第9話 テレビ出演
ミュージックプラネットは、生放送である。故に、失敗は許されない。
マーメイドテイルのメンバーは、佐々木マネージャーの車でテレビ局へと向かった。
通された控室で衣装に着替え、プロのヘアメイクさんに整えてもらう。鏡の前に、乃亜がいる。私の大好きな、マーメイドテイルの水城乃亜がいるのだ。
私は目を閉じた。
目を開ければ、私は乃亜だ。
そう、言い聞かせる。
パチリ、と目を開けた。鏡に向かって、にっこりとほほ笑んだ。
「うん、今日も私、最高!」
立ち上がり、メンバーに声を掛ける。
「さぁ、みんな。マーメイドテイルの魅力、存分に見せつけに行くよ!」
そんな私を見て、全員が目を見開く。
「……乃亜だ」
「乃亜たん……、」
「乃亜ちゃん?」
「なに変な顔してるのっ? ほらほら、出番だよっ」
背筋を伸ばし、ミニスカートを翻し、肩をぐるんとぶん回しながら歩く後ろ姿。
水城乃亜。
*****
収録はトークから始まる。
『今週のピックアップ』
というテロップが流れ、司会の二人に
「マーメイドテイルの皆さんです!」
と言われたところで出る。
「初めまして~!」
「ではまず自己紹介からいきましょうか」
そう、話を振られる。自己紹介の順番はいつも通りだ。
「はぁい! マーメイドテイルの癒し担当、岸野恵こと、めぐたんですっ」
恵が可愛くポーズをとる。
「はい! マーメイドテイルのセクシー担当、橋本杏里こと、アンですっ」
杏里が投げキッスをしてみせる。
「はいっ! マーメイドテイルの妹的存在、ダンスの上手な白木かえでですっ」
「ダンスがうまいって自分で言っちゃうんだ」
司会者の突っ込みに、スタジオがどっと笑う。
「そして最後は……はいっ! マーメイドテイルの絶対的エース、水城乃亜ですっ」
「おっと、こっちは絶対的エースときた!」
「ですです!」
私は人差し指で自分の頬を指し何度も頷いた。
「さて、マーメイドテイルのみなさんといえば、痛ましい事件がありましたが」
「でしたね! 乃亜ちゃん、もう大丈夫なの?」
ここで事件のことを語らなければならない。とはいえ、台本があるから問題はない。
「その節は、ファンの皆様にご心配おかけしました。と共に、世間を騒がせる結果となってしまい申し訳ありませんでした。私、もうすっかり元気なんですっ」
拳を握ってみせる。
これで事件の話は終わるはずだった。が、
「事件後、何か違ったりしてる?」
司会者のアドリブが入る。メンバーに緊張が走るのを感じた。
「ええ? 変わったことですかぁ? ……あ、ありましたぁ! 前と違うこと……、」
わざと声のトーンを上げ、
「なにっ?」
司会者を前のめりにさせ、
「メンバーが優しくなった!」
スタッフから笑いが漏れた。
「ちょっとぉ、それじゃ今まで私たちが優しくなかったみたいじゃないっ」
杏里が突っ込み、また笑いを取る。
「ひゃ~! 違うっそういう意味ではっ」
あはは、と大口を開けて、笑う。
「ところで乃亜ちゃんは、今度映画に出演するそうですが?」
話の流れが戻る。
「そうなんです! スクリーンデビューなんです、私!」
「なんで役者をやろうと?」
ああっ、この質問も、台本にない!
「……私が出演させていただく映画、カレントチャプターは、皆さんご存じかと思いますが少年漫画です。なんですけど、実は私も母もこの漫画が大好きでして!」
「へぇ、そうなんだ! 俺も好きなんだよ」
司会者が乗っかってきた。それ、いただきますっ。
「ですよねぇ! めちゃくちゃ面白いですよねぇ? 誰推しですかっ? 私、この話三時間できますけどっ?」
「乃亜たん、やめなさぁい!」
恵に突っ込まれ、引き戻される。ギャラリーがドッと沸く。
「でも、他のメンバー的にはどうなの? 乃亜ちゃんばっかりずるい! みたいなの、ないわけ?」
あ、なんだか意地悪な質問を持ってきた。これ、あの事件、実は恵が自分のファンにやらせたんじゃないか、とかいう最低な憶測があったせいかも。
「それは……、」
おずおずとかえでが口を出そうとした、それをひったくる。
「かえちゃんはメンバーの中で誰よりダンスが得意です。他のダンスグループの方とコラボとかしたら面白いかな、って思います。アンは抜群のプロポーションなので、モデルでもグラビアでもいけますし、めぐたんは……わかりますよね? この可愛さ。個人的にはアニメにこの声を当ててみたいですっ。マーメイドテイルは個性の塊なので、バラ売りも出来ま~す!」
トーク時間の残りを目で追いながら、全部使い切る。
「おっと、宣伝してる間に時間が来てしまいました。では、歌のスタンバイを!」
促され、席を立つ。
「乃亜、あんた」
杏里が歩きながら小声で話し掛けてくる。
「ごっめん! 私一人で喋りすぎた!」
私は手刀を切るようにして三人に軽く頭を下げた。
「いや……そうじゃなくって」
「うん、私も、」
恵も、私を見る。
「乃亜ちゃんが、乃亜過ぎて驚いてるだけ」
かえでが言うと、杏里と恵が声を揃えて
『それな!』
と言った。
四人は顔を見合わせ、笑う。
そして四人で、位置に着く。
ここからがマーメイドテイルの舞台。本物の乃亜はここにはいないけど。乃亜ならどうする? 常に思いを巡らせる。
テレビの向こう側、どれほどの人が見ていてくれるかわからないけど、マーメイドテイルを知ってもらうため、精一杯のパフォーマンスを、ここに!
スポットライトが、光る。
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