの刺身、楽しみにしていたのに3割以下まで減ってしまっている。


「そうですね。そろそろやめておかないと、動けなくなりますよ」


 クリスタさんも加勢してくれた。


「依頼は終了したのニャ。だから問題ないのニャ」


「まだ職員として、冒険者ギルドでの後始末が残っています。貸出道具の整備搬送、 評価書類の追記等、業務はいくらでもあるはずです。私は私で報告が多数残っていますので手伝えません。その辺はご存じだと思いますけれど」


「依頼完了は明日予定だったのニャ。ニャらそれまでニョんびりと……」


「依頼の早期終了も加点ポイントです。忘れましたか」


「……おニャかいっぱいでそのままばったり眠りたかったけれど、仕方ないのニャ」


 ミーニャさんは取り皿とフォークを置いて、そしてテーブルの方へ。

 先程クリスタさんが出したペンを持ち、猛烈な勢いで書類作成を始めた。


 さて、ミーニャさんの方は解決した。

 次は先程気になったところの確認だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る